第60話京都行を前に、兄嫁圭子、兄晃との会話
翼は、慎重な物言いをするしかない。
「当たり障りなく、料理を食べて、お話をします」
「周囲に迷惑がかからない程度に」
圭子は翼をなぐさめる。
「翼ちゃんなら、上手くやると思う、心配はないと思う」
しかし、圭子は、不安で仕方がない。
翼が神経を使い過ぎて、胃痛に苦しむのを何度も見て来ているから。
それで、どうしても今の様子を聞きたくなった。
「なあ、翼ちゃん、夕飯は食べたん?」
翼は、素直に答える。
「いや・・・今夜はまだ・・・おなかが空かなくて」
圭子
「自分で作っとるん?」
翼
「いえ・・・たまに外食して」
「源さんのお弟子さんの店とか」
「昨日は鎌倉で武さんがいる店で」
圭子
「なら・・・少しはいいけど」
翼
「朝はパン焼き機でパンを焼いて」
「まだ、お米買っていなくて」
圭子は、少し笑う。
「それはあかんよ、日本人やもの、お米を炊いて食べんと」
「心配やから、送るよ」
「近江のお米でどう?」
翼は、うれしくなった。
「うん、姉さん、助かります」
圭子は、翼の京都行きの話に戻した。
「なあ、翼ちゃん、神経は病まんでな」
「普通に、いつもの通りにな」
翼は、兄嫁圭子の心遣いがうれしい。
「うん、大丈夫、何とかする」
「姉さんにも、しっかり報告するよ」
兄嫁圭子との話が終わり、翼は再びベッドに寝転ぶ。
「西陣のお嬢様、可奈子」を懸命に思い出そうとする。
「小さな頃、一緒に遊んだと言っても」
「男の子も女の子も多かったしなあ」
「その時に圭子姉さんもいたな」
「可奈子さんねえ・・・強気なお嬢様?」
「わからないなあ・・・思い出さないと、失礼かなあ」
しかし、思い出せないことには、仕方がない。
あまり考えると、また胃が痛くなるので、少し動こうと思った。
「京都行の準備をするかな」
「スーツの準備とか、いろいろ」
「和服は着たくないな、そんなに形式ばりたくない」
そんな準備をしていると、兄晃から電話。
「圭子からも話がいったかな」
翼
「うん、心配してくれた、お礼を言っておいて」
「何とかする、当たり障りなく」
晃
「神経使わせてごめんな、忙しいのに」
翼
「いいよ、家のためだから」
晃は申し訳なさそうな声。
「翼を婿に欲しがるとか、嫁に来たいって話が多くてさ」
「翼は今は、とても、そんな気持ちには、なれないよな」
「せっかく東京の大学生になったのに」
「一番自由にできる時期なのに」
翼は「兄も、あちこちから言われて気苦労があるのかな」と思って、聞いている。
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