第29話翼の知らない場所で、「翼談義」が進む。

女子大生四人が翼を巡って難儀していると、恵美の母良子が話題に加わる。

良子

「昨日の夜も言ったけれど、上手にお付き合いなさい」

「翼君は、東京に越して来たばかりで、まだ入学前」

「あちこち、振り回さないほうがいいかな、大変と思うよ」


良子の大人の意見で、女子大生たちは、「そうよね、正解」「可愛いから、どうしてもご一緒したくなるけれど」「うーん・・・逢いたいな、でも」「面白い話も聞けそうで」と、また様々な反応。


良子は話題を変えた。

「翔子ちゃん、翼君は、あの超名門レストラン兼ホテルグループのやがては経営者になるんだよね」

翔子

「そうですね、お兄さんが今はトップで」

「翼君は、あのグループのどこかを任されるのかな」

「おそらく料理部門の・・・味覚はすごいし」

真奈

「一度泊まってみたいなあと、高いけれど」

「一泊、最低5万?おもてなしは極上だけど」

美紀

「でもね、あんな高級なお食事で、マナーが心配」

「翼君のお知り合いでお食事して、恥ずかしいこと出来ないって」

恵美

「とても郷土料理研究会のレベルではないなあ、それを考えると」


女性たちの話が、袋小路に入っていると、恵美の父シェフ隆がクッキーと紅茶を持ち、話に加わった。


父シェフ隆

「俺の駆け出し当時の師匠だった源さんって人がね、翼君の関係する本館のレストランの料理長でね」

「昨日の夜、翼君が帰った後、懐かしいから電話したんだ」


女性たちの注目が集まる中、父シェフ隆は続けた。

「源さんが言うのに、翼君の味覚は飛び切り繊細で、すごいと」

「翼君に相談して、指示通りに何かを加えたり、引いたりすると、確かに味は別格になる」

「でもね、源さんは、それを心配している」


父シェフ隆が難しい顔になった。

「源さんが言うのにね、翼君には、気分転換が必要と」

「都内での大学生活でも何でもいい」

「味覚とかホテルの世界から一旦離れて、別の世界を知ったほうがいいかなと」

「翼君は、困っている人にやさし過ぎる面があって」

「何があっても助けたくなる性分」

「例えば、味付けで苦しんでいる料理人の相談に乗って」

「それで、自分まで苦しんでしまう」

「酷くなると、つきあい過ぎて翼君自身が体調を壊してしまったことが何度も」

「でもさ、経営者になると、厳しさも必要なんだ」

「料理人自身に苦労させないと良くない場合もある」

「翼君に頼り過ぎるしさ、それも悪かったと」

「翼君もやさしいばかりでは、身体を壊すよ、経営もできない」


翔子が、思い当たることがあるらしい。

「そうなの、時々、それあった」

「朝、学校で顔見てさ、目の下にクマがあって、いかにも疲れ顔」

「どうしたの?って聞いたら、煮物の味がどうとか」

「寝てないって、それで身体が持たなくて結局保健室に」

「あまり酷い時は、午前中で家に帰ったこともある」


真奈は不安。

「そうなると・・・私たちにも、気を遣っていたよね・・・・心配になって来た」

美紀は顔を下に向けた。

「辛かったのかな、実は・・・でも可愛い・・・もっと逢いたくなった、癒してあげたい」

恵美

「でもさ、気分転換させないとさ、都内に来たのも、それが目的の一つだよ」

「真奈と美紀の言う通りだよ、心配してあげて癒してあげようよ」


良子が翔子に質問。

「ねえ、翼君は料理以外には何か目立つものは?」

翔子の答えは早い。

「いろいろあります、歌はメチャ上手、ダンスも出来ます、読書は古典から外国小説まで幅広い、スポーツは合気道と水泳他全般、写真も上手、映画も好き」

「それだから、どんな話題にもついていけるし、合わせ上手」

「だから、レンタル彼氏には最適と・・・」


などなど、翼の知らない場所で、「翼談義」が進んでいる。

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