第27話心春と大学下見デート(2)心春のプチホームシックを翼が癒す
心春が何を考えていようと、昨日今日あったばかり。
翼は、心春の実家のことなど、気にする立場ではないと思う。
「ただ、大学の同じ新一年生として、これから通う校舎を一緒に見に行く」だけなのだから。
井の頭線に乗り、翼は話題を変えた。
「入学式が武道館、九段下で降りれば、同じような学生がゾロゾロ歩いているはず」
「だから、道案内はいらないかと」
心春は、また翼に身体を寄せる。
「一緒に行ってくれます?」
「路線も駅名だけでは、全くわからなくて」
「雑踏が苦手で・・・迷子になるかと」
「知らない人ばかりの中って、怖くて」
翼は、ここでも仕方ないと思う。
「路線は都営新宿線でいいかな」
「まあ、アパートも隣なので、武道館までは一緒に行きましょう」
「帰りは来た道を帰るだけです」
と、素っ気ない返事。
すると、心春は翼をじっと見る。
「田舎者で道不案内で、方向音痴なんです、追いかけますよ」
これには翼も苦笑。
「追いかけられても・・・わかりました、一緒に帰りましょう」
そんな会話をしていると明大前に到着。
そのまま和泉校舎に入り、キャンパスを散策。
校舎を見たり、グラウンドを見たり、歩いている学生を見る。
心春はうれしそうな顔。
「これが大学のキャンパスなんですね、広いなあ」
「それと、新しい校舎が多くて、すごく都会感がします」
「いいなあ、この解放感・・・スッとします」
翼は、「今日はレンタル彼氏ではない」と思うけれど、さっきのように、じっと見られても如何なものか、と思うので話題を合わせる。
「実家とも、もちろん、家族とも離れて、自由な学生生活」
「これは、地方出身者の特権ですね」
「実家から通学する学生は経済的には楽だけど、精神的にあまり変わらないのかな」
心春は、歩きながら翼に身体を寄せる。
「それは、そう思います」
「でも、地方出身者も自由だけれど、不安も寂しさもあって」
「残してきた家族とか・・・いろいろ」
翼は、顔と声をやわらかくする。
「心春さんは、家族思いなんですね」
「心がやさしい、いい人かなと」
心春は、遠くを見た。
「どうしても金沢を出たくて、都内の大学に来て」
「でも、不安もあって、田舎者で」
「路線図とか見ても、スマホの案内を見ても、わからなくて」
翼は、そんな心春を少し笑う。
「心春ちゃん、そんなこと、地方から出て来れば、みんな一緒」
「知らない世界に入れば、誰でも最初はカルチャーショック」
「それを乗り越えて来たの、大丈夫だよ」
「いじけて、もうホームシックなの?」
翼の笑顔で、心春も笑顔を戻す。
「急に、心春ちゃんって言うから・・・ドキドキするし」
そして、急に関西風の言葉に変わる。
「あーーーあかん・・・関東の言葉も緊張するわ」
「はぁ・・・でも何やろ、つい本音を翼君に」
「恥ずかしいなあ・・・翼君・・・話しやすい、ほんまに」
「ずっと一緒にいたいなあ・・・安心感たっぷりで」
「でも、今のは、翼君があかん、うちはほんまにドキドキや」
翼はプッと笑う。
「心春さんが、心春ちゃんって呼んでって」
「でもいいか、笑顔に戻れば」
「それじゃ、神保町まで行くよ、路線覚えている?」
心春の表情が、また変わった。
「あーーー意地悪!許せん!」
心春は実に強引に翼の手を握っている。
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