第24話翼は翔子を説得するけれど

翼は懸命に考えて条件を出した。

「まずは、明日は自由にして欲しい」

「連絡とか、明後日以降に」


翔子は沈んだ声。

「う・・・うん・・・明後日まで待つ・・・」

「つまんないけど・・・翼君、怒っている?」


翼は「仕方ない」ので、声をやわらげる。

「怒ってはいない、でもね、レンタル彼氏って疲れる」

「最初から最後まで気を遣うし」

「相手もそうかもしれないけれど、続くと大変」

「初対面の女の人に、話を合わせるって大変なの」


翔子の声が、少し明るくなる。

「じゃあ、私には?」

翼はプッと笑う。

「翔子さん?何も気を遣わない」

「だから文句も言えるし、愚痴も言えるの」


翔子は、ますます明るい声。

「何よ、気を遣わないって」

「女と見ていないってこと?彼女にならないってこと?」

「マジに張り倒したくなるって、その言い方」


翼は、またプッと笑う。

「それはそうさ、夜中に酔っぱらって押し掛けて来て」

「勝手に大騒ぎして、大いびきで寝る女性って、憧れる?」

「女性としてのたしなみってあるの?」

「僕は、いびきフェチでないって」

「まあ、いびきフェチも滅多にいないけどさ」


翔子は、翼の返しに「うっ」と詰まるけれど、それを言われたら仕方がない。

「じゃあ、明後日ね、連絡する」と、ようやく長い電話が終わった。


翼は、またドッと疲れた。

「はぁ・・・面倒」

そして「明後日」と言ったことも、後悔。

もう少し日をおいてもよかったと思う。

ただ、それを言うと、翔子は泣くか怒るか、それが嫌。


それでも、この憂鬱な気分を変えたいと思った、

PCを開いて、明日の出かける先を考える。


「せっかく都内に来たんだから・・・」

「東京らしい所に行くのが筋かな」

「まずは、浅草かな、仲見世を歩いて」

「お蕎麦か天丼や洋食か」

「その後は寄席かな、でも定番過ぎかな」


それでも、考えていると眠くなってしまった。

美紀と横浜を歩き、その後は恵美の洋食店、それからは翔子との長電話。

結局、疲れていたのだと思う。

ベッドにもぐりこみ、温かさを感じていると、どんどん眠くなる。

そして、結局眠ってしまった。


その翼が目覚めたのは、翌朝午前7時過ぎ。

ホームベーカリーから、パンが焼き上がる独特の美味しそうな香りが漂って来る。


「うん、いい香りだ」

「シンプルに焼き立てのパンとレタスサラダ、珈琲にしよう」


翼がベッドからおりると、思いがけずチャイムが鳴った。

「こんなに朝早く?」

「いったい誰?」


翼が少し待っていると、インタフォンから若い女性の声が聞こえて来た。

「隣の伊東心春です、あの、お差し支えなければ、朝食をご一緒に」

「昨日の家具を動かしていただいた、お礼もしたくて」


「お隣さんか・・・互いに引っ越し直後から関係を悪くするのも、いかがなものか」

「でも、これでは今日も最初から自由がない」

翼はため息をつきながら、「わかりました、少しお待ちを」と答えている。

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