第16話ヴァンパイヤ美紀(4)

「もう・・・しょうがないな」

翼も、美紀をしっかりと抱く。


すると美紀の声が湿った。

「ありがと・・・うれしい」


翼は、もう一度ギュッと強く抱き、美紀と身体を離す。

「ブリキのおもちゃに行きましょう」


美紀はコクンと頷く。

「うん・・・フラフラするから、引っ張って」

翼は美紀の手をやさしく握る。

「歩けなかったら、おんぶしましょうか?」


美紀は、「え?」と驚いた顔。

翼は、クスッと笑って言葉を続けた。

「お姫様抱っこでもいいですよ」

美紀がまた、ドキッとした顔。

「・・・翼君・・・お姉さんをからかうの?」


ただ、そんなことを言いながら、美紀も翼の手をキュッと握る。

そして、心が浮ついて仕方がない。

「翼君、可愛いなあ・・・」

「しっかりしているし・・・抱き心地もいいし」

「・・・抱かれ心地も・・・たまらない・・・」

しかし、元町公園を出てしまえば、人も歩いている。

そうなると、あまりベタベタも出来ないので、残念。


翼が左側を見た。

「ねえ、美紀さん、外人墓地です」

美紀が「うん」と応じると、翼は意味深な顔。

「夜に入ると楽しそうですね」


美紀は、またドキッとして、「え・・・うん」と、しっかり反応ができない。

それでも「怖いよ、そんなの」と返すと翼が笑う。

「ヴァンパイヤ美紀さんでも怖いの?」

美紀は、「うっ」と言葉につまる。

「してやられた感」が本当に強くて、何とか翼をやりこめたくなった。


美紀は翼から手を離し、強引に押し付け気味に腕を組む。

すると翼が恥ずかしそうな顔で下を向く。

その下を向いた瞬間を、美紀は逃さなかった。

そのまま、唇で翼の首筋を襲い、そのまま顔をあげて翼の耳に「ふっ」と息を当てた。


「うわ!美紀さん!」

案の定、翼の身体がガクンと揺れた。


「ふふん、やっと勝った」

美紀は、翼の大慌てが面白くて仕方がない。

それと同時に、真っ赤な顔が、本当に可愛い。


今度は美紀が反撃。

「いたずらすると面白いなあ、翼君」

「スキありで、一矢報いた」


翼は、口を尖らせる。

「美紀さん、僕をおもちゃに?」

「年下と思って?」

「ドキドキするでしょ?」


美紀は、翼の抗議顔が、ますます可愛い。

「その前に散々刺激したり、脅かしたのは誰?」

「お姉さん、ドキドキしてたまらなかったもの」


すると翼が恥ずかしそうな顔。

「かなわないや、美紀さんには」

「まだまだ修行が必要だ」


美紀は、その翼の言葉が面白い。

「じゃあ、私がお師匠さん?」

「翼君が、弟子かな」

「手取り足取りね、うんうん、いいよ、翼君なら」


そこまで言って、美紀は思った。

とにかく翼を離したくない。

接していて可愛くてたまらない。

「マジにやばいかも、翼君って美味しいお菓子みたい」

「・・・食べたくなって来た」


美紀の足は、再び、ふらつき始めている。

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