第10話「仕方ない」翼と、翔子の看病申し出

翼は、お腹を抑えながら、声を出す。

「そもそも、翔子さんが決める話でないでしょ?」

「誰に言われたとかも関係ない」

「僕が動くんだから、僕が決めることだと思う」


翔子は困り顔が変わらない。

そして粘る。

「デートと言っても、恋人とばかりでなくてさ」

「例えば、年下として、弟みたいな感じで」

「それだったら気楽では?」

「お買い物のお手伝いとか、荷物持ちとか」


翼は嫌そうな顔を変えない。

「それも不純、酷い不純」

「仮の弟ってこと?気持ち悪い」

「女性に買い物の手伝いは面倒だよ、男は」

「それと、何で見ず知らずの人の荷物持ちをするの?」


翔子は困った顔から、少し涙顔に変わった。

「そんなこと言ってもね・・・メチャきつい人だしさ」

「言い出したら聞かない人、私以上だよ」

「ああ・・・明日から・・・私にも嫌味、真奈ちゃんにも嫌味・・・」

「それが・・・ずっと続く・・・」


翼は、ますます困る。

翔子の性格は幼稚園の時から知り抜いている。

言い出したら聞かないうえに、泣き出すといつまでも泣く。

そして、慰め役は、何故か年下の翼だった。


そして、結局また、「仕方がなく」になった。


翼は、痛む胃を懸命に我慢して、翔子に声をかけた。

「ねえ、翔子さん、わかった」

「でも、条件つけていい?」


翔子は涙顔のまま、翼の手を握る。

「うん・・・ありがと・・・」

「で、条件は・・・何?」


翼は思ったことをそのまま。

「胃が痛いから、少し治るまで待って欲しい」

「明日薬を買って来る、それを飲んで治ったら」


翔子は、ホッとしたような、でも心配そうな顔。

「そこまで痛いの?」

「薬、今、買って来ようか?」

「夕飯もまだでしょ?」


翼は首を横に振る。

「夕飯なんて、マジに無理」

「キリキリして、何も口に入れたくない」

「翔子さんには悪いけれど、もう寝たいくらいだもの」


しかし、翔子は、翼の言葉を聞かない。

「だめ、まず薬買って来る、そこで寝ていて」と言って、そのままアパートを出て行ってしまう。


翼は、また頭を抱えた。

「本当に何でも強引で」

「薬買って来て飲ませるつもりかな」

「でも・・・胃痛の原因は翔子さん」


それでもベッドに横になっていると、約10分後、翔子が戻って来た。

翔子は、テキパキとした言い方。

「お薬と、その後に治ったら食べさせてあげる」

「ああ、私が作るからいい」

「一緒に食べるように、余分に買った」

「昔から、翼ちゃんの看病は私の役目でしょ?」


翼は「うっ」と言葉に詰まるけれど、翔子の動きは速い。

「まずはこれ」と、胃薬と湯飲みにぬるま湯を入れ、翼に渡している。


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