第30話 第二章 『さあキスをしよう! 話はそれからだ』(21)

 ・・・一人でも、対処出来なくてアタマ抱えているってのに。

 だが自分のアパートの前で、わぁわぁ騒いで衆目を浴びる必要は無い。

 ただでさえ、傍目には古代エジプト超絶美女ふたりで目立ちまくっているんだから。

 とりあえず、クレオパトラの手を引いて自宅に連れ込む。

 当然セクメトナーメンもこちらを(というかクレオパトラを)追ってついてくる。

 ふたりを玄関に押し込んで、さっさとドアを閉める。

 やれやれ・・・ここなら話し込んでも大丈夫。

 嫌な汗が滲む額を拭って、俺は安堵のため息をついた。

 ・・・問題、いや疑問はなにひとつ解決していないのだが。

 ◇◇

 彼の部屋に入ってすぐ、妾は目を剥いた。

 まずは、ハチにいろいろ事情を説明しないといけないのだが・・・、

 こ、これは・・・。

 だがその命題より、先に妾の眼が壁に釘付けとなった。

「なあ、ハチ! これはなんなのだ? この建物を造っている壁の材質が分からぬ。これは日干し煉瓦ではないし、表面もなだらかで・・・でも大理石というわけではないし、石より柔らかそうで・・・見たことがない」

「ああ、そうか。新王国時代でも建築物の主流は日干し煉瓦だもんな。それ以外というと神殿とか王宮に使う花崗岩や、大理石といった石になるしな」

「そのとおりだ。ここは王宮ではないのだから・・・日干し煉瓦が普通であろう?」

「現代では、技術が進んでいるからな」

 いままで、言葉の上で『二千年未来』と扱ってきたが、こう・・・何と言うか物的証拠を目の前に突き付けられると、正直言葉を失ってしまう。

 二千年の時の隔たりというものは、建築資材ひとつとっても、想像つかないレベルになっているのだな・・・。

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