第十四章~バスケット・ケース~⑪
そのことだけでも、当初の想いを十分に果たせたと感じていたが、秀明から、校内放送の企画を聞き、その番組に誘われたことは、予想外の出来事だった。
さらに、翌日、放送部に顔を出した際に、昭聞から聞かされた『秀明の打ち明け話』は、自分にとって想定外であり、何故か、とても嬉しく感じられた。
なんだ、彼も自分と同じくらい、必死だったんじゃないか―――――――。
しかも、そんなに思い入れたっぷりに、《あの日》のことを友人に語るなんて――――――。
(あらあら、お可愛いこと――――――)
秀明に対する気持ちに余裕が出来たからか、その後、しばらくの間、彼には、からかいの対象になってもらったが、今にして思えば、自分ばかり楽しんで、申し訳ないことをしてしまった、と思ったりもする。
オススメの本として、『たんぽぽ娘』を読んでもらった時もそうだった。
ストーリーの流れから、彼が言いそうなことを想定し、思惑通り、仕掛けにハメることが出来たが、それでも秀明は、少し悪態をつく程度で、怒ったりせず、自分と両親にとって、大切にしたい作品である、という話しを落ち着いて聞いてくれた。
そして、なかば押し付ける様にして薦めたジェームズ・ティプトリー・ジュニアの作品群を、彼が読んだ時も――――――。
自分にとって、そして、家族にとって、とても大切な思い入れのある作家の作品だけに、理解してもらえなかったらどうしよう、それだけでなく、つまらなかったと言われたら――――――。
きっと、自分が否定された様な悲しい気持ちになっていただろう。
しかし、彼は自分が期待した通り、いや、それ以上に、ティプトリーの作品群と作家本人に興味を持ってくれた。
それでも、あまりのハマり様に、雑誌のバックナンバーなどを買い求める姿勢には、少し冷静になる様に諭したい気持ちもあったが……。
それが、自分にとって、どれだけ嬉しいことだったのかを他人に説明するのは難しい。
こうして振り返ってみると、有間秀明という人間は、いつも吉野亜莉寿が期待し、想定した以上の結果をもたらしている。
だからこそ、当初は考えてもいなかった自分の過去の思い出や両親から付けてもらった名前の由来も話してみようと思ったのだ。
何より、レイト・ショーを観に行った、あの秋の夜も――――――。
自分が通う学校の方針に不満を持っていること、将来のために海外の学校に転校しようと考えていることなど、他人からすると、《甘え》や《逃げ》と言える考えを彼は否定せずに聞いてくれた。
それだけでなく、自分の頭の中の考えだけが先走り、整理できていなかったことまで、簡潔に順序だてて、理解しやすくまとめてくれた。
そのことが、どれだけ心強かったか、言葉では表現できない。
そんな秀明に、両親との対話に同席してほしいと考え、その後も、二ヶ月近くの間、一人では自身の想いを両親に伝えられなかった自分の不甲斐なさが、つくづくイヤになる。
そして、去年のクリスマス・イブの日、結局、秀明に頼ることになってしまったことに対する申し訳ない気持ちは、いまだに晴れることがない。
こうして、時系列を追って振り返ると、秀明が、《亜莉寿=レンタル店の店員》だと気付かずに過ごしていた春先の期間以外は、多くの期間、自分のワガママで彼を振り回していたのではないかと感じる。
秋以降に秀明に頼りきりになってしまったことを含めて、亜莉寿には、罪悪感に似た感情が芽生えていた。
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