第六章~愛はさだめ、さだめは死~①

 夏休み前の最終日の放課後、一学期の放送を振り返る反省会と打ち上げを兼ねて、秀明と亜莉寿は、放送室に招待され、放送部の面々から感謝と労いの言葉をもらった。

 特に、番組プロデューサーを自認する高梨翼からは、


「最初は、どうなるかな~と思ってたけど~。地味な映画紹介ばかりで少し心配だったし。でも、最後の『耳をすませば』の紹介は、三人の息もピッタリ合ってたし、面白くてメッチャ良かったよ~。二学期からも、この調子でがんばって~」


と称賛の声をいただき、二人を、くすぐったい気分にさせた。

 その気分に耐えかねた秀明が、自嘲気味に、


「けど、僕は、あの映画の紹介の時、吉野さんとブンちゃんの二人にイジられた記憶しか残ってないんですけど……」


と答えると、昼休みの校内放送の実権を握っていると言っても過言ではない上級生は、にこやかな表情で即座に切り返す。


「あぁ~、それ有間クンの役目やから~(笑)バラエティー番組は、自分の役割をこなすことが一番大事なのはわかってると思うけど~。二学期以降も、イジられ役ヨロシクね~」


「えっ!? 『シネマハウスへようこそ』って映画情報番組じゃなかったんですか? しかも、ボクの役割は、新作映画を紹介することで、他の出演者にイジられることじゃないですよね!?」


 口角泡を飛ばさんばかりの勢いで、番組プロデューサーに訴える秀明の様子を見ながら、亜莉寿はクスクスと笑い、昭聞も笑いをこらえながら、


「秀明、翼センパイの言うてはることは、リスナーである全校生徒の意見も踏まえてのことや。ここは、今後も自分の役目を全うしてくれ」


と、言い終わるか終わらないうちに、「プハハ」と声を吹き出す。


「このプロデューサー、鬼や……」


 秀明がつぶやくと、


「人聞きの悪いことを言わんといて~。私は、放送部でもそれ以外でも、《仏の高梨》として知られてるのに~」


と翼が応じる。

 よく見ると、「ウンウン」とうなず昭聞以外の部員は、ほぼ全員が渇いた笑いを浮かべている。

 色々と状況を察した秀明は、それ以上の反論を行うことなく、放送部に用意してもらったドリンクでの「乾杯!」の声に応じた。



 打ち上げが解散になったあと、帰り支度をする秀明に、亜莉寿が寄ってきた。


「はい! これが、夏休みの課題図書」


 彼女が満面の笑みで、秀明の目の前に置いたのは、四冊の文庫本。前月の打ち合わせ時に予告された通り、いずれも、アメリカのSF作家、ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの短編集だった。

 高梨プロデューサーから、直々にお誉めの言葉をいただいたからか、あるいは夏休み前という高校生の気持ちが、最もハイになる時期であるためかは判断が付かないが、彼女の上々のテンションに、若干、面食らいつつ、


「あ、ありがとう。今回は、たくさん貸してくれるんやね?」


と、秀明が返答すると、当然だろうという感じで、亜莉寿は断言する。


「うん! 夏休みだしね。本を読む時間も、たっぷりあると思って!」


「そ、そうやね。なるべく早く読み終わる様にするわ」


「じゃあ、読み終わったら、ウチに連絡くれない?平日のお昼の時間帯なら、私が電話に出られると思うから!」


 いつも以上に前のめりな状態の吉野亜莉寿の態度に、内心で戸惑いつつ、文庫本を受け取る。


「あ、それから……この四冊は、作品の発表順に『故郷から一〇〇〇〇光年』『愛はさだめ、さだめは死』『老いたる霊長類の星への讃歌』『たった一つの冴えたやり方』の順番で読んでもらう方が良いかな? あと、出来れば、各巻のあとがきは、四冊全部を読み終わってから、まとめて読んでもらうと嬉しいかも」


 そう話す彼女の言葉に、秀明は


(本を読む順番まで指定するんかい!)


と苦笑しながらも、


(まあ、彼女が、そこまで言うからには、何か理由があるんかな)


と受け止めて、《この夏の課題図書》に挑むことにした。

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