28話 一イベ去ってまた





 春祭が終わって梅雨。部室入り口の傘立てが溢れかえるぐらい、多くの新入生が入部を確定させていた。


 タカギ先輩の「反省会は……やる?」にドミノ先輩が「いらないでしょ」と言って始まった久しぶりの会議で、まさかの新イベントが発表される。


 どうやら文学フリマに続く同人即売会が開催されるみたいで、そこの学生部誌のコーナーに部誌を提供してくれませんか?という話が来ているとのことだった。例年なら春祭で配った余りを出せるのだけれど、今年は白玉をやっちゃったせいで出せない。


「そこで、どうせ今月は新入生に小説を書いてもらう予定だったし、新入生の小説集めて部誌にするってことでいいよね?」


 同意するしかないが、少々困った。小説の指導は今、ゼミでやることになっているから、恐らく手直しや1回目の批評には確実に先輩の魔の手が加わることになる。それに、ぼくらが全ての批評に入れるとは思えないし、多分Kさんも部室に来ることはない。頭を抱えるしかない状況だけれど、さすがに新入生いじめは……先輩たちもしないだろう……と信じるしかなかった。


 ゼミを開講してから透明ちゃん無口ちゃんの2人組に加えて何人かが入部した(女子は先にドミノゼミの2人が入部していたので計4人にもなった!華やかになった!)が、ぼくのゼミには新しい部員は入らず。ぼくのゼミ担当は相変わらず雑食くんのみで気楽だった。


 雑食くんの小説で光るところといえば、割とハードな愛の形をそのまま書くところだろうか。ボーイミーツガールからの告白→付き合うの王道展開の後、そのままディープなキッスをかますところまで詳しく描写する。特にファンタジー要素を入れないので、付き合ってすぐにディープ!?とぼくはびっくりしたのだけれど、物語フックと思えば面白い。なんならディープ止まりなのも面白い。付き合う前、付き合う後に最後までやっちゃうカップルの方が、意外と聞くしリアリティがあるけれど、なかなかディープだけで止まるカップルって特殊なんじゃないかと思う。


 そんな彼に、「次のイベントで小説出してもらいたいけど、いけそ?」と聞くと、実はすでに10000字くらいは書いてて……とパソコンをぼくによこす。内容はディープだ。いやキスもなんだけど、その先まで書いているし、ドロドロの四角関係が描かれている。ただ、身体よりも、心情の絡み合いやらが丁寧に描写されていて、小説としてかなり面白い。

「いけるやん!雑食くーん!」

 と思わずテンションが上がった。完結は14000字程度なんですけど、この先の展開迷ってて……と言うので、2人で小説の方向性やらテーマについて考察しながら、最善の終わり方を見出していく。なんだか担当編集みたい。雑食くんの小説は前回よりも書き手としての拙さがあまり見られなくて、詳しい描写が増えた。このまま書いていけば、絶対いい小説が書けると思った。このまま成長したら2年になる頃には、間違いなく小説が「上手くなる」。


 ちなみに、イベントに出す小説がもし足りないとなったら2年・3年の小説を出すから、暇だったら書いておいてとタカギ先輩にぼくも言われていた。

 一度挫折した純文学は諦めて、日常ミステリーのプロットを練っていた。3月から構想があるものを、雑食くんに指導しながら、片手間にプロットを固めていく。原案は「もしバンドメンバーの1人が、ライブ当日に突然行方不明になったら、それはどうしてなのか?」というところからスタートして、今はバンドが演劇に変わっている。1年の春祭で鑑賞した演劇部の演劇が、ストーリーの詰めが甘いような気もしたけど、補ってあり余る感動に、流されるものなら涙を流してやりたかった(感動で泣けないタイプ)。一応の拍手と、アンケートには高評価を記入したけれど、その時に脚本もいいなぁと思った。でも地の文が好きなぼくだから、結局小説に戻ってきそうな気しかしない。




 雑食くんには、プロットの練り方も指導したのだけれど、ぼく流のプロット構想のやり方がイレギュラーらしく、ちょっと受け入れられないとのことだったので、小説の読み方についてのゼミをよく開講していた。どこに意味があるのか、テーマ性に気をつけて考察して……そうやって読むことが書く重要性につながるのだと思っていたし、実際に示すために雑食くん含む色んな小説を読み込んだ。ぼくは背中で語る人になりたいので、指導した以上、批評は手を抜けないなぁなんて思った。手抜きしたことなんてないけど。

 

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