21話 文芸部なのに?






 春は文芸部。ようよう白くなりゆく雰囲気。




 そんな期待や空想をしながら、H棟前の道に秋祭の屋台みたくずらーっと並んだブースの一つに座っている。ブースは全て新入生勧誘のもので、ほぼ全ての公認サークルが参加する春の一大イベントである。

 タカギ先輩が「次授業やわ、1年……じゃない2年生よろしくな」

 と手を振ったのを皮切りに、ぼく、多田師、Kさんの新2年の作戦会議が始まる。多田師は帰省、Kさんは写真部メインだったので、とりあえず状況報告から始まった。


「まず……グループ見てたらわかると思うけど、春祭は白玉の屋台をやるらしい」


「文芸部なのに?」


「文芸部なのに」


 なんでそうなった……と落胆する多田師。Kさんはどうでもいいといった顔だ。Kさんは大事な会議以外は文芸部に来ないし、写真部がメインだからあまり関係ないのだろう。


「まあ、決まってしまったもんは仕方ない。なぜか3年はやる気だし。とりあえず目の前の勧誘やな……いい子を絶対に入れないと」


 2人に、ちなみにどういう子が入部して欲しい?と聞くと、多田師は「即戦力が欲しい」Kさんも同じようなことを言う。お前らはどこまでストイックなんだ。もっと、イケメンが来て欲しいとか、かわいい子が来て欲しいとかじゃないのか。


「ぼくは、経験者じゃなくていいから、まともなやつが来て欲しい」


 きっとその人なりに考え抜いて書けた小説なら、どうせ面白いに決まってるし。と思っていた。だから即戦力じゃなくても、やる気さえあれば伸びるのだと思う。それに現状まともなやつが少なすぎるので、1人でも多くのまとも枠を。そりゃあ1人ぐらいアッと言わせるような小説を書く子が欲しい気持ちはあるけれど。


 一年が授業終わってブースに流れてくるのをだらーっと待っていたら、お隣のアコギ同好会がGalileo Galileiの「稚内」を流しはじめて、「ガリレオいいっすよね!」と意気投合してLINEを交換した。その後一切喋らずに何ヶ月後かにブロックする未来を辿るのだが、大学生のノリってそんなもんだ。さらにその後、彼は来年の春祭のミスターコンテストで優勝する未来が待っている。おめでとう。


 そうこうしているうちに、1年と思しき集団がまばらにブース前を通りはじめて、ドキドキする。我々文芸部には現状爽やかさも華やかさも足りないので、いくら「こんにちは!」と声をかけたところで嘲笑が返ってきたりするだけだ、どっしり構えるしかない。一応Kさんは女子だから女子も来やすいはずだし。まあ黒スーツとタバコが似合う女だけど。ふわふわ系とかうちにはいませんけど。E大のあの子を今日まで誘拐しておくべきだったと軽く後悔。

 頼みの綱はどこの代の誰が描いたかわからない文芸部の看板。かわいい猫が一緒に描かれている。もうこの猫につられてくれるのを祈るしかないのかーー


「こんにちは」


 と急に上から声が降りかかってきた。よっしゃ、つられたな猫に!ようこそ文芸部へ!男の子だ!メガネ、大人しそう、合格!


「おお、こんにちは!」


 座って座って、と促す。

 ちなみに文芸部は、名前だけじゃ何をするのかよくわからないという人もたくさんいる。だから、2年も3年も全員「文芸部ってどんなことする部活かっていうのは、わかりますか〜?」と最初に質問する。

 1人来たら続々と人数が増えて、3人の男子がまとめて来たり(興味あるのは1人)、ピアス開けまくりのチャラ男が来て「コタツ部室に置いてくれるなら入部しますよ」なんて言い放つから面白い。ちなみに未来の文芸部では冷蔵庫が導入されることになるけれど、コタツは未だにない。


 その日の部活では、なんだかみんなソワソワしている。比較的レアキャラのトビタ先輩やらドミノ先輩、雄平くんもしっかり来ている。


 あの扉が叩かれたら、爽やかな笑顔を作って「よく来たねどうぞどうぞ」と歓迎して文芸部のあれこれを話して気に入ってもらう……という流れなのだが、だから落ち着かない。ましてぼくは副幹事だし、1年は基本的に3年より2年の方が過ごす時間が長いので、1年の対応を任されやすい。その方がありがたいけど。


 しかし1日目は特に部室には来ない。先輩たちは「まあ、3日目とか4日目から徐々に来るよー」と言っていたけれど、内心気が気じゃない。文芸部改革を進めるために、あとは普通に盛り上げるために、新入部員は必要なのにな……。


 しかし仮に新入部員が入っても、白玉の屋台をする件が邪魔をする。基本的にこの時期は批評に追われているけれど、部誌ではなく白玉を作ることになったので、現状うちは文芸部ではなくボードゲーム部かカードゲーム部だ。トランプとデュエマだけやってる文芸部に1年生が6月まで残るわけがない。小説への情熱があればあるほど残らない。


 多田師とはその話題で持ちきりだった。

「自分、白玉とかやる気ないよ」

 とまで多田師は言う。やってくれ……ぼく1人じゃ確実に病む。

「まあまあ、白玉のおかげでクソみたいな批評見せなくていいから」

「それはある」

「だろ?でもどうするよ、批評があるからこそ文芸部らしい活動とか雰囲気が最初にわかるのにな……あ、雰囲気は伝われば伝わるほど逃げられそうだけど」


 結論的には、現状これでいいのかな、という話で落ち着いた。

 ぼくは裏でどんどん作戦を練っていた。

 どうしたら文芸部を改革できるのか、どうしたら文芸部らしい活動ができるのかーー


 現状の問題を整理する。


1……春祭で白玉の屋台をやるため批評が出来ない=文芸部らしい活動が6月までない


2……仮に批評をしても3年が入ると空気が悪くなる可能性がある(批評スタンスの確立がまだ)


3……批評スタンスが確立されていないため、1年生が3年を真似て粗探ししかしなくなる可能性がある


4……批評なんかしなくても定期的に揉めたり無駄な議論で空気が悪くなる可能性がある


 新入生が入部しても、問題は山積みだ。4は防ぎようがないので、タカギ先輩その他の機嫌が良いことを神に祈るしかない。



 なるべく1、2、3をうまく解決する策はないだろうか。

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