13話 サラバダー
三日間の秋祭は終わった。部誌はなんだかんだほとんどが売れて、ひとまずは安心。ただ、特に感想アンケートも設けていなかったので、ぼくの書いた『エターナルビューティ』がどこかで誰かに読まれて、心に響いていたらいいなぁ、と祈るのみだ。
三年生の二人は秋祭を持って引退して、次の活動日に部室にきてお別れの挨拶をしていた。でもOBの先輩も何人か部室に遊びに来るし、形だけ挨拶にしているのだろうなぁと思った。三年生二人の小説を読んだ時、多田師に耳打ちした。
「引退小説ってどんなに書いてるんだろうな、ぼくら」
「さあ」
幹事の先輩が挨拶を終えて、まばらな拍手。彼は秋祭の小説提出は一番最後で、ギリギリまで悩んでいい世界観の小説を書いてきた。綺麗な世界だった。先輩は『少女終末旅行』に影響されて書いたけど、自分なりに良いのが書けたと思うんよねぇ、と答えていた。先輩の好きが詰まっていてとてもよかった。同時に、引退作品ってそれなりに重圧があるんだろうなぁと感じた。
そして三年の先輩たちはこの日をもって、部室には顔を出さなくなった。
当然だ。定期的に雰囲気が悪くなる部をまとめていたのは、三年生たちだったけれど、そんなこと誰だってやりたくない。わざわざ来ようと思わなくなるに決まっていたのだ。
かくして一個上の地獄の世代とぼくらの世代だけの恐ろしい文芸部が、ここに誕生したのである……。
幹事:タカギ先輩(2年)
副幹事:ぼく(1年)
会計:多田師(1年)
役職は上の通りになった。Kさんは、写真部の副幹事になっていたので、文芸部では役職なしとなった。
他のメンバーはこんな感じ。
元会計:ドミノ先輩(2年)
カザマ先輩(2年)
トビタ先輩(2年)
雄平くん(1年)
2年は他にもいるけれど、幽霊だったりするので割愛。3年が引退する直前から、ドミノ先輩とトビタ先輩が部室に来る頻度が少しずつ多くなっていた。自分たちの代になるから、というのはあったと思う。
ドミノ先輩は、小太りで、だるそうだけど仕事ができそうなタイプ。Kさんと同じ学科で仲が良いらしく、Kさんは先輩のことを尊敬しているみたいだ。意見もキッチリ言えるし、なんでコイツが幹事じゃないんだと文句を言いたくなったが、去年の今頃にはまだ入部していなかったらしい。それでもいきなり会計を任されている……他の2年どうなってるんや。まあドミノ先輩が幹事になってても問題しかなかっただろうなと気づくのはまだ先の話だったり。
トビタ先輩は、痩せぎすで小さい。この先輩も意見はしっかり言う(というか主張しないやつが多田師くらいしかいない)。トビタ先輩も謎のプライドの高さを持つ問題児なのだが、発覚するのはまだ先の話だったり。
幹事になったタカギ先輩がホワイトボードの前に立つ。
「えー、幹事やらせていただきまーす、タカギです、よろしくお願いします!」
とはにかみながら頭を下げる。まばらな拍手。頼みますよ〜、タカギ先輩、まじで。立場が人を変えるって信じてますから、ぼくは。
次、池添!と言いたげな視線をタカギ先輩から向けられたので、ぼくはおずおずと立ち上がる。
「池添です、副幹事になりました。頑張ります」
続いて多田師が「会計の多田です」と済ませて、早速今後の予定について話していく。
写真部と兼部していてあまり部室に来れないKさんが今日は珍しく出席していて、「私から一つ」とホワイトボード前に立つ。
「えー実はこの前参加した文学フリマでマンモス大学が主催する合同展示会にうちも参加させてもらえることになりました」
おお、なにそれ?とめいめい疑問の声が上がったので、Kさんが説明に入る。ようは、近辺の文芸部で集まって展示会開こうぜ、それにうちも参加していいよってことらしい。どうやらマンモス大にKさんの知り合いがいるらしく、話の流れでそうなったとか。顔が広いなぁ、どこのビジネスマンだよ。
「イベントの詳細は後に連絡が来ると思うので、それから考えましょう」
新生文芸部の始動を告げるこのイベントが、ぼくらの前にそりたつ最初の大きな壁になるなんて、この時わくわくしていたぼくも、多田師も、誰も気づかないのであった。
三年生のお二方、お疲れ様でした。
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