第180話幸せになれる所
佐助は、動揺を隠し定吉に聞いてみる事にした。姫様と観月春陽が同じ顔をしているのかどうかを。
しかし、その寸前で定吉が続けて話し出した。
「だが、春陽をさらうのはそれだけが理由じゃない。他の密偵から、もうすぐ大阪城の金井秀隆(かないひでたか)が高齢の為に本当に亡くなるだろうと知らせが来た。今まで秀隆が多くの大名を傘下にいれてほぼ天下統一を成し遂げかけていたが、秀隆が亡くなれば又大名の群雄割拠が起こり戦乱が激しくなるだろう。俺はその前に観月春陽を一旦人目の無い所に隠し、後で戦の影響の無い、平和な場所に連れて行く」
佐助は我慢しきれず、突然ガバっと立ち上がり定吉に尋ねた。
「まさか……まさか、姫様に瓜二つの男がいるって言ってたのは……まさか、観月春陽の事ですか?」
定吉は、腕を組んだまま又少し黙ったが、やがて頷き言った。
「そうだ…」
すると、今度は佐助が珍しく少し語気を強めた。
「なら、姫様は……姫様はどうなさるおつもりですか?姫様は、アっ、アニキが面倒を見るとおっしゃったではないですか!」
だが佐助は急にハッとして、話しの途中で黙った。何故なら佐助は、その後無意識に「アニキが姫様の面倒を見ないなら、俺が!」と言いかけてしまったから。佐助は、自分の思考に自分で驚愕した。
「しっ!佐助、静かに!」
定吉は、そんな佐助の内心を知る由も無く、居間の優達を気にして、自分の人差し指を自分の唇の前に立てた。そして、背後を確認してから再び話し出した。
「俺はどんな関係か知らないが、優は小寿郎と真矢という男を探している。だが、優の状況をこれから見て探りながら、優が俺と一緒にいた方がいいと俺が判断したら、俺は優も千夏も一緒に連れて行く」
「そう……そうでなくっちゃ…」
佐助はそう言い、少し安堵したような表情をした。
しかし…
次の定吉の言葉が、佐助を困惑させた。
「ただ……問題がある。春陽は、優の存在も、春陽と優の顔が瓜二つだとも一切知らないはずだ。それと何故かは分からんが、優は、自分の存在を春陽に絶対知られたくないようだしな」
一通り話し終え、定吉と佐助は居間に戻った。
そこには、布団で穏やかに眠る千夏の横に、同じように横になっている優がいた。
しかし、優の寝相は相変わらず悪くて、定吉がそばにいない間に足で掛け布団を蹴飛ばしていた。
「フフっ……元気なお姫様だ…」
佐助が微笑ましそうに笑うと優に布団を掛け直そうとしたが、その一瞬先に動いていた定吉が畳に方膝をつき、優の体の上に布団をそっと戻した。
そして定吉は、優の寝顔を見ながら亡き母の顔と、その母が言っていた果たせなかった約束を思い出していた。
「一緒に、幸せになれる所に行きましょう!」と、母は幼い頃の定吉と約束した。
(優……俺と一緒に、幸せになれる平和な所に行くか?お前も春陽も、血みどろの戦乱の世界は似合わない。もし行くなら、今度こそ……今度こそ俺は、お前を幸せになれる平和な所に連れて行くから!)
定吉は、心の奥で優の寝顔に言った。
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