第153話真剣
カチッ!カチッ!
と小さな音がする。
少し状況が落ち着いて、又、千夏と豆丸が、座敷でのんびりおはじきを始めた。
そしてその周りを囲み座る形で、優、小寿郎、真矢がこれからどうするか話し合った。
その結果…
やはり春陽が都倉の城に召喚され出仕するのなら、その後を、ここにいる皆が正体がバレないよう付いていくしか無いと言う結論になった。
優が、前世の自分の春陽に付いて行く。
だがそれは方角的に、優と朝霧が離れる距離が増々開くと言う事だった。
今でさえ朝霧は、馬でどんどん優から遠ざかっているはずだ。
(朝霧さん…朝霧さん…)
優は、朝霧を追いたい気持ちと、それが出来ない気持ちとで心が二つに引き裂かれそうだった。
「優?…」
真矢が考え込む優に、再び優しく声をかけた。
「真矢さん…」
優は我に還ると、真矢に頼んでみたい事があった。
「真矢さんって、小さい頃から剣術の稽古をしてて、真剣を扱えるって、以前言ってましたよね?」
「ああ…俺は俺のあっちの世界では、真剣の同好会、東京ガチメン剣友会のメンバーでもある」
真矢がドヤ顔で言うと、優は少し苦笑いして心の中で突っ込んだ。
(何、その名前?イケてるのかダサいのか、強いのか弱いのか分かんないな)
でも、名前などどうでも良かった。
「真矢さん…俺に、剣術を教えてくれませんか?お願いします!」
そう優は言い、真矢に頭を下げた。
しかし、その懇願に声を上げたのは小寿郎だった。
「ハル!いや…優!お前がそんな事する必要ない!」
優は、首を横に振った。
「俺も、刀を扱えるようになりたい!」
「優!」
不満そうな小寿郎だったが、その横にいた真矢が無言で立ち上がり、あぐらで座る優の前に来た。
そして、真矢もあぐらをかくと、向かい合う優の両手をそっと取り、その手の平を上にし眺めた。
「優…剣術をすると言う事はな、手に豆や傷が沢山出来る。俺の手も豆や傷だらけで見られたモンじゃねえ…オレはな…優の、このキレイな手を色んな意味で汚したくないと思ってる…」
真矢が、優の両手の平を握り、じっと優を見詰めてくる。
いつもチャラ軽い真矢は、やはり真顔になると怖い位イケメンだ。
でも優は、自分がこのままだとダメだと思って引かない。
「真矢さん…お願いします。春陽さんも、手は豆と傷がありました。それに俺、みんなの足手まといになりたくない。みんなを守れるようになりたい。その為には、まず真剣を扱えるようになり紅慶を使えるようになりたいんだ…」
真矢は優の手を握ったまま、優の瞳の奥を覗くように見てくる。
それにたじろがないよう、優も真矢を見詰める。
だが…
「いつまで主に触ってる!真矢!無礼だぞ!」
小寿郎が、仮面をしていても分るイライラした態度で、真矢の手を優の手からどかせた。
だが、真矢は冷静に返す。
「お生憎様だな、小寿郎。俺はお前と違い優の下僕じゃねぇ。俺は、あくまで優と対等の立場で、俺は俺の好きにする」
「何だとー!」
小寿郎がキーとなり、又猫耳と尻尾の白い毛を逆立てた。
「だが、本当は俺がずっと優の傍にいて守ってやりたいが、観月家や都倉家の動向を探ったり、優を江戸時代に返す為には、尋女師匠のお祖父様を探さなければならない…なら、優の為にも、少しは剣を扱えるようになった方がいいな。よし!俺はこれから観月家の用で出掛けるが、二日後帰って来たら早速稽古始めるか?」
プンプンする小寿郎など気にせず、真矢が向かい合う優にそう言い笑いかけた。
「ありがとう…真矢さん!」
優にも笑顔が浮かんだ。
「小寿郎!俺のいない間、優と千夏を頼んだぞ!大丈夫だな?!」
真矢が、背後の桜の精に向かい大きい声で言った。
「フンっ!当然だろう!」
小寿郎は立ったまま腕組し、真矢に対してプイと横を向いた。
その後真矢はすぐ、やはり観月家の用で優達の元を去った。
優と小寿郎と千夏と豆丸は、民家でゆっくり過ごした。
何せ、江戸時代から、尋女に金の小さな塊を沢山持たされこの時代に小寿郎は来たので、それを真矢が売り、食事や身の回りの物などには困らなかった。
だが、戦国時代は江戸時代より格段に金の精錬技術が悪かったので、尋女は、わざわざ純度の低い金を持たせ、金を売っても回りから怪しまれないよう配慮もしていた。
その日は、優と小寿郎で竈門でご飯をわちゃわちゃしながら仲良く作り…
この世界の戦国時代には、すでに木製の風呂があり、心配しなからも千夏は一人で入り、千夏が出た後優が入った。
夜には、一つの座敷に布団を二枚敷き、優、猫姿の小寿郎、千夏、豆丸で仲良く並んで雑魚寝した。
だが…
次の朝…
優が目覚めると、小寿郎と小寿郎の使い魔の豆丸の姿が無かった。
猫の姿で豆丸と朝の散歩かな?とも優は思ったが…
小寿郎と豆丸はその後、昼になっても夜になっても帰ってこなかった。
小寿郎と式神契約を結んだので、小寿郎を呼べば来るはずなのに、声を出しても、心の中で呼んでも来ない。
優は、幼い千夏を一人に出来ず、彼女の小さな手を引いて、姿を隠しながらも色々探し回った。
だが、小寿郎は次の日になっても、どんなに呼んでも、待っても…全く帰ってこなかった。
何か、あったのだ…
小寿郎と豆丸に…
小寿郎が何も理由が無く、優を黙って置いていくなんて有り得ないと優は思う。
優は、嫌な予感に苛まれ始めた。
だがそれなのに、何故か?
更に真矢までもが帰ってこなくなった。
これからどうすればいいのか、優は千夏をかかえ、二人きりになってしまった。
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