第152話燃える契約書
優の頭の中は、小寿郎を助ける事で一杯になっていた。
しかし、真矢がそれを止め、優を背後から羽交い締めにした。
「離せっ!!!」
だが、優は絶叫し真矢を振り切り、小寿郎の手の上で真っ赤に燃え盛る契約書を優の手で払おうとした。
しかし突然、火は何もしないのに勝手に消え、契約書は全て燃え塵になり綿毛のようにフワッと消えた。
本当に一瞬の事で、優が令和時代にテレビや動画で見てたイリュージョンのようだった。
優は慌てて、小寿郎のその両手の平を取って見る。
ヤケドは一切してなくて、優から安堵の息が漏れた。
「ハハっ!ビックリしたか?ビックリしただろう?ハル!」
小寿郎は白皙の仮面で表情は伺えないが、明らかにふざけている、楽しそうなおどけた声を出した。
優は思わず足元から崩れ落ちた。
優は、本当に小寿郎の小袖にまで着火し、小寿郎の全身が燃えてしまうと恐怖したのだ。
「優!」
真矢が、優の背後にしゃがみ込み左肩を抱き…
「ハル!」
原因を作った小寿郎が優の正面でしゃがみ、両脇を持って優が倒れないよう支えた。
そして…
「小寿郎!」
真矢は、悪ふざけに呆れて文句を言おうと小寿郎を見据えた。
しかしそれを、優が止めた。
「真矢さん!」
優は背後の真矢を見て首を横に振って見せた。
そして、今度は優自身が小寿郎を見据えた。
優も一瞬、小寿郎の余りのおふざけにイラっときたが、それも束の間だった。
「小寿郎…さっき、俺、心臓止まるかと思った」
優は冷静な口調で言った。
小寿郎は無言で、仮面の下でポッカーンとしてる雰囲気だった。
やはり小寿郎は、そう言う所が優にとっては中学時代の友達のようなのだ。
優の朝霧に対する感情とは、又どこか違う。
でも、小寿郎に全く悪意が無いと言っても、優は何も言わずにはいられず続けて言った。
「小寿郎…俺は、お前を失いたく無いと思ってる…」
「…」
小寿郎は、まだ何もアクションを起こさない。
優の声がいつに無く真剣になる。
「だから…お前が本気で俺の式神になる気なら、あんな時は最初に大丈夫だと言え。あんな冗談は二度と俺の前でするな…もう…二度と…決して…」
「…」
やはり、小寿郎からすぐ返答が無かった。
そして優はこの後、小寿郎の性格上、むくれた態度の小寿郎に2倍以上にされて言い返されると思っていた。
いつもは大体そうで、いつもは優が小寿郎に口と勢いで負けるのがデフォだ。
しかし…
小寿郎は、そっと優の体を離しその場に急に跪くと、優の右手を取り小寿郎の額に押し当て言った。
「御意!そのお言葉、この小寿郎しかと心得まする。そして只今、書を燃やした事により式神契約が合い成り申しました。この小寿郎今日(こんにち)ただ今より、観月春光様…いえ、摩耶優様に、終生お仕え申し上げまする!我が主よ!」
「え?!」
小寿郎が、らしくなくひどく大人っぽい喋り方をした上に優を主と呼び、優は驚く。
すると小寿郎が、額から優の右手を外し小寿郎の両手で握り、優を見詰めた。
仮面の穴から、小寿郎の真剣な金瞳がキラキラ煌めく。
小寿郎の長い金髪と相まって、
余りにも眩し過ぎる。
「あっ…あぁ…うっ…うん…うん…小寿郎…」
優は、小寿郎の迫力に戸惑いうなずきながらも、最後は笑って見せた。
まだ優の肩を抱いていた真矢が心の中で深い溜め息を付き、この先が思いやられると、やれやれと言った表情をした。
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