第148話再会
ここは、戦国時代。
優は、令和の東京の家、江戸時代の観月屋敷、そのどちらにも本当に帰れない。
定吉が逃してくれて幼い千夏をおんぶして、優は、まだ行く宛も無く山の中を走る。
しかし…
酷く混乱する頭で冷静になろう、なろうとしていて気付いた。
優が千夏が戦国時代に来た夢を見たあの日から、今日千夏に会うまで数日のタイムラグがある。
(もし、あの夢が現実だったら、千夏ちゃんは今までどこにいたんだ?誰か、千夏ちゃんを助けてくれた人がいるのか?)
優はふとそう考えて、足が止まった。
今は、優もその人に助けてもらうしか道はない。
そして、千夏を背中からそっと下ろし、千夏の背の高さに目線を合わせ優の膝を折り聞いた。
「千夏ちゃん。千夏ちゃんって、誰かに助けてもらって、俺以外の誰かと一緒にいる?」
千夏は、いつもの無表情ながらすぐにうなずいた。
「えっ?何処の人?」
千夏は優の右手を取り、日本人形を左腕に大事に抱え、急にくるりと体の向きを変え歩き出した。
千夏は、幼い上にこの時代に縁がないが、優の腕を引っ張り迷う事なくずんずん歩く。
やがて、山中にポツンと一軒、今は人のいなさそうな古びた民家が見えてきた。
すると、その前に…
優が良く知る姿が立っていた。
優は、なんとなく千夏を助けている人物を予想していたが…
やはりその通りだった。
「小寿郎!」
いつもの白い仮面の猫耳獣人の小寿郎の姿に、優は安心感から思わず一人走り出した。
「ハル!えっ?お前、角は?」
驚く小寿郎に、優は抱きつく。
「小寿郎!俺、優だよ。春陽さんじゃ無くて春光の方の優だよ!優!」
優は抱きついたまま小寿郎の顔を見て、一瞬、今の自分の状況を忘れて笑顔で言った。
「えっ?そっちのハル?お前、お前…」
「俺、体もこっちへ来た!」
「エエー!!!」
小寿郎の驚きは当然だろう。
しかし、驚き過ぎて、小寿郎の治りかけの体の傷が傷んだ。
「イたた…」
「ごめん!俺、つい…」
優が慌てて体を引こうとすると、小寿郎が間髪入れず、優の体をグイッと小寿郎の体に引き寄せた。
そして今度は、小寿郎が優を抱き締めた。
「良かった、ハル…お前が無事で…本当に良かった…」
いつも本当の猫っぽく高飛車な小寿郎の声と、強く優を抱く小寿郎の腕が震えていた。
優も一瞬だが、さっきの朝霧との別れの痛みがやわらぎ、小寿郎と抱き合った。
そして暫く、二人共々動けないでいたが…
やがて小寿郎が、優を強く抱き締めたまま静かに呟いた。
「ハル…お前の体もこっちへ来たんだ。今から…今度こそ…私をお前の式神にしろ!今から契約をするぞ」
「えっ?今っ?今から?…」
優は、小寿郎から体を離し戸惑った。
だが、その優の腕を小寿郎は引っ張り逃さず、怖い位真剣に言った。
「今しないでいつする?私は、お前と一番格の高い式神契約をする。終身契約だ。そして、私が死んでもお前は無事だが、お前が死ねば私も死ぬ契約をする」
「えぇ?!!!」
「ハル。もう逃さんからな…今日こそ、私をお前のモノにしろ!」
小寿郎の白皙の仮面の目の形に空いた二つの穴から…
小寿郎の金色の瞳がキラキラ煌めいて、優を一心に見詰めていた。
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