第138話虚言

雨は、更に激しさを増してきた。


「答えろ…」


朝霧は、再び低い声音で春頼を恫喝した。


だが、それを止めたのは、春陽だった。


それでも、自分に突然生えた牙、角を朝霧に見られたく無くて、弟、春頼に抱き付き隠す。


己のこの呪われた姿は、朝霧には、朝霧にだけは、絶対に、絶対に見られたく無かった。


「貴…継!辞めてくれ!何でも無い。私の気分が悪くなって…少し外の空気を吸いに来たら歩けなくなっただけだ!」


朝霧は、ほんの少し無言のまま、本当の兄弟の様に育った春頼を睨んで静かに否定した。


「違う…嘘だ…」


春頼の方も、反抗的に睨み返す。


「嘘じゃ無い!春頼!春頼!頼む!気分が悪い。早く、静かな部屋に連れて行ってくれ!横になりたい」


春陽はそう言うと、次に春頼だけに聞こえるよう呟いた。


「貴継にこの姿を見られたく無い…このままの状態で連れ帰ってくれ…」


懇願を受け入れた春頼は、しがみついてきた兄を、朝霧に見せない様にして軽々と抱き上げて歩き出した。


春頼の腕は、優しく、けれど強く春陽を守る。


「ハル!」


朝霧は強く呼び掛けたが、偽りない春陽を案ずる気持ちがこもっている様に聞こえた。


けれどそれは、春陽とその中にいる優を激しく懊悩させた。


そして…


春陽は、朝霧の恋情を拒んだのに、尚心配してくれている事が泣きたい程うれしいのに…


「貴継…すまない…」


又、拒絶するしか無かった…


胸が張り裂けそうな痛みを感じながら、その一言しか言えなかった。


そして、弟に抱かれ遠ざかる自分を、朝霧が雨に濡れながらその場に佇み、どんな表情で見送っていたのか…春陽は見る事も、想像する事すらもう出来なかった。


「ゴロゴロ!ゴロゴロゴロゴロ!」


薄暗い空に稲光が走り、又近くで雷鳴が轟いた。

























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