第121話仄かな光
定吉が目覚め、痛み止めの漢方が効いて又静かに眠ったのを見てほっとしたのも束の間。
自分の寝ていた布団に戻った春陽は、真矢から思わぬモノを受け取り腕にした。
山で春陽を助けた時は、小寿郎自身で外していたが、今は首に、春陽が三日前付けた紅い紐の首輪をした猫の小寿郎だった。
それも、酷いケガをして、真矢が手当してくれたようだったが、体中包帯だらけでぐったりしていた。
だがそれでも春陽を見ると、小さくではあるが「ニャーニャー」と健気に反応する。
しかしケガもそうだが…
何故小寿郎が、荒清神社から遠く離れたこの村にいるのかも、小寿郎の正体を知らない春陽には謎だった。
「猫が遠くに行くのはたまにありますし、小寿郎はもしかしたら、貴方の危機を助けに来たのかもしれませんよ…」
真矢が、春陽をじっと見詰めながらそう言った。
春陽は不思議そうにしたが、再び春陽の中に囚われていた優は、ケガには驚いたが、小寿郎が生きていてくれた事に心底安堵した。
すると、春頼と共にその様子を傍らで見ていた朝霧が、そっと腕を伸ばし言った。
「ハルはまだ病み上がりだ。俺が面倒みよう」
「え…」
春陽は、自分で面倒をみたかった。
だが、朝霧が余りに心配そうな顔をするのでここは素直に厚意に甘える事にして、小寿郎を渡して朝霧に微笑んだ。
「ありがとう…貴継…小寿郎を頼む」
朝霧は、その笑顔を見て一瞬ぼーっとしてしまったが、次に春陽の唇に気を取られた。
そして…
あの川で助けた時の…
朝霧と春陽の口付けを密かに思い出した。
そして…
朝霧の唇が、又、春陽の唇を求めている切なさをハッキリ感じてしまった…
やがて夜になり…
小寿郎は、朝霧と共に別の座敷で養生する事になった。
そして、春陽も一人で床に着いた。
しかし、眠りに落ちてどれ位だろう?
まだまだ外は、深い闇夜が広がっている。
ズっ…ズズっ…ズっ…ズズっ…
と、春陽のいる座敷の畳を何かが這うような音がする。
ズっ…ズズっ…ズっ…ズズっ…
そして…
「ハル…ハル…ハル…」
と、春陽を苦しそうに呼ぶ声もした。
春陽は、朝霧が呼んでいるのでは?と目覚め、ハッとして上半身を起こした。
と、同時に優も目覚めた。
そして、極度の緊張感と共に、春陽が音の方を見た。
すると、何かが仄かに金色に光っていた。
そして、春陽が夜目が効く事もあり、座敷の柱に寄りかかり足を投げ出して座る人の姿がハッキリ見えた。
「ハル…側に行きたい…ハル…お前の側に…」
そう、熱に浮かされたうわ言のように呟きながら…
美しい長い金髪が仄かに光を放つ、春陽が見た事の無い…
頭上に獣耳、顔に白い仮面の少年が、苦しそうに汗に塗れて目を閉じそこにいた。
金髪の少年の乱れた小袖の胸元には、痛
々しい包帯が巻かれ…
首元には、何故か猫の小寿郎の首に巻かれている首輪を、まるで人用に長く大きくしたような似た首輪があり…
春陽は酷く驚いた。
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