第89話朝の陽光
「ん…」
優が、春陽の身体の中で目覚めた。
不思議な事に…
昨夜、優が眠った後突然生えた角と牙は
、優が目覚める前にキレイに消えていた
。
しかし、横たわっていた体は頭がボーッとして、半目のまま、今がいつで、ここが何処かが分からない…
暫くそのまま必死で思い出そうと頭をグルグルさせている内に…
「ハル!ハル!!!」
急に突然…
朝霧の崖の所での絶叫と、崖を滑り落ちる感覚と、咽るような土の匂いを思い出した。
そして、やっと自分の置かれていた立場を思い出す。
その目が、やっと大きく見開く。
(朝霧さん!春頼さん!小寿郎!真矢さん!)
体もすぐに動かなくて、まだ横になったまま、優は心の中で呼んだ。
(みんな、春陽さんと俺の事、探してる!きっと探してる!)
優のその言葉通り、朝霧と春頼二人は、一晩中大雨の中、一つの洋燈だけを頼りに泥だらけになりながら必死で春陽を追った。
朝霧と春頼が、落ちた春陽を助けようと迂回し崖下に着いた時、すでに春陽の姿は無かった。
そこにはただ春陽の刀が、抜き身で縦に土中に刺さっていただけだった。
春陽と共に落ちた男が、わざと春陽の刀を置き捨てて、春陽を連れ去ったとしか考えられなかった。
だが、普通なら、もっと早く春陽を見付けられそうだった。
しかし、気絶した春陽を背負った定吉が
、春陽奪還者を警戒してある所に細工した。
それは人口的に土砂崩れを起こし、朝霧達に二回目の迂回を余儀なくさせ、春陽発見を困難にさせてしまった。
朝霧と春頼は、今も尚、一睡もせず春陽を探していた。
そして、真矢も、無事雪菜を自宅に送り届けると、他の守護武者と共に春陽捜索に加わっていた。
だが、小寿郎だけは、酷い怪我を負い山の洞窟で動けなくなっていた。
そして、豆丸は、春陽を探せと小寿郎に命令されたが放って置けず、どうしたらいいのか終始オロオロしながら看病していた。
昨夜の雨が、嘘の様…
優の今居る小屋の小窓から明るい日差しが差しこんでいて、小鳥達のかわいい声も聞こえてくる。
昨晩、優は、何か囲炉裏から甘い香りがしたような気がしたが、それから眠くなってそのまま目を閉じてしまった。
だが、いくら定吉と言っても、今の得体の知れない彼の前でぐっすりすやすや寝てしまったのは、何が何でも危険過ぎたと、今更ながら考えると体が硬直する。
そして、あの匂いが何だったのだろうか?と考えて…
「しかし…よく…寝たな…」
優は、横になったまま、ボロ小屋の、囲炉裏の煤で黒く年季の入った天井を見ながらボソっと呟いた。
すると…
聞き覚えのある、正に漢の中の漢と言うべき野太い声がした。
「へぇ…そりゃぁ…良かったな…」
その声の方を、首を傾け優は見た。
いつの間にか外にいたらしい定吉が、小屋の戸を開けて戸口に立っていた。
しかし、定吉は、上半身裸で下半身も褌だけ。
見事な鍛えられた全身の筋肉を、惜しげも無く出していた。
男女、誰であろうと、その定吉の見事な体を思わず見てしまうだろう。
優もそれを見て思わず、春陽や自身の体と定吉のそれを比較して、やはり同じ男として完全に負けていると素直に認めた
。
しかし、一度、男同士だとも思ったが目を逸した。
それ位定吉の体は、思わず見ても、男の優でも、長くは正視出来ない位エロさが強烈だ。
筋肉から平静時にも関わらず大きく褌の布から盛り上がる股間のアソコまで、何から何まで立派で大きく…そして…逞しい。
だが、もう一度優が定吉をおずおずと見たら、定吉は、片手に木で作られた、先の尖ったモリのような物を持っていた。
優はそれを見て、凶器に一瞬ハッとしたが…
定吉の方は、それを気に止めずサラッと言った。
「朝メシにするぞ!もう、果物は採って来たし、魚も採ってある。魚を外で焼いて食うぞ!」
昨夜、定吉が優の首に刃を当てて殺そうとしていた事など全く知らない優は、ポカンと呑気に口を開けたままそれを聞いた。
結局…昨夜…定吉は…
優の首はおろか体に、刀傷どころか、引っ掻き傷一つ付ける事が出来なかった。
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