第73話男巫女2

そうしている内に、春陽の男巫女姿は使用人の女性達にすぐ見つけられた。


彼女達がキャーキャー騒いでいるかと思うとすぐに春陽の回り、縁側だけで無く庭にまで老若男女人が集まり出し人垣が出来て騒がしくなった。


「春陽様!お美しい!」


「春陽様!有り難い!有り難い!」


あらゆる方向から民衆に声を掛けられ気に掛けられ、春陽は有り難い事と思いながらも、更にどんどん人が増えた。


そして遂には春陽はあちこち体を触られ出して、それを止めようとする者とで数人の若い男同士のケンカが始まる。


優は混乱し、春陽は慌ててその仲裁に庭に足袋のまま降りようとした。


そこに…


叫び声がした。


「兄上!兄上!」


バタバタと、春頼が焦った様子で走り寄って来て人を掻き分け大声で衆人を咎め

、春陽を広い胸に抱いて護った。


「下がれ!兄上は御神様の為のお役目を果たされる大事な身ぞ!無礼であろう下がれ!下がれ!」


浮足立っていた衆達は、春頼のたった一喝で即その場で静かになると、その後皆何歩か後ろへ下がった。


兄としては情け無いと思いつつ、やはり春頼のこう言う所は父親譲りで頼りになると、春陽は思わず春頼の胸に顎を付けたまま顔を見上げた。


「兄上!男巫女の時はお護りしますから

、必ず呼んで下さいと毎年言っているではありませんか!」


春頼のその声は、抗議しているはずなのにさっきまでの荒々しさを完全に引っ込め甘く優しい。


「すまない…一人だと、こんな事になるなんて思わなかった…」


「兄上…」


春頼が大勢の民衆が居るにも関わらず春陽の体を更に抱き寄せ、まるで恋人にする様に優しく髪を何度か撫でた。


「キャーっ!」


「御兄弟、本当に仲がよろしいのよねぇ

!」


「眼福だわ~」


かなり控え目にコソっと隠れてだが、女性達がそれを見て歓喜し騒ぐ。


春陽は、弟に子供扱いされたと思い恥ずかし過ぎて赤面して視線を彷徨わせた。


そして、何気に左側を見たが、向こうの渡り廊下から、春頼より少し遅れて来た朝霧がこちらを見ていた。


(貴…継……もしかして、心配して来てくれた?)


しかし、かなり久しぶりに視線を合わせた二人なのに、やはり朝霧の春陽を見詰める双眼は凍っていた。


しかも…今は、以前より遥かに…


朝霧の瞳がとても何か激しく言いた気に眇められていて、耐え切れなくて先に視線を外したのは春陽の方だった。


「兄上…さぁ、参りましょう…」


その様子を目を細め一瞥し春頼は、春陽の手を握りその場から共にそそくさと前に歩き出した。





















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