第43話謝罪

優が子供を産むかもしれ無い。



それを聞いて一瞬呆然としたものの、その後朝食中も朝霧は、完全に何もかも無かった様な元のいつもの忠実な臣下そのものだった。



そして、優自身も…



朝霧に合わせ、全て忘れて、普段通りに接する様に務めた。



「昨晩は、主に対して、臣下にあるまじき無礼な振る舞いの数々、誠に、誠に申し訳ございませんでした」



朝食の後部屋に戻った優に、二人きりになったのを見計らったのだろう朝霧が、畳に頭を押し付けて深く謝罪した。



その声質はあくまで冷静だったが、真摯だった。



けれど…



やっぱり、やっぱり…謝るんだ…



分かっていたけど…あんな状況を見兼ねてのただの同情か、幼馴染みの友情か臣下の義務みたいなものだったと。



優は、笑顔を無理矢理作り心の中で呟いた後、朝霧に自分からも謝罪した。



「こっちこそ、すいませんでした。あんな事になって…朝霧さんは、ただ、苦しんでいた俺を楽に、楽にしたいと、ただ、そう思ってくれただけなんだから…そうでしょう?」



土下座したまままだ顔を上げない朝霧は、背筋をピクリとさせたが優には分からない。



そして、己の呼吸が乱れそうになるのを、朝霧が密かに整える。



僅かに無言の間が空く。



朝霧の脳裏に、又、優が好きな人がいると言った言葉や、昨晩の最初激しく抵抗された場面が浮かんだ。



朝霧は優に悟られ無い様に顔を伏せたまま、ずっと眉間を寄せたままの苦し気な表情を隠した。



「はい。その通り、その通りでございます。ただ、楽になっていただきたい…ただ、他に理由など無く…ただそれだけでございました…」



その言葉に、ハッキリ言われてしまったんだと…完全にと…優は瞼を静かに閉じた。



だからと言って、責めたりなんか出来ない…



そして…



もう、あんな配慮はしないで下さい…と、穏やかさの中に強く、まだひたすら土下座する姿に向かって伝えた。



そんな事があった後、外出は中止するはずだった。



朝食の後、優が真矢に見せてもらったストリートビューには、かつて住んでいた所と同じ住所に、あの懐かしい優の家と全く同じ物が映っていたが、やはり尋女からの連絡も観月達の事が気になったし、それはとても見たいが、やはり異世界の似た家や似た両親を見ても、ただ悲しみが深くなるだけだったから。



それに、朝霧と身体の関係を持ってしまった事をなんとか何でも無い事だったと自分の中で上手く消化させてしまおうとするが、顔で笑っていてもわだかまってしまっていたという事もあった。



思い出したらいけない…



と思いながら、度々朝霧の、唇の感触や手の動きを思い出しそうになり、その度に打ち消した。



しかし、ぽん吉は、連絡は水晶を持参するし、気になるなら行った方が少しでもスッキリするぞと言うので、優は短時間だけ自分がかつて住んでいた所と同じだと思われる住所へ、朝霧と共にぽん吉の運転する車で向かう事になった。



だが、どうやってあの、短い足で車を運転するのか?運転手でもいるのか聞きそびれていたら、車に乗って来て黒のパワーウインドーを下げて現れたのは、どう見ても人間のチャラ兄さん、いや、二十代後半位の足の長そうな男前男性で、上質な黒のスーツに派手なシャツに身を包み、神社の前で立つ優と朝霧に黙って親指で後ろに乗れと指示した。




ぽん吉の車は、七人乗りの高級SUV外車だ。



「あの…ぽ、ぽん吉さんは?…」



後部シートに朝霧と乗り込んだ優は、まさか危ない筋系の人ではないか?と思いながら運転する男性に尋ねた。



「あっ!やっぱ、分かんない?俺が、なんとそのぽん吉さんでーす!」



前ミラーに映る男前の顔が、ニヤニヤとしてぽん吉に似た笑い方で優を見て、だが、喋る声が獣の時と違ってとても男らしいイケボだ。



優と朝霧は、ア然として顔を見合わせた。



「じょ、冗談ですよね。だって…」



優が前のシートに身を乗り出し、男の顔を見た。



「冗談じゃねえよ。俺はぽん吉。獣人は、人間に化けられんの。まぁ、普段は獣型だけど、出掛ける時は人型になる事が多いんだよ。この世界は、とかく人間に合わせた方が生きやすいからな。獣人も色々あんのよ」



「そんな、そんな事…」



信じられないと、又朝霧と視線を合わす。



「人間の時は、真矢、観月真矢って名前も、あるぜ」



「かん…げつ…」



優は、心臓を跳ねさせた。



「昨日はうっかり言い忘れたが、俺がお前達に係るのは、何もお師匠様の頼みだけじゃない。観月春光。なんか、名前の所為か、ほっとけない気がしたんだよ…生きる世界は違うが、お前と俺は、何か繋がっているのかもな…なんてな!」



ぽん吉、いや、真矢は、最初真面目に語りチラッとだけ酷く真剣な目で優を見ると、最後ふざけた様に笑った。













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