第33話リバイブ2


部屋は広く、女性達は奥の方に居てもらい、男五人、入口近くで話しをする。



「確かにもう一体の化け物の気があったはずだ。何処かに潜んでいるのかもしれん。西宮と定吉で奥殿を探し消す。私と朝霧は、主達と玉を護る」



観月がそう言うと優以外の男四人は、互いに顔を見合わせ頷く。



そして、すぐ朝霧が隣りの優の左肩に手を置いた。



「貴方はここで、私達と待っていて下さい」



「でっ、でも!」 



優自身分かっている。



今ここで自分に出来る事は、足手まといにならない事だと。



それでも、悔しい…



自分が刀を使えたなら…



もっと強かったなら…



「貴方が無事でなければ、私達は戦えません…」



朝霧は、優の目を奥深く見て語りかけ肩を強く掴むと、次に西宮と定吉の方を見た。



「頼んだぞ!」



西宮は、余裕の笑みを浮かべ黙って頷いた。



「承知しました!」



そう定吉も頷き、西宮が先頭で部屋を出ようとした時、さっきまで小夜の告白からハラハラしながら優達を見ていた尋女が叫んだ。



「玉が、玉の中の歪みが大きくなってきました!」



尋女が卓の上に置いてあった玉を手に取り見ると、清冽に澄んだ中に、ドロドロと黒い帯状のものが波打ちやがてそれが横に広がろうとしていた。



それは今度は、優や朝霧達にも視えた。



尋女は、必死で呪説しそれを食い止めようとして、拡大する力と拮抗した。



だが…



「たかだか呪術師如きが!」



玉の中から激しく罵る声がした。



優にはすぐ分かった。



「藍!」



バチっと音がして玉が赤黒い小さな火花を発して、尋女は一瞬苦しむ。

 


「尋女さん!」



優の叫びと共に周囲の者は慌てて彼女に近寄ろうとするが、玉から発する障気によって阻止される。



それでも尋女は、気丈に呪説を止めない。



あの銀髪の男は、どれだけ我慢出来るかな?と尋女に対しせせら嗤うと、声だけで姿は見せない。



「ハル。どうにかして荒清に侵入して玉を手に入れようとしたが、小娘のお陰で、わざわざ私が手に入れなくても過去への道が開けたぞ」



「過去への道?どう言う事だ?」



優は、楽し気な藍の声に不吉な予感を感じる。



そしてそれは、朝霧等皆も同じだった。



「フフッ…偶然にしては、まるで誰かが示し合わせたようだ。今日より三日は一万年に一度、時空に過去への道が出来る。玉はそこを探すのに必要だったが、盗むまでも無く玉の歪みと繋がった。私の送った下僕は双子でな、お前達が片割れを始末した前にすでに一匹が過去へ飛んでいる。まぁ、そこの女は命拾いしたが…そう言う事だ、残念だったな、ハル」



藍の言っている事は分かるが、優にはそれが何を意味しているか、余りに恐ろしい事なので想像したく無い。



「過去への道…」



「分からんか?ハル。奴を過去へやった。前世のお前を消す為にな!」



バチバチバチと、今度は更に激しく火花が散り、尋女は気絶しその場に倒れ込み、その手からコロコロと玉が、優、朝霧、観月、定吉、西宮の前に転がって来て、優以外が鞘に手をかけた。



「何なら、追いかけっこでもするか?あの、絶望と血と殺戮の時代で。今は、刺激的な事がなさ過ぎるからな。楽しいかもな?止めてみろ!ハル!」



嬉しそうな藍の言葉と共に、黒い霧の様なものが玉から吹き出した。



「観月。いや…あの時は…西宮だったな…貴様も、あの御方に、又会えるぞ…」



楽しそうな藍の謎の言葉に、何の意味か全く分からない観月が顔を歪め、彼にしては珍しくまるで助けを求めてくるかの様に優の顔を見た。



勿論、優や、そこに居る誰もが、あの御方が誰を意味するのか分からない。



藍の声が、急に低く厳しくなった。



「ハル、貴様は貴様の母共々、都倉一族でありながら、都倉家によって生かされてきた分際で裏切った。裏切り者は血と汚辱に塗れた制裁を受けろ!」



優の耳に、藍の声がこだまする。



「主!」



更に、身体が動かなくなった優の耳に、臣下四人が同時に叫び重なった悲痛な声が聞こえ、エコーしながら遠ざかる。



そして、彼等が苦悶に顔を歪ませながら優に手を伸ばし、側に行こうとする途中次々と意識を失い倒れて行くのをスローモーションの様に見て、自分も意識か無くなると思った時、苦しいはずの朝霧が優の身体を抱いて主の身体が畳に打ち付け無い様に護り、二人一緒に倒れ込み気を失った。



部屋に静寂が戻る。



「は、はっ、春光さん!」



小夜は、慌てて妹を腕に優と朝霧に駆け寄る。



息はある。



それは、他の三人も同じだった。



まだ気絶する尋女を必死に抱き、瀬奈は青ざめ震え上がっていた。



朝霧もこの状況でもまだ、優の身体をひしと抱いて離さないでいた。










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