第32話リバイブ

優達が次の行動に移ろうとすると、廊下を西宮が尋女を背負い走って来た。



「良かった…主…主…ご無事で…」



「西宮さん!」



優が近寄ると西宮は、周囲の惨状を見て一度顔をしかめたが、どんなに急ぎ来たのか分かる程の乱れる息を整えながらもニコリと微笑んだ。



「言ったでしょう。貴方との約束だけは、必ず守りますよと」



「良かった。ありがとうございます。西宮さん」



互いに笑みを向け尋女とも無事を喜んでいると、すぐ、定吉も小夜を連れて来た。



小夜はすぐ、優に平謝りしながら千夏を彼から引き取り強く抱き締め、妹の長い髪を何度も優しく撫でてやった。



「大きな音を聞いた時は、貴方にもしもの事があればと、心の臓が止まるかと思いました…」



定吉は、いつもならふざけてじゃれついて抱きついてくるのに、一度優に伸ばしかけた腕を戻し呟いた。



ただ、いつもより声が真剣で低く深い。



日頃、優と一緒にいると下がり気味の目元が、今は表情が引き締まって闘神の様にりりしく見える。



「他の使用人達は、勝手な判断でしたが、至急帰宅するよう申しつけました」



定吉のその報告に、優は彼を笑顔で見上げて礼を言った。



観月の案内で、奥殿の、最も強い結界の張った部屋に優達は入り、朝霧に運ばれた瀬奈もそこで消耗した身体を横たえた。



優が尋女にもう一つの玉を尋ねると、持っていた袋に入れていると中を見せてくれたが、彼女は中から取り出した玉と部屋の大きな卓に観月が置いたもう一つの方を交互によくじっと見て、ヒャッと声を上げた。



「どうした?」



観月が、玉に近寄り次に尋女を見た。



「た、玉に、卓の方の玉の中に歪みが、こんな事、あり得ない!」



いつも冷静な尋女が取り乱す。



だが、能力を持たない者にはそれは視えない。



「どう言う事だ!尋女!」



観月は尋女に詰め寄るが、彼女はかなり混乱していて返事が無い。



「申し訳ございません!春光さん!」



突然、小夜はその場に土下座して、周囲を驚かせた。



「歪みは先程の妹の水晶の物見中に何かあったかもしれません。もしかしたら、その時魔物も引き入れてしまったのかもしれません。もし、そうだとしたら、本当に申し訳ありません、春光さん」



「何?…」



観月の声に、カミソリの刃の様な怒気が混じった。



「何故早く言わない!何の為にお前や他の呪術師を付けていたと思っ…」



小夜に詰め寄る観月の前に、優が飛び出した。



「止めて下さい!まだ、千夏ちゃんはあんな小さいのに、あんな子にやらす方が間違ってる!」



優を見る、観月の目が一際険しく眇められた。



その迫力に、普通の人間なら簡単に圧倒されて負けるだろう。



だが、優は一歩も後ろへ引かず彼の目を見返す。



睨み合いを見かねて朝霧ら他の三人が間に入ろうとすると、観月が表情と裏腹の冷静な、又臣下の口調で話した。



「貴方の為に…貴方の為に、千夏はここへ連れてこられたのですよ…」



又、本当に余計な事を言うと、朝霧、定吉、西宮はキツく観月を睨む。



「なんで?他に居なかったんですか?」



優は、罪の意識で頭を殴られた様に感じながら観月に聞いた。



「他?昔は沢山呪術師はいましたよ。でも、戦国の戦いと殺戮で多くが死んだのです。今生き残っている子孫は数少ない上年老いていて、若く力の有る者は更に稀有です」



「なら、なら、悪いのは俺だ。千夏ちゃんじゃ無い!」



「貴方は…貴方は…」



観月は、時に弟が絡むといつもの自分をすぐ失う。



それがここ数日で分かり、優と観月の言い合いが更に激しくなり続きそうなので、大きな溜息混じりに朝霧が観月を止める。



「観月、兄弟喧嘩は後だ。先にもう一匹始末しないと」



「そんな事、分かってる!」



プイと幼児の様に観月が横を向いた。



朝霧はこんな子供じみた彼を、観月の子供の頃ですら見た事が無かった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る