第27話春の庭2
穏やかな空に白い雲がゆったり流れ、小鳥が季節を謳歌するように飛び交う。
こんな中散歩していると、この世界へ来て色んな事があり過ぎて、優はこんなにのんびりした感じは久しぶりに感じる。
しかしそんな中でも、後ろを歩く朝霧と定吉は、優から目を離さない。
出会って今日まで、いくら警護と言っても、相手が男と言っても、彼等の見てくる視線があまりに強すぎて、たまに優の方が変に気恥ずかしくなってしまう程だ。
そんな中西宮は、何かあった時の為の伝令として舎殿に残り、観月は朝から大忙しのフル回転で社の神事に勤しんでいる。
観月が仕事に出る前、今日の予定を何も告げず出て行こうとするので優が尋ねたら、今はゆっくりするように、生活の事は何もかも全て自分が面倒を見るから心配は一切しない様にと妙に優しかった。
これで朝、自分が伝えた…
自分の事を何か決める前には一言事前に言って欲しい。
と言う事に、彼が理解を示してくれればいいのだが…
しかし、予定は無いが敢えて言うなら、と表と奥、舎殿同士を結ぶ渡り廊下前まで見送るよう請われた。
優が観月を朝霧達と共にそこまで送ると、そのまま行ってしまうと思った観月が振り返り優を見た。
ん?何か、待ってる?
観月が黙ったままなので、暫く優はポカンとして背の高い彼を見上げていたが、まさか、と思いながらも口を開いた。
「あの…いってらっしゃい…」
「うむ」
どうやら正解だったようで、観月は表情を変えず頷き、迎えに来ていた神職達と足速に行ってしまった。
なんだか一瞬、優は安いドラマとかで見た新婚夫婦のやり取りの様に感じてなんだか可笑しくて吹き出しそうになった。
そして、昼食を摂りに奥殿に一度観月が戻ると、又渡り廊下まで送った。
だが今回彼は、昼過ぎに一度神事の合間に抜けるので、優と二人だけで話しがしたいと言って出掛けて行った。
優の背後に居た、朝霧、西宮、定吉はそれを聞いて、今回何故かいい顔をしない。
優が何気無く庭池の少し遠くの紅い渡り橋を見ると、千夏を後ろに、巫女姿の姉妹が渡っていた。
彼女達が気づいたので、優は大きく手を振る。
小夜は深く会釈したが、千夏は相変わらず無表情のまま優をじっと見ていたが、姉に促されたのか一礼するとその後舎殿の方に帰って行った。
「千夏さんの修練の帰りですな。でも、今日はえらく早く切り上げた様な…」
定吉も彼女達に視線を向けて遠い目をしている。
「修練?」
まさか幼い少女が、自分の為にこの社に連れて来られているとは、優は想像すらしていない。
「尋女殿と同じ呪術師になる為の水晶の物見の修練ですね。今、尋女殿は無理なので、何人かの呪術師が付いて指導してるみたいです。千夏さんは、かなりの力を内に秘めているらしいですから…」
朝霧の口調に何気に棘があった。
まるで、その状況が好ましくないかの様な。
「気の所為かもしれませんけど、千夏ちゃん、昨日の昼位から少し元気がないですね…」
優がそう言うと、定吉が顎に手を当て不思議そうだ。
「そうですか?私にはいつも通りに見えますが。やはり主は千夏さんの事が特別分かるのかもしれないですね。そう言えば、貴継様も主と同じで千夏さんの変化が時折分かられますね。主と貴継様と千夏さんの間には、何か有るのでしょうか?千夏さんが人との接触が苦手なので…貴継様は余り近よらないよう気を付けておられるんですか…しかし、何故か千夏さんは以前からよく、貴継様の事もじっと見ている事がありますしね」
「確かに、いつもより元気がないような気がします」
朝霧が呟いた。
彼もそう思うなら間違いないかもしれない。
昨日は性欲の所為で、今日は朝から千夏も忙しそうで沢山話しかけず終いで、帰ったら真っ先に話しかけようと優が千夏の後ろ姿を目で追うと、一瞬だが、彼女に黒い影が付いている様に見えた。
瞼を何度かしばたかせ、再び見ると何も無かった。
「主、お疲れになりましたか?」
気が付くと腰を折った朝霧の顔がすぐ近くから覗いていて、優はびっくりして思わず顔が赤くなる。
「主、お疲れなら、私が抱いて帰りましょう!」
定吉がニコニコと大きく手を広げたので、優も笑顔で大丈夫だと辞退した。
しかし、あの黒いもの…
何か光の錯覚だろうと、優は気持ちを落ち着かせようとした。
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