149 譲れないもの(4)対策
広域殲滅魔法とテレポートを実質的に封じられたが、それでも魔王には卓越した魔法の技能が存在する。
だが、それらもこの状況では活かしにくい。
Job────────────────────
魔王 ランクS
「生きとし生けるすべてのものよ、我が軍門に降るがよい」
~終末の世界が産み落とせし魔の覇王、あるいは冷たき魔城にて
称号職である「魔王」は、圧倒的な魔力とそれを操る超絶した技術によってあらゆる敵を滅殺するジョブです。
あらゆる属性の魔法とあらゆる魔法関連技術に言語を絶した適性を持ち、世界のすべてを敵に回してもなお戦いうるだけの隔絶した戦闘力を誇ります。
反面、武器を使った接近戦の技能は伸びにくい傾向にあります。
MPとINTが常軌を逸した成長を遂げる一方、STRとLCKの成長には難があり、近接職として戦うのは絶望的です。
圧倒的な火力と障壁系の魔法で敵に接近を許さず封殺することを目指しましょう。
◇アビリティ
【無敵結界β】
物理、魔法を問わずあらゆる攻撃を防ぐ結界を展開する。結界の展開には常軌を逸したMPを消費する。結界の大きさ・形状はかなり柔軟に変化させることができる。
未だ不完全な結界であるため、まれに意図せぬフリーズが発生する。フリーズした結界はある程度の威力の攻撃を受けると破壊され、使用者の精神に打撃を与える(MNDがそれなりの時間0になる)。
【形態変化】
自分のHPが半分以下になったときに、第二形態に移行することができる。第二形態に移行すると、HPが全快し、全能力値が飛躍的に上昇する。
さらに、第二形態において自分のHPが20%以下になったときに、第三形態に移行することができる。第三形態に移行すると、HPが全快し、全能力値が破局的に上昇するとともに、ジョブ「勇者」以外からの最大HPの5%以下のダメージを無効化する。
いずれの形態の上昇効果も魔法等で解除することはできない。形態変化は戦闘の終了とともに解除される。第二形態は一日に一回、第三形態は三十日に一回しか使うことができない。
◇サポートアビリティ
【眷属統率】
なんらかの形でおのれの支配下、指揮下に置かれたあらゆる対象の能力値をやや上昇させる。このアビリティの対象となったものの五感をそれなりの時間共有することができる。五感共有後に再び共有するにはそれなりの時間を置く必要がある。対象とのあいだでそれなりの距離を超えての念話ができる。対象を一瞬だけ命令に従わせることができる。
◇ユニークボーナス
通常の「魔王」と比べ、
・火属性の魔法に破格の適性がある
・雷属性の魔法に破格の適性がある
・風属性の魔法に常軌を逸した適性がある
・魔法にもクリティカルヒットが発生する
・
・限定的なテレポートを使用できる
・魔法言語への理解がそれなりに深く、魔法の威力、MP消費効率、属性の増幅幅がそれなりに高い
・魔法の詠唱速度が破格に速い
・魔法の威力をかなり犠牲にすることで詠唱なしで魔法を発動することができる
・同時に複数の魔法を詠唱できるが、魔法の威力はかなり落ちる
・MPの自然回復速度が破格に速い
・敵の魔法を吸収し、自分のMPに変えることができるが、変換効率はかなり悪い
・破格の速度でひとりでに傷が回復する
・自分を殺しうる攻撃を事前に察知することができる
・死亡しても一度だけHPが全快の状態で生き返ることができる
・肉体が滅んでも幽体として生存できるが、生存時間は著しく短い
・本来VITで判定されるべきダメージをまれにMNDで軽減することができる
・あらゆる状態異常にかなりの耐性がある
・あらゆる種類の威圧にたじろぐことがない
・確率によって不利益を被るあらゆる効果を無効化する
・最大HP割合攻撃、現在HP割合攻撃、ダメージ固定値攻撃、防御力無視攻撃、防御貫通攻撃を無効化する
・最大HP低下効果、防御力低下効果にかなりかかりづらく、かつその効果をかなり減殺する
傾向にあります。
◇レベルアップボーナス
「魔王」はレベルアップ時の能力値上昇に以下のボーナスが加算されます。
MP +5, INT +6, VIT -2, MND +4, LCK -2
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使えそうなのは無詠唱と同時詠唱だろうか。
しかし、どちらも威力が犠牲になる。
あまりにも威力が低くなると、その魔法自体が不発になる。
たとえば、広域殲滅魔法を無詠唱で放とうとすると、威力が弱くなって発動するのではなく、そもそも魔法自体が発動しない。
本来の詠唱時間が長い魔法ほど、無詠唱にしたときの失敗率も高くなる。
じゃあ、同時詠唱はどうか?
同時詠唱は、無詠唱と違い、詠唱時間は通常の詠唱と変わらない。
詠唱時間が長いままでは、ほのかちゃんの先読みによる紗雪の「ヴォイドフレア」が間に合うだろう。
同時に複数の魔法を詠唱してても「ヴォイドフレア」で両方キャンセルされるはずだ。
それなら、ごく低レベルな魔法を無詠唱、あるいは同時詠唱で放つという手は?
これなら威力不足で魔法が不発になることもないし、詠唱がキャンセルされることもない。
……いや、ダメだな。
低レベルな魔法なんて、ほのかちゃんに狙いを読まれて避けられるだけだ。
でも、春原への牽制としてなら使えるか?
俺は無詠唱で春原に「フレイムランス」を放ってみる。
「甘いぜ!」
春原はステップを踏んで魔法をかわし、再び俺にまとわりつく。
短剣の間合いに持ち込もうとする春原を押し返しながら、
「フレイムランス!」「サンダージャベリン!」
今度は同時詠唱で魔法を放つ。
自分の口から同時に二つの言葉が出るのは奇妙な感覚だがもう慣れた。
「ハッ、見え見えなんだよ!」
俺が魔法を放つ直前に、春原は「フレイムランス」の射線から脱していた。
春原は「サンダージャベリン」だけを左手の短剣で斬り払う。
普通の武器で魔法は斬れない。
魔剣なら斬れるが、春原のジョブでは魔剣は持てない。
なら、短剣自体が特殊なんだろう。
この世界の俺の記憶にもない短剣だ。
「そんな武器持ってたか?」
「お生憎様。このダンジョンで拾ったんだよ!」
「ああ、そうか……」
俺はソロであることからこのダンジョンの宝箱を全部スルーしてやってきた。
だが、春原は本職の斥候職で、ほのかちゃんや紗雪のバックアップもある。
ほのかちゃんはモンスターが擬態した宝箱を見抜けるし、紗雪は呪いなど魔法的な原理による宝箱の罠を解除できる。
宝箱の回収率の高さも「セイバー・セイバー」の強みだったな。
「ちょっとズルいが……これを使うぞ」
Job────────────────────
簒奪者 ランクS
「俺はすべてを奪い、すべてを従える。たとえ相手が王であろうと神であろうと」
~
「盗賊」系統の上級職である「簒奪者」は、他者から奪うことに特化した特殊なジョブです。
モンスターを含む他者から奪った技能を我がものとして使い、従えた他者をおのが下僕として使役します。下僕とされた他者は、死して亡霊となったのちもその支配を脱することができません。
豊富な手札を誇る反面、自身の能力値は著しく低い傾向にあります。
また、どのような能力を奪えたかによって戦い方が大きく異なります。
蒐集した能力を組み合わせて戦略を組み立てることが死活的に重要となるでしょう。
◇アビリティ
【権能簒奪】
アイテム、能力、ときに相手の存在そのものを「奪う」ことができる。奪った能力や存在はカード化され、そのカードを使用することで能力の使用や存在の使役を行うことができる。カードには再使用可能なものと使い切りのものとがある。
◇サポートアビリティ
【奪取無効】
自分に属するあらゆるものを他者に奪われることがない。脅迫等、間接的な手段による強制的な譲渡には効果がない。
◇ユニークボーナス
通常の「簒奪者」と比べ、
・あらゆる種類の武器を高度に使いこなすことができる
・装備を一瞬で切り替えることができる
・あらゆる攻撃の命中率が破格に高い
・クリティカル発生時に頻繁に即死効果が発生する
・攻撃に溜めを作ることで溜め時間に応じて攻撃の威力がかなり上昇する
・奇襲、先制攻撃、背後からの攻撃時にダメージがかなり増加する
・自分のHPを代償にして与ダメージを飛躍的に上昇させることができる
・本来HPに与えるダメージをMPに与えることができるが、ダメージ効率は著しく悪い
・攻撃を回避する確率がやや高い
・「暗殺者」「忍者」の技能を高度に使いこなすことができる
・死亡するダメージを受けても一度だけHP1で生存することができる
・自身に迫るあらゆる危険をかなり察知することができる
・気配を隠匿する技術が破格に高い
・気配を察知する技術が破格に高い
・ダンジョンにしかけられた罠をほぼ確実に見破り、ほぼ確実に解除できる
・他者のステータスを破格の深度で読み取ることができ、ステータスの偽装をほぼ確実に見破ることができる
・自身のステータスをかなりの強度で偽装することができる
・モンスターからよりよいアイテムを得られる可能性がかなり高い
傾向にあります。
◇レベルアップボーナス
「簒奪者」はレベルアップ時の能力値上昇に以下のボーナスが加算されます。
DEX +3, AGI +3, LCK +3
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簒奪者は、ユニークボーナスが増え、程度表現が順当に成長している。
だが、それ以上に充実したのは【権能簒奪】のカードだ。
スキル「毒噴射1」「エナジードレイン1」「地割れ1」「分裂1」「凶暴化1」「魔力暴走」はそれぞれがスキルカードに。
モンスターカードも道中のモンスターは一通り揃った状態だ。
一層や二層で苦労したダークゲイザーやグリムリーパーといった即死攻撃を使うモンスターも揃えはしたが……さすがに今使うわけにはいかないな。
「来い――堡備人海、布袋!」
俺の召喚に応え、ホビットスモウレスラーとゴールデントレジャーホビットが現れた。
堡備人海はほのかちゃんに、布袋は紗雪に向かわせる。
この二体でも今の春原の相手は辛いと見たためだ。
だが、二体が標的までの距離を詰めきらないうちに、
「対象誤認!」
「ウィッチズ・セダクション!」
ほのかちゃんが堡備人海に、紗雪が布袋に技能を使う。
途端に二体のモンスターが回れ右をする。
堡備人海は俺のことをほのかちゃんだと誤認し、布袋は状態異常「魅了」にかかってる。
「や、ヤバっ!」
俺は慌てて二体の召喚を解除する。
「その手は想定済みなんだよ! それでズルいとか舐めてんのか!?」
「……そりゃそうか」
シークレットモンスターの弱点は、状態異常耐性のなさだ。
ボスだったときのホビットスモウレスラーにはダンジョンボス限定の状態異常耐性スキルがあったんだけどな。
道中で捕獲した雑魚モンスターを召喚しても同じだろう。
春原への壁役にできれば俺が後衛二人を狙えたかもしれないのだが。
「こっちの召喚モンスターまで把握済みか」
神様はそこまでしゃべったのか。
プライバシーに関することはしゃべってないと言ってたが、戦闘に関することはほとんどゲロったみたいだな。
とはいえ、神様を責めるのもお門違いだろう。
この世界の神様は、あくまでもこの世界の神様だ。
……なに当たり前のこと言ってんだと思われたかもしれないが、実際にそうだよな。
スキル世界のあの神様なら、俺の味方をしてくれたはずだ。
でも、
俺と俺’の比較なら俺’の味方だろうし、俺とほのかちゃんたちならほのかちゃんたちを選ぶだろう。
それでも、俺の相談に乗ってくれ、転職の便宜も図ってくれたんだ。
恨み言を言うような筋合いじゃない。
こっちの神様に見放されたのには、俺自身にも原因がある。
元の世界に帰ることを最優先と考えた俺は、その後いなくなるかもしれない俺’のことや、あとに残される仲間たちのことをまともに考えようとしなかった。
その余裕がなかった。
あるいは……怖かったのかもな。
俺のスキル世界への帰還がジョブ世界からの俺’の消滅とイコールだったばあい、俺は俺’とその仲間たちを切り捨てる必要に迫られる。
彼らと心が通じ合ってしまえば、元の世界に戻る覚悟が鈍っただろう。
……俺がこの世界の俺や仲間たちをもっと尊重してたら違う結果になったのか?
元の世界に戻ることを最優先に行動したことが、事態をかえって悪化させてしまったのか?
RPGの主人公みたいに、あきらめることなく全員がしあわせになれる方法を探すべきだったのか?
だが、そんなものが本当に存在するのか?
神様すら理解できない状況の中で、一体誰がそんな都合のいい答えを知ってるってんだ?
……いや、そんなのは今考えることじゃない。
一枚だけ、神様も知らないはずのカードがある。
「来い、アリス!」
俺が宙に放ったカードが光り、赤いずきんをかぶった愛くるしい金髪の少女が現れた。
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