第3話 弁当かよ!!
正直、ほっとしていた…と言ったら、非常に不謹慎であるのだけれど、どこへもいけないということは少なくとも、夫はリアルで私の知らないところで女性と会うことはできない。在宅ワークで外へ出ることもなく、私が買い物に行く程度の毎日、子供らも学校は休校。家族四人が珍しくも、外に出ることなくがっつりと家に凝縮された形になる。
朝昼晩ご飯を作り、掃除洗濯…つまりは今まで見られていなかったところを夫に見られることになるということでもある。
まず、私のやったことは寝る場所の確保であった。
自宅が手狭なこともあり、パソコンで遊ぶ部屋と寝室が一緒。つまり、毎晩二時ごろまであかあかと電気がついていた部屋では寝苦しい。しかも、夫は暗い中でパソコンで遊ぶことをストレスに感じるらしい。昼間に昼寝をして補填をしていたがそれも家族分の昼食を作るということがおこってくると難しくなる。私はどちらかというとロングスリーパータイプで誰よりも寝ることが重要だ。考えることがいっぱいいっぱいになると、これまた、寝ることにより頭を整理するタイプらしく、これまた、寝なければならない。甘えととらえられるかと思うが40過ぎまで、試行錯誤をした結果である。
一階の居間の隣、畳の間を寝室に決めた。
朝、五時ごろから息子が居間で勉強したり、遊んだりするので、微妙な場所ではあるけれども、まあ、二時ごろまで電気がついている部屋よりはマシである。
そうこうしていると、在宅ワークが始まった。
夫は子供らが騒ぐことを嫌がった。まぁ、仕事中、うるさいのは嫌だよね。判る。判るが! それは無理というものである。なにしろ、この4LDK内にいなきゃならない。政府のコロナ撲滅、国家的戦略であるのだから仕方ない。今となってはその戦略も微妙な段階でぎりぎりではあるのだけれど。
夫の仕事中はパソコンの部屋にもできる限り入らず、掃除もせず、息をひそめるようにして家事を行い、洗濯と三食ご飯を作ることをメインに置いて、動いた。ただ困ったのが買い物。今までちょうど宅配の自然派の食品を毎週頼んでいたのだけれど、これが注文過多でパンクして商品を注文しても届かない。しかもそれが判るのが当日。月曜に荷物が届き、足りないものに頭を悩ませ、近くのスーパーに買いに行く。外に出て戻ってくると、家が散らかっている。子供らの仕業だ。そして、こっそり片付ける。ご飯を作る、洗濯をする。結構、覚えているのは部屋がどんなに片づけても散らかることで、掃除機をかけても人が通るだけで気が付くと、よごれていることである。多分、これに関しては人が動く分、埃が舞ったりして、掃除機をかけても掃除にならないということなのかもしれない。そして、掃除機はうるさいのでフロアモップで拭き掃除が主になって、それだけでは取り切れない塵が残り………まぁ、とにかく、掃除しても片づけても元の木阿弥だった。
そして、私は昼寝を再開した。とにかくつかれるのだ。ぴりぴりして、常に綺麗にとは子供がいる状況で何と難しいことなんだろう。
そして、昼寝をしていると、ちょっとした三時の休憩で一階へ降りてきた夫がそれを見て、私がナニモシテナイなどと言った。けれど、私はそれに構っている暇はなかった。神経をすり減らし、家事掃除を息をひそめるようにやって、朝早く起こされ、一日中起きている事なんてもう耐えられなかった。
そんな折、娘と息子が喧嘩をして、娘が自爆的に怪我をした。といっても、せいぜい、手の切り傷程度である。私が昼寝をしていた時なので仔細はよく知らない。それについて、私をなじり、息子をかなり大声で叱った。
私は泣くしかなかったし、家事掃除もしっかりやっているのになんでそこまで言われなければならないという旨のことを言ったと思う。しかし、夫は私など何もしていないと言い張って、まだ、パートにでも出て働いていた方が頑張っているように見えるなどとも言った。それからが亀裂である。夫が在宅ワークは最高だ、なにより通勤がないなどと喜ぶ中、私はもう二度とこんな目には遭いたくない。会社へ行ってくれた方が良いと言った。当たり前だろう。どんなに頑張っていても、ちょっとしたことで怒鳴られる、文句を言われる。私が休まる時間もない。報われない。誰も感謝もしない。
旦那が会社へ行くようになってから、ホッとしたのもつかの間、また、妙なことをし始めた。朝に作った弁当を残してくるのである。
「弁当がまずい、いらない、パンを買って来い」である。
弁当は前と変わらない。それでも、残して帰って来るし、夏で暑いのもあり、食欲不振なのだろうと思って、言いたい気持ちをぐっとこらえて、しばらく、菓子パンを持たせた。
9月頃だっただろうか、そろそろ、涼しくなったことだし、菓子パンばかりではあまりに栄養的によろしくない。と、思い、実母の勧めで弁当を作った。
すると、弁当かよ! パンじゃないのか!! と怒鳴って、そのまま、会社へ行ってしまった。それを目の前で見ていた息子は「普通、パンなのかよ、弁当じゃないのか!?」だよねえ…とびっくりした顔をして、朝の用意をしながら私に言った。教育上よろしくない…困ったなぁ…なんて思いながら、やはり、仕方なく、パンを買い続け、弁当を作るのを辞めたのである。
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