第二章第48話 行われない救出作戦
闘技場から撤退した俺たちは、ベヒーモスの一撃を受けて傷ついたリカルドさんを運んで前線基地まで戻ってきた。
あの巨大な魔石に基地内はざわついたが、エレナがどこかに転移させられたという話が伝わると基地内は絶望的な雰囲気になった。
「あの子が迷宮の糧にされたら、もう俺たちは終わりじゃないのか?」
「『蒼銀の牙』は何をやってたんだ」
「馬鹿を言うな。俺らじゃもう厳しくなってたじゃねぇか」
「だからって、あの『剣姫』を失うなんて……」
「どっちみち、『剣姫』が死んで『蒼銀の牙』でも太刀打ちできねぇならもう無理だろう。他のギルドに応援を頼むしかねぇ」
「だがよう。他の支部の奴らは……」
「大体、アントニオさんがやられた時点で最初から無理だったんだよ。それを見栄張ってうちでやるなんて言い出すから悪いんだ。支部長のせいだろうよ」
「そうかもしれねぇが、王都から面倒な奴らがわんさか来るんだぞ?」
「だからといっても、死にたかねぇよ」
前線基地では冒険者たちが身勝手な噂話をしており、中には俺たちや支部長の責任を問う声もちらほら聞こえてくる。
そんな彼らに共通しているのは、エレナはすでに死んでおり迷宮の糧となったという前提で話されていることだ。
それを聞いて妙に気持ちがざわついている部分もあるが、一方でそうなんじゃないかと冷静に考えてしまっている自分もいる。
物語のヒーローであればきっと「女の子を一人で放っておけない」なんていう理想で迷宮の中に突撃して、そして本当に救い出してくるのだろう。
だが、俺は……。
「おう、『断魔』。残念だったな」
「ロドリゴさん……」
「あんな奴でも幼馴染だっていろいろ世話焼いてたみてぇだがな。まあ、冒険者をやってりゃいつかこういうことはあるもんだ」
「……」
「それにな。あの『剣姫』はどのみち長生きなんかできなかったぜ。今回のは、それがたまたま早まっただけだ」
「え?」
「こんだけ冒険者がいて、誰一人『剣姫』を助けに行こうってやつは居ねぇんだ」
それは……そうだ。だが、それは迷宮の難易度が高すぎるからじゃないのか?
「前にアントニオさんやお前が奥に取り残されたときは全員で救助に動いたんだぜ。冒険者やってんのに、まわりの冒険者に散々喧嘩を売って回ってりゃ当然こうなる。お前はお人よしだからな。そんなことはしねぇと思うが、気をつけな」
「……はい」
「それにな。女なら他に良い女がいくらでもいるんだぜ? 何なら、経験豊富なねーちゃんを紹介してやろうか? 男にしてくれるぜ?」
「……いえ。大丈夫です」
俺は何とか絞り出す。
「そりゃそうか。あんな滅茶苦茶な奴でも幼馴染なんだもんな。ま、気が変わったらいつでも言えよ」
明るい様子でそう言うとロドリゴさんは他の冒険者たちのところへと戻っていったのだった。
ロドリゴさんを見送った俺はカリストさんに尋ねる。
「カリストさん。エレナの救出作戦は……」
俺の問いに対してカリストさんは俺の目を真剣な表情でじっと見てきた。
「ディーノ君。すまない。幼馴染のエレナちゃんを大切に思う気持ちはわかるよ。だけどね。どこにいるかわからないエレナちゃんを助けるために、無鉄砲な真似はできないんだ。今までと同じように、一歩一歩確実に進む以外の方法はないよ。迷宮攻略の責任者として、他の冒険者を殺すような選択はできないんだ」
「でも! エレナが迷宮の奥で死んで糧にされてしまったら!」
「迷宮の力は増すと思うよ。だけどね。たとえそうなったとしても、地道に力を削り続けていればいずれはエレナちゃんが糧にされた分の力も削り取ることができるはずなんだ」
「でも!」
「気持ちはわかるよ。だけど、仕方ないんだ。迷宮と戦う冒険者がいなくなればサバンテの町は終わりだからね。僕の判断は変わらないよ。今僕たちができることは、出張場に連絡を入れて他の支部から増援を頼むようにはお願いをしておくくらいしかないんだ」
「……わかり、ました」
仕方ない、のか?
たしかにエレナは暴力ばかり振るっていたし、周りに噛みつきまくってどんどん敵を増やしていた。
でも最近のエレナは少しずつ変わってきていたように思うのだ。
そんなエレナが死ぬ。
しかも迷宮の奥深くでひとりぼっちで。
そう考えると何故か胸がキュッと苦しくなる。
別に、エレナのことなど俺は何とも思っていないはずなのに……。
よく分からないが、これはきっとエレナが幼馴染だからだろう。小さいころから話をしていた相手なんてエレナとフリオくらいなものなのだ。
仲良しというわけではないが、フリオがあんなことになってしまったのを目の当たりにしたばかりだ。ここでエレナが死んでしまったらきっと寝覚めが良くない。
そうだ。単にそれだけの話しなんだと思う。
でも……そうだよな。寝覚めが良くないなら、俺が助けに行くべきだよな。
そのために俺はどうしたら良いんだろうか?
はっきり言って俺一人の力で迷宮に挑むなどとても不可能だ。俺にはエレナのような強さどころか、カリストさんに対してだって勝つことはできないだろう。
そんな実力しかないくせに、装備に守られているだけの俺が一人で突っ込んでどうにかなる見込みなど万に一つもない。
そもそも、俺のギフトは戦闘系ではないのだ。MP と MGC だけはそれなりに増えたが、他のステータスははっきり言って戦闘系のギフトを貰った駆け出しと大差ないレベルだ。【剣術】だってレベル 2 のままだ。
一体どうすれば?
そこまで考えたところで俺は唐突に閃いた。
そうだ! もしかして、ガチャを引きまくればいいんじゃないか?
神引きすればエレナを救いに行けるだけの力が手に入るじゃないか!
名案を思いついた俺は立ち上がる。
「カリストさん。俺、ちょっと外に出て頭を冷やしてきます」
「そうだね。そうしておいで」
「はい。ありがとうございます」
こうして俺は全ての報酬を換金するため、出張所へと向かって歩きだしたのだった。
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次回更新は通常通り、2021/05/10 (月) 21:00 を予定しております。
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