第40話 合同作戦
それから三日後、俺はトーニャちゃん、そしてカリストさん達『蒼銀の牙』の皆さんと共に北の森へと出撃した。目的はもちろんフリオの討伐で、領主軍との合同作戦だ。
「貴様らが冒険者の代表か。アントニオ殿は良いとしても、他の連中は信用できるのか? 以前あの男がギルドを襲撃した時もアントニオ殿以外は役に立たなかったと聞いているぞ?」
「あらン? そのフリオちゃんに手も足も出なかった子猫ちゃん達は誰だったかしらン?」
領主軍の指揮官らしき人が嫌味を言ってきたがトーニャちゃんはさらりとそう返した。
「なっ!? アントニオ殿! それは暴言ですぞ!」
「あらン? そうかしらン? じゃあ、フリオちゃんがそっちに行っても安心して任せて良いってことかしらン?」
「う、ぐ……」
おお、指揮官が黙った。Aランク冒険者ともなると領主軍の指揮官という偉い人にも一歩も引かずに渡り合えるらしい。
「それじゃあ、手筈通りに頼むわよン」
「そ、そうですな。アントニオ殿、よろしく頼みますぞ」
それに対してトーニャちゃんはぱちりとウィンクを返したのだった。
****
再び北の森を進んだ俺たちはフリオが潜伏しているという情報のある洞窟へとやってきた。そしてその洞窟の前は既にゴブリンの巣らしき状態になっている。
「すごい繁殖力ですね」
「ゴブリンはそう言うものだよ。ただ、それにしても数が多いね」
「イヤな予感がするわねン。あたしのアソコが危険を報せて疼くわン」
それがどこかは知らぬが仏というやつだろう。
「それじゃあ、作戦通りにお願いするわよン」
「ああ。任せてくだされ」
指揮官がそう言うと攻撃の指示を受けた領主軍の兵士たちが突撃を開始した。さすがに普通のゴブリンであれば鍛えられた領主軍の兵士たちの敵ではないようだ。次々とゴブリンたちを葬っていく。
そして領主軍が抑えている間に俺たちは洞窟へと侵入する。
俺たちの役目はフリオを討つことだ。今回の作戦ではカリストさん達はトーニャちゃんと俺をフリオのところへと送り届けるのが役目で、トーニャちゃんはフリオを止めるのが役目だ。
そして俺はフリオに断魔の聖剣のアーツであるデーモンハントを叩き込む事だ。トーニャちゃんでもフリオ程度であれば倒せるかもしれないが、悪魔狩りの聖剣の力であればもしかしたらフリオを元に戻して罪を償わせることだってできるかもしれない、ということでこのような役回りになったのだ。
まあ、ギルドがガチャの先行投資をした分の体面を保つという事情もそれなりあるのだが……。
そして洞窟の中に入った俺たちを待ち受けていたのは大量のゴブリンたちだった。ルイシーナさんがすかさず水の槍を撃ち込んで開戦の狼煙を上げる。
俺たちの侵入に気付いたゴブリンたちは一斉に襲い掛かってきた。それをリカルドさんが受け止め、カリストさんが華麗な剣技で斬り捨て、そしてルイシーナさんの水の槍もゴブリンたちの勢いを止めるのに一役買ってくれている。
そして不思議なことに、倒したゴブリンは魔石だけを残してまるで砂のように消えたのだ!
「アントニオさん。これはもしかすると」
その様子を見たカリストさんがトーニャちゃんに声をかけ、トーニャちゃんもそれに答える。
「そうねン。これはたぶん迷宮ねン」
迷宮だって!?
迷宮といえば魔物を無限に吐き出し続ける害悪の中の害悪だ。しかも迷宮はその核を破壊しない限りは永遠に成長し続け、迷宮が地脈に到達したときに
もしそうなったが最後、あり得ない量の魔物が迷宮から溢れ出し、辺り一帯は完全なる魔物の領域と化してしまうのだ。過去にこれで国が一つ滅んだという記録さえあるほどの脅威で、迷宮を攻略した者は英雄と呼ばれる。
「もし迷宮であれば、このまま奥に進むのは危険ですわ」
「ああ、俺もそう思う」
「アントニオさん。一度撤退すべきではありませんか?」
メラニアさんが、リカルドさんが、そしてルイシーナさんまでもが撤退を進言する。
「そうねン。見えているのを潰したら撤退よン」
それを聞いたトーニャちゃんも間髪入れずに撤退の判断を下した。俺にはこの判断の是非はよく分からないが、全員がそう判断するという事はそれで正しいのだろう。
こうして襲い掛かってきたゴブリンたちを倒して魔石を回収すると俺たちは洞窟を脱出したのだった。
****
「おや? どうしたのですかな? アントニオ殿。もうあの男は倒したのですかな?」
「倒してないわン。先に進むべきではないと判断して撤退したのよン」
「どういうことですかな? あれだけの事を言っていながらまさか――」
「あれは迷宮よン。無策で突入するほど馬鹿じゃないわン」
「なっ!? 迷宮ですと!?」
「そうよン。洞窟内で倒したゴブリンは魔石だけ残して消えたわン」
「……」
それを聞いた指揮官はしばし押し黙り、それからおもむろに口を開いた。
「わかりました。入り口は我々で封鎖しましょう。攻略はアントニオ殿が行うのですな?」
先ほど嫌味を言ってマウントを取ろうとしていた指揮官が同一人物とは思えないほどに態度を豹変させている。
やはり迷宮が出現したということはそれほどの事態だという事なのだろう。
「そのつもりよン。でも一度ギルドに戻って相談させてちょうだい」
こうして合同作戦は一時中止となり、俺たちはサバンテの町へと帰還したのだった。
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