第46話 エピローグ

 戦争が終結して三ヵ月後、サザランドの城内で結婚式が執り行われていた。

 新郎はタルミで新婦はアリアの夫婦だった。

 この三ヵ月の間にチェスゴーのグレゴリ王は他界した。元の三国全ての王が他界し、その親族すら居ないと言う非常事態となった。

 各国の宰相が集まり協議し、三国が一つの国となる事で合意する。新たな国の王としてタルミが選ばれた。その決定に意義を申し立てる者もなく着々と平和が築かれて行った。


「緊張するな」


 真っ白な燕尾服を着たタルミが、純白のウエディングドレスを着たアリアの手を引きエスコートする。

 謁見の間の窓から二人が姿を現すと、下で待つ民衆達が歓声を上げる。その中には魔物の姿の者も居る。


「皆様お集まり頂いてありがとうございます。私は今日妻を娶りました」


 タルミとアリアが手を振ると歓声が上がる。


「妻は人間ではありません。魔族の者です。私は人間と魔族を区別しません。ここは人間と魔族が手を取り合い争いの無い国にして行きます。私達夫婦がその象徴です!」


 タルミが演説を終え、二人が手を振ると今までで最高の歓声が沸きあがった。

 フーと溜息を吐き緊張をほぐすタルミ。


「なかなか立派な演説でしたよ」


 珍しくターシアンがタルミを持ち上げる。


「本当に感心したぜ」

「姉さんも綺麗だったよ」


 アルテリオとモニカの夫婦が笑顔で迎える。


「次はシュウとエルミーユの番だな」


 タルミが横に居る二人に声を掛ける。


「俺達は魔王に従う残党を片付けてからにします。まだ何人かは居るみたいだし」

「気を付けろよ」

「大丈夫、俺には世界一の治癒魔法使いが付いていますから」


 シュウはエルミーユの肩を引き寄せた。


「さあ、タルちゃんとアリアちゃんの結婚式も終わったし、私達も出発するか」


 大きな荷物を背負ったジョエルが言う。


「お前本当に行くのか」


 シュウがジョエルに言う。

 ジョエルは大陸の中央に有るガンバーズと言う山脈を越え、東の地に冒険に行くのだ。


「だとしても一人で行けよ。レオまで連れて行く事ないだろ」


 その冒険にレオまで一緒に行くと言うのだ。


「だって冒険の話をしたら一緒に行きたいって言うんだもん」

「レオ、本当に行くのか?」

「うん、俺、自分の力を試して見たいんだ」


 シュウの問い掛けにレオは無邪気に笑う。


「体には気を付けるのよ」


 エルミーユがレオの頭を撫ぜる。


「あの……」


 レオは二人に抱きついた。


「お父さん、お母さん。二人の事は忘れないよ。またきっと戻ってくるからね」


 レオの言葉に皆貰い泣きしてしまう。


「後は親父さんか……」


 タルミが呟く。


「父は今日参加しなくて申し訳ないと言っていました。多分ハンナ以外は、誰にも会わずに戻るつもりだと思います」


 シュウは三日前に、自分の世界に戻ったエリオンの事を思い出していた。




 エリオンは鉱石を集め、自分の世界に戻る手筈を整えた。本来は勇者の証が揃えば元の世界に帰れる筈だったが、ラスティンと一緒に消滅してしまったのだ。

 自分の世界に戻ろうとするエリオンの横にはレイラが居た。

 二人は一緒に戻る事にしたのだ。


「俺はもうこの世界に来ることはない。後は、この鉱石は君達が使ってくれ」


 見送るシュウにエリオンはそう言い、三種類の鉱石を合わせ消えて行った。

 残された鉱石をシュウは拾い上げ隆弘に渡したのだ。




「父さんどうするつもりなのかな」


 シュウは窓から空を見て、隆弘の事を思った。




 平原が見渡せる丘の上に座り、隆弘は手の中の三種類の鉱石を見詰めていた。横にはハンナが座っている。

 何も会話がないまま、もうかなりの時間が過ぎていた。


「ごめん」


 急に隆弘は謝った。


「謝らなくて良いよ。私、お父さんと出会えて本当に良かったと思っている」


 ハンナは立ち上がり、隆弘に笑顔で振り向いた。


「憧れや想像ではなく本当に人を好きになるって事をお父さんに教えて貰った。私の大事な宝物だよ」


 ハンナは隆弘の目の前にしゃがみ込んだ。


「だから笑って。笑顔でさよならしよう」


 隆弘は顔を上げハンナを見た。

 ハンナは軽くキスをする。


「ごめん……」


 隆弘は立ち上がった。ハンナも一緒に立ち上がった。


「ごめん……」


 笑顔のハンナに隆弘はもう一度謝った。

 隆弘が手の中の鉱石を握り締めると体が眩い光に包まれる。

 元の世界に戻る瞬間、隆弘がハンナの顔を見るとその目から大粒の涙が溢れていた。


「ごめん!」


 恐らくハンナには届いてはいないだろうが、隆弘はもう一度叫んだ。




 隆弘が元の世界に戻ってから三ヶ月が過ぎた。

 当初はシュウを隆弘が殺したと騒がれ、警察にも疑われたが記憶喪失で押し通した。当然だが死体や証拠や動機も無く、調べが終わると隆弘は開放された。

 隆弘は妻の裕子と次男の空には異世界の事を話していた。異世界からのメールを受け取っていた裕子と空は隆弘の言葉を信じて三人は元の生活を取り戻しつつあった。

 落ち着いた生活ではあったが、隆弘はまだハンナの事が心の中に重く残っていた。裕子の事は愛しているし、これで良かったとは思う。だが、理屈では納得出来ない思いが残っているのだ。

 時間が解決してくれるか。

 隆弘はそう願うしか無かった。




 隆弘達三人はショッピングモールで買い物をしていた。


「良いよなー、兄貴は異世界で救世主と呼ばれて綺麗な嫁さんまで貰ったなんて」


 三人がスポーツ用品店の前を通った時に、空が呟いた。野球道具を見て思い出したのだろう。


「そう言うけど、向こうは何の娯楽も無いし行っても退屈するだけだぞ」


 と、隆弘が空に言う。


「そんな事言わないで。空まで居なくなったら母さん寂しくて気が変になるわ」


 裕子が冗談じゃないっと言った表情で空をたしなめた。

 と、その時。急に三人の周りが暗くなり七色に輝く雲に包まれる。


「こ、これは……」


 異世界とこの世界を結ぶ空間ではないか?

 隆弘は驚く。


「お父さん!」


 隆弘の耳に懐かしい声が響く。

 頭上の声がした方を見ると、少し大人っぽくなったシスター姿のハンナが居る。異世界では三年近く経っているのだろう。


「ハンナ!」


 隆弘は落ちてくるハンナを受け止める。


「何? あなた隠し子が居たの!」

「ち、違う、この娘(こ)は異世界でシュウに仕えていたシスターなんだ」


 隆弘は裕子にハンナとの関係は話していなかった。


「異世界が大変なの! お父さんの力を借りたいってシュウに頼まれて私が来たの」


 ハンナは真剣な顔をしている。嘘ではないと隆弘は感じた。


「駄目よ、あなた! もう私達を置いて行かないで」


 裕子が必死に止める。


「シュウのお母さんと弟さんですね。シュウから皆さんも連れて来るように言われています。異世界とこの世界の行き来は出来ますから兎に角一緒に来てください」

「良し! これで俺も救世主だ!」


 ハンナの言葉に空が喜ぶ。

 隆弘はハンナと裕子の顔を見て一緒に行っても良いのかと躊躇したが、異世界の危機だと腹を括った。


「よし、もう一度異世界を救うか!」


                             終わり 

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最強親父と勇者な息子の異世界伝説 滝田タイシン @seiginomikata

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