第41話 先代勇者対魔王
「頼む、国は明け渡すから命だけは助けてくれ」
ターバラの王、ゴライアスは太った体を床に擦り付けるように土下座している。
「頼む? 助けてくれ? お前はまだ自分の立場が分かっていないようだな」
ダラムの王であり魔王となった、ラスティンは玉座の上からゴライアスを見下ろし笑う。
ターバラの王宮はダラムに制圧されている。
謁見の間にはゴライアス王とその妻、娘の三人以外はターバラ側の人間はいない。玉座に座るラスティン、その傍に控えるヘルム。その他はダラム兵で占められていた。
ターバラの首都バスキはダラム兵の侵攻により、あっさりと陥落した。
篭城覚悟でバスキの城門を閉ざしたが、ラスティン自らの気功弾で破壊され、ダラム兵の侵攻を許してしまう。数で圧倒するダラム兵にターバラはなす統べなく壊滅させられる。
バスキ陥落後、すぐに主だったターバラの家臣は処刑され、王のゴライアスとその家族を残すのみとなっている。ターバラは国として消滅の危機を迎えていた。
「どうなさいますか? こいつもトカゲの奴と同じように目の前で家族を殺しましょうか?」
ヘルムが厭らしい笑いを浮かべてラスティンにささやく。
「この豚野郎があのトカゲ程の気骨があれば楽しめるがな。こいつが心配しているのは自分の命のみよ」
そう言うとラスティンはゴライアスの顔に唾を吐き掛けた。
「王様!」
ハリスが慌てて駆け込んで来て、ラスティンの前に跪く。
「なんだ、騒がしい」
「ダラムより連絡がありました! チェスゴー軍に国境を破られ、敵はサザランドに向っているとの事です!」
「何!」
ハリスの報告を聞きラスティンは驚いた。
「ヘルム! お前知っていたな」
「ご安心ください、魔王様。国境を破られはしましたが、もう手は打っております。私にお任せください」
ヘルムは顔色一つ変えずにそう答えた。
「もし、サザランドが敵の手に落ちたら、その時の覚悟はあるのだろうな」
「その時は私の命を差し出します」
ヘルムはラスティンにお辞儀した。
「よし、ここを片付けてサザランドへ戻るぞ」
同時刻、隆弘とハンナはバスキの王宮内を、ラスティンを探し奔走している。二人とも倒したダラム兵の鎧を着て、侵攻の混乱に乗じて王宮内に侵入していた。
「ダラムの王の居そうな場所は分かりそうか?」
「たぶん、玉座に居ると思う。玉座は占領の証だから」
二人はラスティンを探し回りながらも、狼藉を働くダラム兵を打ち倒す。
ターバラに入り、ここまで見た村々の悲惨な光景が目の前で繰り広げられている。全ての狼藉者を倒して回りたいが、その大元を倒すのが先だった。
ラスティンは玉座を降り、ゴライアスの元に歩み寄る。
「勇者の証を出せ。持っているのだろ」
「は、はい」
ゴライアスは懐からターバラで管理する勇者の証を取り出しラスティンに手渡した。
ラスティンは自分の持つ勇者の証を取り出し、二つとも目の前にかざす。
「後一つ揃えば、俺が伝説となる」
「止めときな。伝説はお前が背負うには重すぎる」
「誰だ!」
ラスティンが声の方を見ると、隆弘とハンナが立っている。
ハンナが詠唱を終え、魔法を放つ。
ハンナの放った火の玉がゴライアスやその妻と娘の周りにいる兵士達を次々と倒していった。
「ハッ!」
ラスティンが気合と共に手の平から黒い気功弾を隆弘とハンナに向け放つ。
二人に当る寸前で隆弘が手で払い除けた。
「お前何者だ」
ラスティンが少し驚いたように聞く。
「俺は先代の勇者、お前こそ何者だ。この気功弾、ただの野心家の王とは違うみたいだな」
隆弘もラスティンの予想外の能力に驚く。
「俺は世界を統べる王ラスティン。魔王の生まれ変わりであり、新たな伝説となる者だ」
「魔王が復活したのか」
隆弘は身軽になるように鎧を脱ぎ捨てた。
「一つ教えてやろう。悪が伝説になる事などどこの世界にもない」
隆弘とラスティンの間に緊張が走る。
最初に仕掛けたのはラスティン。
目にも留まらぬ速さで隆弘との距離を詰め、その瞬間から数えられないくらいの速さで拳を放つ。
隆弘は全てを手の平で受け、一発もダメージを受けない。
両者が後ろに飛び退き、間合いを開ける。
「まるで百烈拳だな。面白い相手だ」
「いつまで面白いと言っていられるかな」
ラスティンはニヤリと笑い、手を握り締め気合を込める。
「ハッ!」
ラスティンは手の平から気功弾を隆弘の上空に放つ。黒い気功弾は隆弘の頭の上で爆ぜ、雨のように降り注ぐ。
隆弘はハンナを抱きかかえ雨の範囲から避難させると、一瞬でラスティンの目の前まで駆け寄り反撃する。
連続して繰り出される拳。その拳は光に包まれ、掠ったラスティンの服が消滅する。
拳を受ける事が出来ないラスティンは徐々に追い込まれ、苦し紛れに蹴りを放つ。
隆弘が蹴りを避け後ろに下がり間合いが開く。
「お前本当に魔王か? エリオンの足元にも及ばねえな」
隆弘があきれたように呟くと、ラスティンは体を丸めうずくまる。
「はああああ」
ラスティンが徐々に体を開くと、頭には二本の角が生え、体は硬く黒く変色し魔王の本性が現れた。
「変身系かよ。まだ変身回数残しているとか言うなよ」
隆弘が間合いを詰め攻撃する。今度はお互いに拳の応酬になり一歩も譲らない。
ラスティンが痺れを切らし後ろに飛び退く。
「ハッ!」
ラスティンが放った気功弾は隆弘ではなくハンナの方に向う。
「しまった!」
隆弘はハンナの元に向うが、身を挺して庇うのがやっとで背中に気功弾を受けてしまう。
「ぐあっ!」
「お父さん!」
隆弘は大きなダメージを受けたが、ハンナを庇い覆いかぶさってガードする。
「不様だな。守る者がある人間は弱いものよ」
ラスティンは隆弘に近づき、屈辱を与えるように背中の傷を足で踏みつけた。
「ぐっ」
隆弘の顔が苦痛に歪む。
「止めを差してやろう」
ラスティンが手の平を隆弘の背中に向ける。
隆弘は最後の力を振り絞り、ハンナを抱き締め瞬間移送した。
「チッ、逃がしたか」
ラスティンが口惜しそうに呟く。
「まあ良い。あのダメージでは長くは生きられないだろう」
ラスティンはハリスの方を向く。
「ゴライアスの一族を皆殺しにしろ。すぐにサザランドに向う!」
「はい」
ハリスは緊張した面持ちで返事をする。
「俺に逆らう奴は全て潰してくれるわ」
ラスティンは不敵に笑った。
バスキのすぐ近く、隆弘とハンナが馬を留めていた場所に、二人は瞬間移動で現れた。
「お父さん」
ハンナが隆弘を抱き締める。
「すまん、ここまでがやっとだった。俺を置いて早く逃げろ……」
「嫌だよ。お父さんを置いて行けないよ」
ハンナの瞳から涙がこぼれる。
隆弘がハンナの涙を指で拭い優しく笑う。
「幸せになれよ……」
隆弘はそう言うと意識が遠くなる。
「嫌―っ!」
ハンナは泣き叫ぶ。
何とか出来ないか?
ハンナは記憶をフル回転させ方法を探す。
「あ、そうだ!」
ハンナは立ち上がり、自分のカバンを探った。
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