第82話番外編.黒(歴史の)騎士物語7

それまで気圧計に変化の兆候は無かったが。

走行中に急激に視界が変化する。

西から白い壁が襲ってきたのだ。

一瞬で風が追いつき軍曹が叫ぶ。

「簡易気圧計!!急激に上昇中!」

視界が一面、白い世界に代わる。

見上げる空は明るいのに…。。

我が小隊は吹雪気圧の谷に巻き込まれたのだ。

地面を叩く風は大地に落ちた雪を舞い上がらせ。

全ての情報を我々から奪ってゆく。

「5番より報告。後続の橇が居ません!!」

後続の叫ぶ声が風にかき消される。

「なんだと!!」

辛うじて聞こえる程度だ。

「6番、橇が見えないそうです!」

後部に立つ軍曹が叫ぶ。

白い暗闇の中、ランプでシルエットは解る。

視界悪化の時はカーバイトランプの後方誘導灯に使う…。

教本通りだが、後続が光を見失ったのだ。

橇が一機はぐれた。

この雪原で。

「停止!停止!!」

停止の旗で徐々に速度が落ちる。

視界は白い世界だ。

停止する後続の橇はカーバイトランプの輪郭しか分らない。

見上げれば青空が見えるのに…。

「何処にいる!!6番。アクリダ二等兵!」

「おーい!」「おーい!」

5台の橇は停止している。

犬も無事の様子だ。(俺はやるぜ!)

「おい!犬に探させろ!」

兵の指示で犬が鼻を嗅いでいる。

雄叫びを上げる犬達。(やるならやらねば!!)

風と雪にかき消される犬の遠吠え…。

返答が無い。

「くそっ!犬の声が通らないほど遠いのか!!」

空は見えるのだ…。

軍曹が答える。

「風が強いので…。届かないのかもしれません。」

「攻撃の魔法札を使え!目標直上!!」

兵の操作で一発、天に上る。

この不思議な吹雪は視界が狭いが青空が見えるのだ。

時間が経つ。

「もう一度、やれ。」

兵がお札の束に手を掛けると。

橇の上に立った兵が叫ぶ。

「あちらの方に!!光!」

風の中、かすかに雄叫びが聞こえる。

犬が気が付いて雄叫びに答える、

それに答える雄叫び、大きくなっている。

「「「おーい!!」」」(おれはやるぜ!)

「おーい!!」(あそぶーー!)

白い視界に輪郭が大きくなってゆく。

「小隊長殿申し訳ございませんでした。目標を見失いました。」

見たところ橇も犬も異常は無さそうだ。

「怪我人は居るか?」

「居ません。人犬共に無事です。」

伍長が点検して良好のサインを出す。

「ああ、無事なら良い。では出るぞ。」

軍曹が隊列を整え犬が走る。

我々は最高の技量を持った部隊で先鋭の兵隊だ。

これ程の兵を僕みたいな騎士士官が操るのは名誉な事だ。

「必ず届ける。ヴァイス殿に…。」

呟いた言葉は誰にも聞かれず風に消えたはずだ…。

誰にも。

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