第80話.悪魔のダンジョン9

クソッ、俺の人生ツイて無い…。

仕事が無く成ったので新しい町に来た…。

他町の冒険者ギルドでの紹介だった。

魔物が出る穴での討伐、名前の知らないお貴族様からの依頼で高額な報酬が用意されていた。

装備を整え付いた先。

洞窟の中の魔物は危険だ。

即席で組んだチームは悪くなかった…。

数回、討伐で組んだ相手は若いのが中心だった。

経験は浅いので慎重さが足りないが…。

まあ、何とかなる程度だ、俺も若い時は放漫だった。

問題は起きなかった、下の階層に降りた瞬間。

女の魔物が出て…。

気が付いたら俺は仲間に殴り倒されていた。

どうやら俺が意識を失って仲間に斬りかかったそうだ…。

覚えていない。

しかし、俺が仲間を傷つけてしまった。

仲間から衛兵に突き出された、事情を聴いただけで屯所から追い出されてしまった。

只の仲間割れだと思われている…。

結局チームは解散して。

ギルドで俺の噂が広がってもう組むヤツも居ない。

今は客も少ない酒場で一人、テーブルを占領して、少ない銭で酒をかっ喰らっている。

クソだ!

ココはクソしか居ない肥溜めだ。

カウンターの店主が嫌な顔を隠さない。

全ての物が高額で…。

ぼったくりの値段だ…。

「帰るか…。」

何処に?

ココでは酒一杯の銭で王都では吐くほど飲める金額だ。


ココを出ても帰る場所も充ても無い。


寒村で生まれた俺は、相続する土地も農地も無い三男だった。

同じ様な境遇で吊るんでいた幼馴染と共に村を出た。

ソイツは小作農の家の長男で…。

弟が居るので家を捨てたのだ。

村を出る当日、妹が付いてくるとは思わなかった。

王都都会に出れば何とかなるはずだ。

そう想い出て来た王都は余所者に厳しかった。

冒険者ギルドで登録して、初めての討伐任務。

魔物を前にしても、見よう見まねで振って来た剣がまるで役に立たない…。

初任務は結局失敗してしまった。

常時依頼なので反則金は無かったが…。

狩った魔物の数は少なく、買取は激安で赤字だった。

此の侭では喰って行けない。

そう思い、王都のギルドで仲間を募集した。

色々来たが…。

唯一まともそうなのが。

「魔法学園の入学試験に失敗して故郷に帰れない。剣は振れる。魔法は時々…。」

と言う若い男だった。

不安だったが一応は魔法使い。

たしかに魔法の失敗が多いが剣でそれなりに自分を守れる。

幼馴染が盾を装備してから手数が劇的に変わった。

魔法使いは三回に一回しか成功しないが、耐える事が出来れば手数が増え、魔物を畳みかける事が出来る。

チームの形が出来たころ…。

小銭に成りそうな依頼が有った。

常時討伐依頼中に出来る依頼”薬草収集”だ。

魔物の捜索序に収穫できる。

商家経由で学生からの依頼。

今から考えれば小銭拾い程度だが、何もかも高額な王都での生活で藁をも掴む気持ちだった。

”真面目にやれば自分に帰ってくるものだ。”

幼馴染の声は…。

生活は苦しかったがそれなりに上手くやれていた。

最高の仲間チームだった。

将来の事を考えて居なかったが…。

考える余裕が無かったのだ。

そんな中に商家から紹介してもらった依頼主…。

若い貴族さまだった。

体格も実力も自信も持った男だ。

俺達の様な掃き溜めのやせっぽっちでは無く、金と権力と身体、全てを持った男だった。

気さくなお貴族さまは俺達を随分と買っていた。

金払いが良かった。

技能を教えて貰った。

魔法のスクロールスキルを与えて貰った。

”将来どうするか考えておけ…。”

俺はあの時…何と答えたのか…。

静かな酒場の中。

空に成った木のジョッキを覗く。

もう一杯…。いや、銭が無い。

突然、ガチャガチャと鎧姿の冒険者じゃない、衛兵が店に入ってきた…。

数人所ではない。

「なんだ…。」

対応するカウンターの店主…。

突き出された槍の先に黙り込む。

衛兵の目がマジだ。

前に出たのは見た事が在る衛兵だった。

「この男です!」

俺を指さす衛兵…。

あまり良い体格ではない。

「今更、俺を捕まえるのか?」

酔って答える。

仲間を傷つけた事は認めた。

今更じゃないか…こんなにぞろぞろ引き連れて。

店の中を見渡して気が付いた。

こいつ等、衛兵じゃない…。兵隊だ。

取り囲むのは街中で見た事も無いような体格の男達だ…。

酒場の入り口の兵が割れ…。

鉄鋲入りのブーツが木の床を軋ませ黒い大男が入って来た…。

一目で解る、本物の人殺しだ。

「よう、久しぶりだな…。」

黒い鎧を着たヒゲの大男…。

高そうな黒いヘルムを脱ぐ。

光るハゲ。

外見(頭髪)は変ったが…。

若い頃の顔は思い出せる。

「オットーさま!!」

「アジル。お前が居て助かった。お前が会った魔物の情報を聞きたい。おい!水持ってこい!酒は後だ。」

カウンターに向って叫ぶ大男。

「はい!ただ今!!」

店主が急いで準備している。

向かいの椅子に座って軋む…。

廻りの衛兵と兵隊の顔が困った顔になる。

外にも兵隊が居そうだ。

「どうぞ…。」

震える手で店主が出したのは見た事が無い銀ピカのジョッキだ…。

一編の曇りも無い、俺の間抜けな顔が映る。

「おう。駆け出し冒険者同士の再会だ。乾杯…。」

ジョッキ同士を打ち鳴らす。

中は水で冷たい…。

何時もの臭い水じゃない…。

飲み干し、酔いが一瞬で覚める。

「オットーさま何故ここに…。」

ゆっくり飲み干した大男がジョッキを置く。

「ああ、そうか…。先ず何から話すか…。俺も長い間色々在った…。俺は今はビゴーニュと名乗っている俺が付けた名だ。」

胸をはる大男…。(ニチャァ)

ビゴーニュはココの貴族の名前地名だ…。

「つまり…オットーさまは…。」

「ああ、どうだ?俺の領地だ、立派だろココまで大きくした。」

なんてこった…。

「はい!俺は未だ冒険者をやってます。ムロは魔法使いに成って…。モーサと一緒に成りました。ザーバは故郷に帰って…。ええっと、長い冬が終わるころの話です。」

昔のチームを思い出す…。

魔法使いのムロはチームを抜けて魔法学園に入った。

ムロが卒業と同時にチームは解散した。

ザーバは溜めた金で故郷に帰った。

馬と農地を買って、家も建て家族を持った。

今も元気にやって居るだろう。

ムロは学園を出た本職の魔法使いの冒険者で引く手あまただ。

ザーバの妹のモーサはムロと結婚した…。

まあ、仲が良さそうだったからな。

ザーバはそれで安心して故郷に帰ったのだ。

子供も生まれたと聞いている。

「良かった…。それぞれうまくやって居るのだな…。」

「ええ、俺以外は…。結局俺はコレ以外何もありません。」

腰の剣を叩く。

「ふむ、そうか、だが。未だ冒険者をやっていて助かった。お前が遭遇した魔物の情報だ…。報告書は読んだ、俺の探している魔物かもしれん。お前の見た物を教えてくれ。」

「はい。衛兵に話した事が全てですが…。」

情況と見た魔物を説明する。

オットーさまは黙って聞いた後。

その時の装備について聞いてきた。

スクロールの魔法を始動したかどうかも…。

記憶に無い状態では不明だが…。

確か使っていないハズだ。

最近はここぞと言う時にしか使っていない。

(おっさんが”ニャー”と言うのは恥ずかしい為。)

「そうか…。その時のチームの者は何という者だ?今はどうしている?」

「はい…。チームは解散に成って居ます。それぞれ別のチームで穴に入って居るハズです。」

「ふむ…。やはりそうか。呼んである。そろそろ来るだろう。」

「呼ぶ?」

衛兵に拘束されたままのトラブったチームの面々が引きずられて来た…。

「おっさん!何だ!」

「かんべんしてよー。」

「おい!掴むな!自分で立てる!!」

「貴様等!ご領主様の前だ!失礼の無いように!!」

多分、騎士クラスの兵が叫ぶ…。

「ご領主さ…ま。」「うそだろ…。」「いや待て本物の黒騎士さまだ…。」

相変わらず若い…。

駆け出しだが素質は在ると言う触れ込みだった。

「なるほど…。どれも”DT”っぽいな。」

呟くオットー様の言葉は聞き取れなかった。

「お前らが見た魔物の話を聞きたい…。俺が探している魔物かもしれん。女の魔物だ。人を操る能力がある。」

「そのおっさんに聞けよ。」「アジルさんが斬りかかったら消えて…。それからアジルさんが無言で俺に斬り掛かって来たんだ。で斬られた。」「で、俺が盾で殴って動かなくなった。」

騒ぐ若者達…。

「ほう…。消えた魔物の姿は?」

「青い顔の…。肌と身体の線が良く出た服だった。」「マントを羽織ってた…。たぶん。」「髪は長かった。服が浮いていた。身体も。」「何か話してたけど聞き取れなかった、一瞬で消えた笑ってた。」

「お前ら…。女を抱いた事があるか?」

可笑しなことを聞くオットーさま。

「…ないです。」「金が溜まったら…。」「…。」

「解った、情報料だ。それと、コレをやろう。」

ポケットから小銭を出すご領主様…。

テーブルの上に俺の分も置いた。

「銀貨だ。」「腕輪…。」「…。」

「そうだ、魔法のある種の精神支配を妨害する腕輪だ。ココで装備してみろ…。」

此方を見て続ける。

「邪魔なら足に装備しても良い。首から掛けてもな。」

「「はい!」」

俺も装備する…。

特に何も感じない…。

「ぐあっ!!ギャーーーーー!」

一人、盾と剣を装備した奴が倒れて口から泡を噴き出した。

動揺する兵士に命令する黒騎士。

「下がれ、大丈夫だ。コイツは魔物に取付かれていた…。」

酷く嬉しそうな顔だ…。

床にのた打ち回る若者を眺めている。

「コイツは穴で何か可笑しなモノを拾わなかったか?本とか…。装備だ。」

「バカなアナで拾った物は全部売った!」「いや…。少し前に。」

「なんだ?」

「少し前にコイツが穴で拾った大きな壺を持って帰って…。”コレは良い物だ…。”って言っていたが次の日に”壺はどうした?”と尋ねたら壺の事は覚えていなかった。」

床でビビクンビクンする盾の男。

「ほう…。どんな壺だ?」

「柄の付いた…。両方に取っ手の付いた…。白っぽい壺だ。穴の中の小部屋に一つだけ置いてあった。」

「ソレだな。姿は描けるか?」

「いえ…。あまり。」

「そうか、おい!コイツの住処を捜索しろ。壺を見つけてこい。」

床を示す黒騎士。

未だ痙攣している。

「ハッ!」「おい!ついて来い。」

兵に連行される男。

「で、どうなるんだ?コイツ。」

俺が斬りかった男が床に転がる仲間を示す。

「ああ、もう直ぐ復活するだろう。支配下に在った事は曖昧なハズだが覚えてはいる。」

痙攣した男は床に倒れたままだ…。

「うっ…。何だココは。俺は…。」

時期に頭を振る男。

「俺の事は分かるか?」

「だれだ…。いや。申し訳ございません。ご領主様でしたね。」

「気分はどうだ?」

「最悪です…。」

「おう、そうだろ。まあいい立って座れ。お前もな。」

冒険者達を同じテーブルに座らせようとする貴族。

当の冒険者は戸惑っている。

「いや、ご領主オットーさまは元冒険者だ。」

「おいおい、未だ魔物程度は刈っている。未だ冒険者だ。無印のな。」ニチャァ

あの頃の笑みを思い出す。

そうだ、冒険者の腕を折ろうとした時の笑いだ。

「はい。」「申し訳ございません。」

大人しく座る若い冒険者達。

「穴の中で壺を拾ったそうだが…。どうした?」

「いえ…。はい、拾いました。朝に成ったら無くなってしまったんですが…。何故か特に何も思いませんでした。あんなに気に入っていたのに。」

「そうか、その時点で魔物の支配下に在ったのだろう。徐々に支配される。お前の倒れ方を見るに…。ソレほど支配されていた訳ではなさそうだ。」

「魔物の支配…。冗談じゃない。」

「アジルも一時的に魔物の支配下に置かれた様子だ…。その魔物を俺は追っている。その腕輪は抵抗性を持つ。支配下の者が付ければあの通りだ。何時まで通用するか解らんが…。」

腕輪に触れる若者達…。

蒼い顔だ。

「俺は何をしていたのですか?」

「解らん、掛けた相手の命令を聞くように成るだけで…。意識はそのままだ。魅了を使われた間は意識を失う。」

「なんだ?そりゃ。」

「アジルが掛かったのだろ?おそらく上級の魔物の魅了だ。並みの魔法使いでも抵抗できん。腕輪アイテムで何とかなる…。今はな。」

「すまん、俺はあの時、何も解らなかった。気が付いた地面に転がっていた。」

覚えていないが…。謝罪する。

「おっさん…。」

「支配されていた俺も…。いや、俺は支配されていたからおっさんに斬られなかったのか…。」

「まあ、そんな所だろう。魔法使いを付けないと…。対抗できる上位の魔法使いだな…。面倒な魔物が出て来た。遭遇した場所を教えてくれ。」

テーブルの上に大きな穴の地図を出す…。

何処から出した?

入り口から辿る。

「ココだ。」

指し示す。

「ああ、たぶん。」「そこら辺だね。」

地図を確認すると…。

酒場の入り口が騒がしくなり…。

兵が戻ってきた。

「宿を捜索した所、目標の壺は見つかりませんでした!」

兵隊が報告する。

「ご苦労、恐らく壺は逃げた。位置の変わる壺には気を付ける様、警吏に話を通せ。町で捜索しろ。」

「はっ!」

「お前の部屋を捜索させたが、壺は無いそうだ。見かけたら警吏に報告しろ。恐らく街中を彷徨って…。汎人を支配下にしている。」

「はい!」

「え?どうやって見分けるの?」

「腕輪で総当たり戦だな…。冒険者は特に。穴の入り口で装備させよう売ろう。」

「了解しました。」

兵が下がる。

「さて…序だアジル。俺の依頼を幾つか受けて貰おうか。酒だ!酒と肉を持ってこい!!」

笑うご領主様こってりデブ

皺が増えたがあの頃の冒険者の顔だ。


依頼内容は牝型の人型魔物の捜索だ。

ご領主様の紋章が入った魔法の収納カバンを渡された。

情報を集めるだけだが、倒しても、捕獲しても良い。

持ち込めば高額で買い取ってくれる。

期限も決められて無い。


その後、俺はご領主様から直接依頼を受ける冒険者として町で一目を置かれた。

多くのチームに誘われて…。

穴深く潜る事に成ったのだ。

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