第49話39.オットー兵団26

朝だ夜明けだ…。

占領した領主の館の尖塔が朝日に照らされる。

アルカンターラの夜明けだが、夜通し戦っているモヒカンと残兵にとっては長い夜であったのだろう。

日の出前にアヘモン・メイドに改造されたヘレンは愛憎入り混じった顔で俺のベッドから出て行った。

俺もベッドでモンスターアヘモンと戦っていたのだ…。

紋章に支配された女がおちんぎん(真珠入り)を裏切るハズが無い…。

あの生意気なアルカンターラの孫娘をあひんあひん言わせる為に働いてもらう。

帝国製の鏡の前で髭を整える。

軽い腰つきで鎧を着て仮設の司令部へ向かう。

26時間戦うモヒカン達…。

「おはよう、諸君。何か動きはあったか?」

「ヒャッハー!ご領主様、西門で最後まで抵抗を行っていた敵を殲滅しました。何時でも門を開放出来ます。」

戦況情報盤を確認する。

「素晴らしい休息の上、北門へ向わせろ。」

「休まず略奪を行っていますが…。」

「なら良い、続行しろ。ひと段落ついたら休息しろ、休憩が終わり次第北門に増援を送れ。」

「ヒャッハー!」

へ団情況図を確認する。

休息か交代が必要なへ団が多い。

昨日より支配地域が広がっている、敵の抵抗は終わりが見えた様子だ。

「ヒャッハー!ご領主様、昨夜の交信内容です。」

メモの束を受け取る。

主にはだかとの交信だ…。

なになに…。

一通り目を通す。

ダンのヤツは略奪を終えて工廠から移動を始めたそうだ。

ならば、2日程度でこのアルカンターラのに到着する。

「本日、東門を開放する。お宝の搬出に掛かる、東門に馬車を集めろ。」

コレで手持ちの魔法収納屯パックは無くなった。

「「「ヒャッハー!」」マブいちゃんねーがいっぱいだー!!」

「既に町で確保した馬車にお宝の積み出しは始まってます。」

「そうか、輸送護衛のへ団を選出しろ。」

「了解しました!昼までには帰還輸送隊の第一陣が門を出る予定です。」

準備が良い。

良いことだ。

別のモヒカンが陳情に来る。

「ご領主様、殆どの兵のカバンが一杯に成りつつあります。入りきらない銭は樽に詰めている程です。もう一つカバンを支給して欲しいとの陳情が…。」

「いや、流石にカバンの余りは無い…。樽に所属と名前を書いて、輸送部隊の馬車に乗せろ。但し紛失する可能性があるので注意しろ。」

貴重品は個人で手元管理が原則だ。

「了解!そう通達します。」

王都よりデカい町一個分を略奪だ。

持って帰る物は沢山ある。

「ご領主様、マルダー様と繋がっております。」

マイクとイヤホンを持ち、はだかと繋がる。

無線では、はだかとの情報交換でエルフの輸送隊が門の外に居ると判る。

流石エルフの荷馬車トラック良く働く。

護衛で付いてきたのがカール騎士団らしい。

はだかの話では、こちらに騎兵が無いと思い込んでいる兵が多いので単独で移動させられないと言う内容だ。

東門の開放と共に入城してもらう事で調整する。

「俺は東門の開城に立ち会う。」

「「ヒャッハー!」」


メイドと領主の孫娘の馬車に乗り、領主の城を出て、破壊された通りを進む。

無言のメイドと娘…。

おう、馬車の中の麩陰気で最悪です…。

連行されているので和気藹々と言う気分で無いのは解る。

メイドの蔑む視線。

無言の圧力で後ろの御者席に立てば良かったと後悔する…。

窓の外は、家屋から出された家財道具で全て通りで山に成っている。

一部の貴重品も山積みだ…。

敵兵か抵抗した住人も山と積んである。

全てひん剥いて裸で男山だ。

悪役令嬢は無表情だが、外を見た若いメイドの顔色が悪い。

乗り合わせた黒髪メイド(紋章付き)はツンツンしているがツヤツヤだ。

俺の愛想笑いにも無表情…。

命令を実行中だ。

到着した東門の広場はモヒカンでごった返して居た。

いや、カオスだ…。

馬車を降りて御者席に座るモヒカンに声を掛ける。

「ココで帰還する部隊を待て。重要人物なので逃すな。大事に扱え。」

「ヒャッハー!」

外に出ると広場は家財道具が積み上げられた馬車の列に縄で繋がれ、すすり泣く少女達。

はだかのアヘモンが街路樹に並び、縛られ。

モヒカン達がぱんぱんしている。

「「「ご領主様!」」」

モヒカン達が集まる。

「おう、ご苦労。門を開けろ。」

「「「了解!」」「外には味方しかいませんぜ!」

開門作業に入るモヒカン達。

「食糧庫から奪ったお宝を積んだ馬車があっちの通りまで並んでいるのですが…。」

「ソコの食堂を接収して食事を作らせてます。」

「捕虜への配給はどうすれば…。」

「一旦、出さないと広場が空きませんぜ!」

解らない事を聞いてくるモヒカン達。

まあ、仕方が無い。

この調子ではな。

「輸送隊を編成中だ、場所が無いのなら一旦広場から城の外で幟を立てて集合させろ。」「食堂の接収はいい仕事だ、そのまま食事を作らせろ。但し監視を怠るな。」「捕虜への食事は病人、軽作業者と同じで良い。飲料水の質に気をつけろ。」

「「了解!」」

モヒカンが散ってゆく。

「門がひらきますぜーー!」

城門の上のモヒカンが叫ぶ。

軋みと振動、砂埃で大きな城門が開いて行く。

外は草原だ。

跳ね上げ式の橋も同時に降りている。

「「「うおーーー!!」」ヒャッハー!」

完全に開くと内外のモヒカンが雄叫びを揚げる。

城塞が落ちた瞬間だ…。

モヒカンの先導で門から馬車の車列が出発する。

略奪品を積んだ馬車を護衛するモヒカン。

メイドとお嬢さんを乗せた馬車も見送る…。

一瞬見えた黒髪メイド(紋章付き)の愛憎入り混じった視線と交差する。

上手くやれよ…。心の中で祈る。

続く紐で腕を繋がれた女達。

町娘に給仕、ドレスに農婦の様な…。

全部べっぴんさんだ、20台から少女の様な歳も居る、更に…。

「おい、あまり、歳が若すぎる女を攫うと。次、略奪しに来た時、女が居ないぞ?」

となりのモヒカンに苦言を申す。

「はあ…。申し訳ありません。開放しますか?」

もう攫った後だどうもしようもない。

「まあ良い、今回の仕事は仕方が無い。済んだ事だ。」

どうせアルカンターラでは一般家庭の子供の数は少ない。

農村部は領主も復興の為に農奴を掻き集めて来るだろう。

出て往く馬車の車列が落ち着くと。

入城するモヒカン騎兵の一団が有った。

旗はカール騎士団だ。

はだかが気を使って初入城を騎士団に譲ったのだろう。

そう言う貴族への配慮が出来る男だ。

「カール騎士団派遣小隊、総員38名、ビゴーニュ公との盟約により援軍に駆け付けました。」

騎兵式敬礼の騎士達。

「遠路はるばるようこそ、俺が落とした城へ…。」

「隊長のベリエス・バーゴップです。」

金髪髭の30台の男だ見覚えは有る。

「おお。すまんな貴公か…。」

確か結婚式で酒飲んで投げ飛ばしたヤツだ。

「はっ!覚えて頂きありがとうございます。蹴飛ばされた日を昨日の様に覚えております。団長より手紙を拝命しております。」

蹴飛ばしたほうか…。

手紙を受け取る。

内容は既知の物だった。

しかし、やるなぁカールのヤツ。

「で?どうだね戦地は道中異常は無かったかね?。」

「はい。ココまで輸送護衛任務を承りました。数回、武装した住民の襲撃を受けましたが排除に成功しています。」

おう、根こそぎ奪ったから住人が蜂起し始めたか…。

「そうか…。それは忌々しき話だ。」

「はっ!散発的で組織化された物ではございませんでした。」

なるほど…組織的な野盗パルチザン化するのは時間の問題だ。

「では、俺が占領した領主の館に移動しよう。ココでは状況説明も出来ん。」

年寄り騎士より若い騎士が多い。

酒池肉林のアヘモンは若人の目の毒だ。

隊長の馬の手綱を引き来た道を帰る。

血の池街道を進む。

死体の山に顔が青くなる若い騎士。

「住人も戦闘に参加しているのですか?」

若い騎士が尋ねる。

「そうだ、市街地で戦うと兵と民間人の差が無くなる。逃げる者は全て敵だ。向かってくるのは訓練された敵だ。」

ヒャッハー!戦争は地獄だぜー!!

「それは…。」

「おい、ハンス。埋葬の為、装備が外されて居るだけだ、戦死者の傷は全部前に着いている。兵士で戦った証拠だ。申し訳ございません…。ビゴーニュ公殿。」

バーゴップ隊長が部下を窘め謝罪する。

騎士の心得はしっかりと教育されている若者だ…。

「うむ、今回の戦争は昔を思い出すな。こっちは攻めている側だが。」

「ええ、全くですね…。我々はやられている側だった。」

領主の城に付くと厩に馬を預け、仮設の司令部に案内した。

「諸君!!喜べ!援軍のカール騎士団の皆様だ。」

そうだ、新しいフレンズだっ!

「「「ヒャッハー!」」」

後でモヒカン騎兵が加わったと皆に知らせよう。

「では現状を説明しよう。」

市街戦は終わりつつあり略奪のステージに移りつつある。

後、数日はこの城を占拠し続ける心算だが、作戦が終われば撤退を開始して町を放棄する。

そして敵の動向は我々の行動が帝国に伝わっており、既に帝国軍の迎撃部隊が帝都を出発していると思われる。

「帝都の即応部隊は最低、騎兵で一個中隊から一個連隊。歩兵なら二個連隊程度。騎兵なら明日にでも姿を現しても不思議ではない。」

我々が薄氷の上に立っていると知ってもらう必要がある。

「我々は何をすれば良いのでしょうか?」

「騎兵を市街戦ですり潰すのは勿体ない。二日後に威力偵察を行う心算だ同行してもらいたい。」

「いや…。」「それでは…。」「戦闘に参加できないのですか?」

「諸君。いや、カール騎士団の方々。我々はコレから15日間で撤退を完了させる。追撃する帝国軍を躱し、諸君等は俺と殿をやってもらう。」

騎士の反応はまちまちだ。

「殿…。」「え…。」

「そりゃいい。」「名を揚げる好機だ。」

若いのは困惑で歳を行ったのは喜んでいる。

「恐らく過酷な戦場だ…。帝国騎兵と命を掛けた追いかけっこになる…。但し、外れると間抜けなピクニックだ…。」

笑う騎士団。

いいねぇ、俺の芝居に乗ってくれる。

「わかりました。ビゴーニュ公、では、我々はこの二日の間に馬を万全な状態にしておこう。」

「ああ、情況が変化無ければ二日目の日の出と共にこの城塞を出て街道上の威力偵察だ。」

「「「了解!!」」」

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