第29話番外編:騎士団長カール。
俺が軍を退役する前に、親父が引退して兄貴が領地を継いだ。
広大な領地を受領して、家臣団も育っている。
手が足りないのも解る。
今はヴォルーデ領からの帰りの馬上で鎧姿だ。
殴り合いで決着した来年春の農業用水割当は
見渡す限りの背の低い青々とした麦畑を見渡す。
収穫は未だ先、春だ。
「しかし、何で
ぼやくとお付きの副官が答える。
「そりゃ。双方騎士の村ですからね。ジョン副団長でも来ないと話は纏まりませんよ。しかし、見事に投飛ばしましたね。」
会合で
「もう少し…。いや、そもそも会合なのに全員鎧着てくるルールはおかしい…。」|
何とか
カール騎士団の名の元、戦力は
轡を並べて戦った結果、旧来の軋轢も貴族間のわだかまりも、何もかも捨て去った。
故郷を取り戻し復興を果たした者も、全てを無くして生き残った者だけで開いた村もある。
家を再興する為に未だ名前だけの主人が居ない
全てに言えるのは、各村、自治組織の長は騎士であることだ。
ヴォルーデ領もバージェル領も…。
その為、村は貧富や人員の差は有れど皆、平等。
近隣の村は助け合って運営している。
騎士が長だと腕っぷしと兵の多い程、声が大きくなる。
無論纏まらないので、剣を抜かずの殴り合いだ。
皆が
帝国捕虜を動員した延々と続く灌漑用水で、広大な荒野は変貌した。
見渡す限りの麦畑と牧草地だ。
その中に集落が散らばっている。
オットーが”地図を作る”と言った意味が解った。
大規模な灌漑用水を設計する為に必須だったのだ。
数万の帝国兵捕虜を動員した大土木工事…。
森を切り開き、山を削って谷を埋め、用水と溜池を掘って橋を架けた。
その結果がコレだ。
大地の全てを征服してしまった。
魔物に怯える領民はもういない。
人が入れない魔の森は既に無い。
計画的に間引いている。
今、見ただけなら戦争なんて無かったと思うだろう。
戦争前より発展した我が故郷。
生き残った人員で、この広大な農地を維持するため。
今は何処も手が足りない…。
若い世代は生まれて育っている。
今は若い士官の育成に心掛けている…。
最後尾の騎士見習いは未だ十三、四だ。
身体が細い。
「オットーに鍛えた若者を送る…。とは言った手前なぁ。」
喰わせて運動をさせているが、未だ未だ…。
ウサギ一匹倒せそうに無い。
いや…ウサギには負けないだろう…。
多分…。不安だ。(溜息。)
正直、今の
オットーはあの年頃には狼を倒していたのだ…。
そう考えると基準が判らなくなる。
喰わせて働かせれば身体はできる…。
悪いことではない、今は強がりだ
元来、身体的に恵まれている者が少ないのだ。
「オットーが作った”ウェーイ”のスクロールが在れば…。」
何度か交渉したが、オットーは”危険が危ない。”との理由でスクロールを売ってくれない。
意味は解る、実際に味わった。
しかし、あの感覚を取り戻せるなら是非にでも我が兵に施したい。(解ってない)
強靭な兵が手に入るのだ。
士官だけで戦争を行うなんて悪夢だ。
軍人は現実を理解するのだ。
オットーは軍人と言うより学士の毛が多い。
教師で教えるのが上手い…。
だから我々より先を考えて行動している。
「今は強靭な身体が欲しいのだが…。」
そうこう考えると、バージェルの街が見えた。
戦時と姿は変わっていないが、色々と改装している。
オットーの言う鉄壁の城塞ではないが、色々と思案している。
旧市街の外に最新型の奉方式の星形の堀を備えた城塞だ。
三角堡の堀を渡ると城内が慌ただしい事が解る。
「ウェーイ」「ウェーーイw」「ウェーイwww」
掛け声を掛ける兵が完全武装で走り廻っている。
非常事態の様子だがおかしい、城門は開かれたままだ。
「なんだ?何の騒ぎだ?」
「少々お待ちください。おい!見習い。」
副官が叫ぶ。
「はっ!おい!何か在るのか!」
騎士見習の若い声に答える兵は居ない。
イラついた副官が野太い声で叫ぶ。
「誰か知らせろ!当方はジョン・ヴォルーデ副団長直属小隊だ!!」
豪声を聞いて途端に若い騎士が走って来た、訓練された文言を一字一句間違わずに…。
「副団長殿にご報告!王都の牧場より国内情勢の電信連絡。内容”ビゴーニュ伯より国王陛下に報告。わが領土に帝国軍侵入、我コレを迎撃する。”以上です。」
「は?」
オットーの領地に帝国が侵入した?
思わず聞き返す。
「それは…。何時だ?」
王都の牧場とは王都の郊外にある、カール騎士団共営牧場だ。
正式名称は”王国南西部地域共営牧畜ばんえい牧場”で
騎士団の有志が金を出して作った営農牧場だ。
その他に団員の子弟が王都に訪れた時の宿舎や、出稼ぎ領民への
オットーから
その為、王都での情報収集も行っている…。
「え?不明です。我々が聞いたのは早朝です。騎士団長殿が遠征を発令しました。その時に知りました。」
遠征だと?無理だ。
「それは…。いや待て。」
町の中はひっくり返した様な混乱だ…。
物資の集積を行う市民達の顔は何も疑問は無い…。
その樋爪の音を覚えている者は多い。
我々騎士団は戦争に備えてはいるが…。
我々はハイデッカーではない、お茶を呑んで飯を喰ったら戦争できる様なモノではないのだ。
「解った、本部へ向かう。」
若い騎士は安堵の表情で任務に戻った。
兵が混乱しているのは理解できた。
元々、カール騎士団は郷土防衛連盟だ。
遠く異邦の地で遠征できる様な組織ではない。
町を進む馬匹に並ぶ若い騎士達の顔は蒼い…。
戦争を経験した騎士は代替わりして
俺達の
覚えているのは”ハイデッカーは帝国より怖い”だ。
何故、俺はあの時、軍属の
バージェルの屋敷の門を潜るとカールが鎧姿で劇を飛ばしていた。
「騎士団の集結を行え!集まり次第、第一梯団とする、王都の牧場には物資の集積を命じろ!!電信を出せ!」
完全武装で息荒いカールに声を掛ける。
「よお。カール、何か在ったのか?」
「ジョン!良かった。連絡を取ろうとしていた所だ。オットーの領地が帝国の侵攻を受けた!直ぐに救援に向かうぞ!」
早口のカール興奮している。
「無理だぞカール、我々に長距離行軍はできない。」
しかも、オットーの領地は王都の向こうだ。(街道上の話)
「できる!やって見せる!!」
拳を振り上げるカール、完全に頭に血が登っている。
「そうか…。所でその情報は何時だ?」
「王都の知らせで襲撃は30日前だ!!急げば、今なら40日後で現地に到着できる!!」
それはおかしい…。
オットーは条件が揃えば、何処でも魔法で瞬間移動できるのだ。
理屈は解らないが、あのオットーなら条件が揃わないなら、別の連絡方法を考えるだろう。
ストラポルタ周辺の戦いの時は素直に自分のミスを申告していた。
オットーは同じ失敗をしないので、緊急通報手段を確保しているハズだ。
オットーの領地から王都に30日では馬車の速度だ。
もう既に無線の存在も軍関係者には既知で運用も王国軍各部隊に浸透しているのに…。
「カール、コレはおかしい。」
意味があって遅れているのだ。
「なんだと!!ジョン。」
激高するカール。
「オットーが帝国如きに後れを取るとは思えん。」
「そうだが!!」
普通に魔法一発で万の帝国兵を殺傷するのだ。
「多分…オットーは遊んでいる。」
「なん…。だと?」
落胆の顔のカール。
「相手は帝国か何か不明だが、明らかに通報で時間を稼いでいる。オットーは邪魔されたくないのだ。」
「クソッ!!オットーめ!」
憤り理解した後につぶやくカール。
”あいつ一人で遊ぶつもりだ…。”
オットーらしいと言えばそうだ、そうなると本当に帝国の侵攻が在ったか不明だ。
「とにかく情報確認が必要だ。王都に居る兵を現地へ向かわせよう。」
交戦は在ったのだろうが、もう既に撃退済みか、帝国に進攻しているかもしれない。
オットーだからやるだろう。
「ジョン、どうする?王都の牧場の兵力では出せて一個小隊とちょいだ。」
そうだ、無理するなら増強一個小隊だ。
「牧場の増強一個小隊を完全武装で食料と…。武器を魔法の収納カバンに詰めて現地へ急がせよう。全て終わっているなら陣中見舞いの粗品だ。戦闘中なら伝令任務以外はオットーの指揮下に入れば良い。」
一個小隊でも貴重な騎兵だ、ポーションはオットーが持っているだろう。
昨今の王国騎兵は魔法の収納カバン(肩掛け)で背中が埋まっている事は珍しくない。
無理すれば30個はいける、記録は45個だ。
「俺たちはどうする?もう既に集結を命令してしまったぞ。」
困惑気味のカール。
「一個中隊程度を王都へ向かわせよう。牧場で伝令を待とう。状況が判明すれば追加増援だ。」
「一個中隊…。もう少し。いや、無理だな。」
カールが冷静を取り戻している。
正直、今の騎士団で抽出できるのは中隊程度で精一杯だ。
「正直、痛いが…。」
遠征が可能なのは精鋭だからだ。
「若い騎士を中心に街道と国境付近の警備を行おう。各村は移動する旅人を監視する程度の事しかできない。」
郷土防衛訓練の警戒状態だ。
まだ若い騎士達には良い経験だろう。
「そうだな。此方からは手を出さないように皆に釘を刺さないと。」
途端に面倒な顔になるカール。
帝国の侵攻が在ったなら此方が活発に動いても問題はない。
国境向こうの帝国側の領主と会った事は在るが、勝手に事を構える様な人物には見えない。
お互いに刺激し合わない事で話は付いている。
無論、上から命令が在れば動くだろう。
昨今の帝国情勢は、現皇帝は非常に評判が悪い。
過去に手痛い損害を受けた王国とのいきなりの開戦は有得ない。
帝国と双方に外交官を交わし、商人が往来する様に成った今では戦争は無理筋だ。
ただ、国境際の貴族の独断専行か、双方が不幸な偶発戦なら何時でも起きる。
我々の領地は特に何事も無く終わった。
国境は平穏無事で帝国側に動きはなく。
帝国商人達は皆、此方の警戒対応に驚いていた。
春まで農業は忙しくないのも手伝って、可成り大規模に。
領民まで動員した緊張感の或る長期大演習で終わったのだ。
一応派遣した増強小隊は陣中見舞いの品を渡す事に成功して。
オットーの指揮下に入り。
少なからず、増強小隊は戦闘に参加できたそうだ。
(王都に送った中隊は間に合わなかった。)
本当にオットーが帝国に進攻して、大規模な略奪(優しい表現)に成功させた。
色々出費が多くて正直持ち出しが多かった。
得られたのは騎士団の団結と練度だ、実務の問題も発見できた。
他の貴族の領地に騎士団の旗を掲げ、救援に駆け付ける事は騎士団の名誉を挙げる事になる。
すべてが終わって遠征中隊が帰還するとオットーからの感謝の手紙と品、戦利品を持って帰って来た。
戦闘報告を聞いたカールが酷く悔しがっていた。
”もっと、兵を出せば家宝が増えたのに…。”
まあ…。援軍が間に合ったのは良かったと思う。
(´・ω・`)ウェーイwww
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