姉妹通信

 早朝、妹たちが集まる会議。

 あれから三日、相変わらず出る気のない月音を除く私の主要な妹がそろっていた。


「今日は本格的に体制が変動するにあたって先に試しておきたいことがあり皆を呼びました」


 話を始めたシャルを皆が見つめる。


「そうですわね。口で説明を受けるより感じたほうが早いでしょう」


 そういうと黙り込んだシャル。


『さて、これで聞こえているはずなのですが、皆の方ではいかがですか』


 シャルの声が非実体状態になってる幽子のように聞こえた。

 一様に驚いた顔をした妹達。

 私と幽子、それとアカリとステファは練習に付き合ったんで知ってたけどね。


『フィーリア、しゃべってみてください。コツとしては腹部に意識を集中することです』

『……こう、でしょうか。聞こえていますか』


 全員にフィーリアの声が届く。


『へぇ、こりゃ面白れぇな』

『私のも聞こえるのかな』

『えっと……こうですか』

『アイラも使えるなら出前に使えるかも』


 順に会話に入ってきたナオ、リーシャ、沙羅さら、そしてアイラ。


『自分としてはいつもやっていることでありますな』

『んだな』


 ごく自然に対応してる世界樹とエルフの姉妹等反応は様々だ。


『ステちゃん、これって心でもお話できるってことだよね』

『そういうことになるね、マリー』


 結局いつもと変わらない熟年百合夫婦はいいとして。


『優、なんか簡単にできちゃったね』

『せやね』

『これでお姉ちゃんと一杯おしゃべりできるのです』

『まぁ、仕事してないときならおっけいよ』


 元々さ、アカリとの雑談で以前カリス教がサークレットを使って通信をしてるって話がちょいとあったのよね。

 女性であれば月魔導経由でいろいろできる事もあるって話。

 そんでもって私らは全員幽子ことシス神の信者、言い換えれば幽子経由でつながっている。

 だからできるんじゃないかと思ってさ、『姉妹通信』が。

 読みはシスターサインにでもしとこうか。


『『姉妹通信シスターサイン』ってまーた変な名称付けて』

『ええやん、可愛くて』

『なんで通信でサインなの』

『シャルがさ、暗号掛かってるっていうからヤキュウ的サインの意味でありかなって。あと内緒話って意味も込めてかな』

『へー、要はスクランブルって意味ね』


 相変わらずそういうとこの返しはオタクやね、幽子は。

 さて、ちょいと前の冒険で私は龍札が大きく組み変わって現実でも『陰陽勇者』になった。

 その後でいろいろできる事に変化があってさ、試してたらなんとなくできちゃったのがこの姉妹通信だ。

 その他にも妹融合にも変化が出てて、分かりやすいところでいうと融合時に私の体が残らなくなったり妹の見た目に大きな変化が出るようになった。

 たぶんセーラとさんざんやった流星王子への化身の一部が龍札に能力として残ったんだろうね。

 以前より一層魔法っぽくなったともいう。

 そんなことを考えつつ皆でしゃべっているとシャルが手を叩いて注目を集めた。


「この技、わずかずつですがマナを使用します。多用はなるべく避けるようにしてください。それときちんと練習しないと意識してない相手にまで会話が届きます。聞かれて恥ずかしいような内容は避けた方が賢明でしょうね」

「せやろね」


 シャルが全員を見渡しながら会話を進める。


「今後しばらくはシスティリアの環境整備に集中したいと思います。今回、この疑似スキルを全員に習得してもらったのはその前提となる緊急連絡網の再構築の為です。また『姉妹召喚リング』はこの疑似スキルを利用して姉妹を呼び出す魔導具です」


 そういって全員を見渡したシャル。

 今ここにいる子にはすでに完成版の姉妹召喚リングが配られている。

 他の子たちは追々ということで、まずは外での警備をしてる子たちや兵士に優先で配ったそうだ。


「通信範囲の限界についてはまだはっきりわかっていませんが、少なくともシスティリアと外をつないでの会話ができる事は分かっています。また特に意識しないで会話をした場合、同位の高さの相手、私の場合ですとお姉さまの妹リストに入ってるメンツに一斉配信になるようです。ステファの下についている子たちで検証しました。また妹リストを持ってる姉も自動的に巻き込まれます」

「一応言っておくけどエッチな会話とかを他の妹に無理に聞かせるのは禁止ね。やったらシャルのお仕置きがまってるのでそのつもりで」


 私が釘をさすと皆が頷いた。


「それとアカリ、ステファリード、沙羅とリーシャに試してもらっていますが妹の移動は本人と姉両名の同意があれば可能です。必要に応じて移動してあげてください」


 これは主にアカリからの要望だ。

 ぶっちゃけ追加発生した妹は全部アカリに突っ込んだ結果、さばけなくなったらしい。


「当たり前だとおもう。優が適当すぎるんだよ」

「だってさ、アカリ欲しがってたじゃん。ちやほやしてくれる可愛い女の子集団」

「だから、妹が欲しいんじゃないって言ってんの聞けよっ!」


 切れたアカリがオーバーリアクションで机を叩いた。


『美少女ハーレムにしてあげたのに怒られた、解せぬ』


 私が姉妹通信でそうぼやくと聞いたアカリがテーブルの上にぐにょーんと伸びた。


「もうやだ、この姉」

「だ、大丈夫。お手伝いするから」

「うん。だから無理しないで」


 アカリの左右に座っていたリーシャと沙羅がアカリの頭を撫でる。

 横をむいたアカリがぐへへへとだらしない声を出した。


「話を続けますわよ。先ほどの話にありましたように姉妹通信と姉妹召喚リングは機能的に連携しています。姉妹通信の会話は名前のはっきりしている相手とピンポイントで話すか、同じ高さの妹と同時に話すかの二択です。万が一、システィリアの出入りが不能になったり強い怪獣に襲われた、もしくは魔導具が不全を起こしたなどの場合には緊急網として姉妹通信を使い、迷った際には私かお姉さま、もしくはここにいる妹たちに連絡することとしたいと思います。よろしいですわね、お姉さま」

「うん。みんなもそれでいいね」


 全員が頷いたのでこの件はこれで決定となる。


「にしてもさ、シャル。シャルとアカリがかんでる魔導具が使えなくなる状況ってどんなのよ」


 私がシャルに聞くとシャルが答えるより前にナオが口を開いた。


「じじいのネズミだろ」


 腕を組みつつ答えたナオにシャルが頷く。


「ご名答ですわ」


 ねずみとな。

 ふとナオの後ろを見ると、悠々とアカリ達の方に向かって歩いていく月影が私の視線に気が付いたのか顔だけこっちを見ていた。

 神出鬼没にもほどがあるんじゃないかね、お前さん。

 そういや月影って月音だけじゃなくてアカリやリーシャにも懐いてるんだよね。

 そのあたり何かあるのかね。

 それとお前さん、ネズミって単語に反応してきたわけじゃないだろうな。


「あー、あれですか。今使ってるウィンダリアだと古いんで対応してないですよね」


 ねずみについて分かってるのかアカリが渋い顔をした。

 ウィンダリアねぇ、よーわからんけど魔導的な何かかな。


「あの……ねずみって何のことですか」


 多分、私と同じで分からなかったと思われる沙羅が手を挙げた。


「お姉さまや沙羅はご存じないでしょうね」


 シャルが杖をかざすと部屋の隅にあった書籍が青く光りながら飛んできた。

 そのままパラパラっとページがめくれてぴたりと止まる。

 シャルが杖をそのページに近づけると本のページが拡大されて中空に表示された。

 いや、魔導だってのは分かってるけどこういう風に使われると、なんかおとぎ話の魔法使いっぽくてわくわくするね。

 中空に表示されたのはお腹に袋をもってしっぽの短いネズミと思われる動物のイラスト。


「ファイアーラット。土の四聖ソータが作った魔導機構殺しの深度一宇宙怪獣です」

「おおう、そりゃまた随分とピンポイントなことで。よりによって宇宙怪獣かい」


 しかも作ったと来たか。

 怪獣の名称が出た瞬間、ナオがちらりとステファを見た。

 ふむ、ファイアーラット絡みでなんかあるんかね。

 シャルが口元を隠しながら続きを語る。


「はい。何種類かいるんですがソータが『パケット怪獣』と呼んでいた情報体が基本の怪獣があります。元々は小室教室で増やしたものなのですが、その後もカリス教で種類を増やし今だと二桁後半いるようです」


 四聖、土のソータか。

 強いとは言われていたけど、これ強さの方向がぶっちゃけ普通と違うんじゃないだろうか。


「通称パケシリーズ。有名どころですとパケネズミ、パケネコなどですね。土台になったのが幻獣なので上位の怪獣相手だと食われてしまうことも多いのですが、私やアカリのような魔導士にとっては戦いにくい相手です」


 戦えないといわないとこがシャルらしいね。


「パケットって通信のアレだよねぇ、てことは通信網があるのかな」


 首をひねる幽子、お前さんホントそういうとこに食いつくね。

 私としちゃ別な方向が気になるんだけどさ。

 少し考えこんでから私はシャルにこういった。


「ねぇ、シャル。多分なんだけどパケット人間もいるよね」


 シャルは驚いた眼をしたあとで口元から手を離して私に聞いてきた。


「どうしてそう思われました?」


 妹たちが私を見つめる中、私はあの懐かしい夏の日を思い出しながらあの子の名前を口にした。


「セーラがいたからね。多分、『大霊界』の基礎研究の一環なんだわ。どうよ、アカリ」


 アカリがプイっと横をむいたのを左右の妹たちがじっと見つめる。

 まぁ、言えんわな。

 多分、守秘義務にかかるし。


「なるほど。確かに辻褄があいますね。ならばドサンコを使ったソータのアレも……」


 考え込んでしまったシャル。

 私はそっと視線を戻してきたアカリを見た。


「アカリ、さっきの話に出たパケネズミってヤバいのかね」

「ヤバいですね。基本的にあれは魔導回路をかじります」


 おー、そういうことか。


「そりゃヤバいね。じゃぁ、基本的にシスティリアには入ってこない様にせんとやね」

「あたりまえです。入られてその上で魔導機を乗っ取られた日にはひどいですよ」


 うげっ、しかも乗っ取るのか。


「地の四聖ソータなぁ、あれだわね。性格悪いわ」

「そりゃくそじじーだからな」


 ぶっきらぼうに言い切ったナオの言葉に頷いたシャル、アカリ。

 そして苦笑を浮かべたステファとマリー、それに黙って座ったままのクラリス。

 私の傍で座っていた咲も困ったような反応してる。

 前二人はともかく、ステファ達だけじゃなくて咲も縁があるのか。

 ほんといろんな人に絡んでるな、ソータって人。


「しかしそうなるとさ、アカリちゃんや」

「なんですか」

「多少ヤバいときでもそのパケなんちゃらが絡んでたら外で処理するしかないことになるかね」


 まぁ、基本システィリア内で戦闘はしたくないというのもあるしね。

 そんな風に私が振るとアカリは何言ってんだこいつみたいな顔をした。


「バカなんですか、いや馬鹿姉でしたっけか」

「いやまぁ、一応さ」

「そんなもん……どうにもならなかったら入れるしかないじゃないですか」


 おっと、読み違えた。


「いいのかね」

「いいに決まってるでしょうが。その為に魔導機には最悪に備えて全部自爆スイッチ付けてますし連動させてません」

「壊しちゃっていいの? アカリちゃん毎晩遅くまで頑張って作ってるのに……」


 隣にいた沙羅がアカリの顔を窺いながらおそるおそる聞いた。

 逆側のリーシャも似たような表情をしている。

 そんな姉妹を見やった後でアカリが大きな胸を揺らしながら腰に手を当てた。


「沙羅姉もリーシャ姉も優姉のバカが移ったんですか」


 何言ってんだこいつらみたいな投げやりな顔でアカリはこういった。


「魔導機は壊れても直せますし直して見せます。でも、いなくなった姉妹は直せません。誰もが優姉みたいにチートなわけじゃないんです。沙羅姉やリーシャ姉と魔導機の選択だったら間違いなく二人をとりますよ」


 胸を張って言い切ったアカリ。

 そして何も言わずに両脇からアカリに飛びついた姉妹たち。

 腕にあたってるだろう姉たちの感触に、アカリの表情が崩れ涎が垂れた。

 いやほんと残念な子だよね、アカリ。

 ふと視線を横に向けるとシャルが優しい目で妹たちを見ていた。

 ちなみに何時の間に移動したのかアカリの後ろに香箱座りした月影も生ぬるい目で三人を見つめていた。


「いい姉妹だよね、シャル」

「ええ」


 さて、私もアカリに負けんようにちょっとは頑張りますかね。

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