第129話 中堅戦・大将戦

 大事な一勝目は取れたが中堅戦にメルティアが名乗りをあげた。次に負けたらお終いのだから正しい判断だと思う。

「ここは私の出番ですね!」

 意気揚々とティアが席に座る。これは負け確定だなと諦める。

「お先にどうぞ」

「では、行きます!」

 気合が空振りしているのが手に取るように分かる。流れはもうメルティアが握っている。

 ティアが五枚取り渋い顔をする。メルティアが五枚取り表情は変わらない。

「四枚交換で」

 山札四枚取るとティアの顔はもっと渋い顔になる。

「二枚交換します」

 メルティアが山札から二枚取って少し笑う。

「「勝負」」

 ティアが役無しのブタ、メルティアがフルハウス。メルティアの圧勝だ。

「ホント弱いなティアは……」

「なんでこうなるんですか!」

「先に札を取ったからだろ、逆なら勝てたんだぞ?」

「うぐっ」

 これで一対一の振り出しに戻った。流れはあっちに行っていると思って良いだろう。ロイの勝負勘次第でメルティアはウルルスの嫁に加わる。

「では、デニス頼みました」

「はい。お任せください」

 テーブルにデニスと呼ばれた護衛が座る。

「うう、気が重いです」

「気持ちで負けてたら勝てんぞ?」

 デニスの挑発にロイは簡単に乗った。席に座ると山札から五枚取った。

「だいぶ余裕が無いようだな」

 デニスは余裕で山札から五枚取ると少し渋い顔をした。

「三枚交換です」

 ロイが三枚交換してわずかに笑みを浮かべる。

「三枚交換する」

 デニスが三枚交換して無表情になった。

「「勝負」」

 ロイがツーペア。デニスはフラッシュ。僅差だがデニスの勝ちだ。

「ま、負けた……」

「流れはあっちだったから仕方ないさ」

「師匠。すみません……」

 ロイはシュンと肩を落として席を立つ。

「約束は守ってもらいますよ?」

「この町には教会が無い。婚姻は町長の承認だ。それでもいいか?」

「豪華に式を挙げる気は無いです。書類一枚で済むならそれで構いません」

「じゃ、墓守の所に行くか」

「は? 私を殺す気ですか!」

「いやいや、この町は墓守が町長なんだよ。名前を捨てた世捨て人でな、墓守なんて暇な仕事してるから町長にしてやった」

「はた迷惑な話ですね」

「会うたびに文句を言われる。教養はあるから町長なんてやれてるんだけどな」

「では、行きましょうか」

「ん~、お嬢様の足では遠いから馬車を使おう」

「舐めているのですか? そんなに遠い訳ないでしょう」

「町の端から端くらいあるし、馬車があるのに勿体なくないか?」

「馬車で行きましょう護衛も疲弊しては仕事が出来ないですし」

「賢明な判断だと思うぞ。この町で暮らすなら体力は付けないと生きて行けないけど初日くらい多めに見よう。歩きに適した服や靴じゃないしな」

「町に着いたら色々と買い物するつもりです」

「それじゃ行くか……」

「あっ、町に行くなら私も行きます」

「ティア? 用事あるのか?」

「調味料が切れそうなのが幾つか、馬車なら楽ちんです」

「ゲイツ家の馬車でおつかいとは舐めてますね」

「初日だから許しますが、私の方が先輩ですからね?」

「この小娘……」

「私が小娘なら貴女は金持ちの小娘じゃないですか」

「この!」

 喧嘩が始まった。メルティアは力では敵わないと分かっているのか口喧嘩だ。

「じゃあ、俺は先に行くから。喧嘩が終わったら馬車で来いよ?」

 徒歩で墓守の元へ行こうとする。女の争いに男は不要だろう。護衛も主の口喧嘩が珍しいのか戸惑ってる。金持ち喧嘩せずって言葉もあるし、案外初めてかもしれないな。





 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る