第113話 ソフィア・ニックス

 ソフィア・ニックスはカジノ王の娘の護衛だったそうだ。暗殺者を護衛にする要人は少なくない。暗殺者には暗殺者の行動原理が分かるものだからだ。現に暗殺者ギルドの依頼にあるくらいだ。ウルルスも大商人の護衛に付いた事がある。余程あくどい商売をしたのか手に掛けた刺客は十人を下らない。豪華な生活に飽きたので大金をせしめてから護衛を止めて見殺しにした。彼の家族達がどうなったかは興味がないので知らない。

「ソフィア・ニックスです。以後お見知りおきを」

 翌日家に正装で現れたソフィアに頭を抱えそうになるのを何とか思い留まる。

「ご主人様……」

 ティアのジト目がウルルスに突き刺さる。ローガンとフェイは助産婦のところだ。ロイはその護衛で席を外している。

「ウチで暮らさないから大目に見てくれ、今後は暗殺者ギルド所属になる予定だ」

「これ以上増えても部屋が無いので、その辺は心配してません」

「じゃあ、何だ?」

「この人、美人ですよね?」

「そうだな。ティアには負けるがな」

「浮気は許しませんよ?」

「俺も愛しい息子と離れるのは勘弁だな」

「何のお話ですか?」

 ソフィアにティアとの約束を端的に説明する。ソフィアは顔色一つ変えずに、

「それは素晴らしいですね……」

「でしょう⁉ ご主人様は超モテますからね!」

「顔は平凡ですけど、勝負師の顔はかなりイケてます」

「ソフィアさんは分かってますね! カジノ王から離れて正解ですよ!」

「別に違約金もないですし、賭けに負けたと言ったら放逐されました」

「ホントにカジノ王は相変わらず運至上主義だな、そこが嫌いなんだが」

 カジノ王とは本格的に事を構えないといけない様だ。

「ソフィア、ティアと一緒にウチの家族守ってもらえないか?」

「それは構いませんが、暗殺者ギルドの手続きは?」

「あー。手紙を書いたから大丈夫だろ。不安なら付いて行くけど」

 暗殺ギルドの使い魔の鳩は送信オンリーで返信は出来ない事になっている。暗号化した手紙を書いて送ったので多分カリア達には話は通っている。なぜか最近スカウトばかりしているような気がする。

 暗殺ギルドを背負って立つつもりは無いが、カリアの負担を和らげるのはやぶさかでない。

「なぜでしょう……、女の匂いを感じます」

 女性の直観は侮れないとつくづく思う。

「仲間はずれの師匠はどうするんです?」

「ロイは連れてくけど、何か問題あるか?」

「いえ、師匠は運が強いですから、私より役に立つでしょ……」

「オムレツ争奪戦は常勝だしな」

「オムレツを半分こされる私の気分が分かります?」

「ティアが弱すぎるだけだと思うぞ……」

 ティアが冒険者達の借金を返せたのは、すでに成金貴族の息がかかっていたと考えるのが普通だろう。そのお陰でティアは自分の物になったので、今はそれでいいと思っている。

「ソフィア、カジノ王は何処にいる?」

「カジノに行けばすぐやって来ると思いますよ?」

「そりゃ、そうだな。因縁に終止符を打つか……。めんどくせ」

「それは逃げ続けたウルルス殿に非があると思いますよ?」

「だって、カジノ王の娘はアレだし……」

「性格はアレですけどいい子ですよ?」

「性格自体は矯正出来るとしてしても、めんどくさいなその作業……」

「……。ご主人様私にそれしましたか?」

「安心してくれ、絶対気付かれない様にしてるから」

「……。ちょっと横になってきます」

 ヨロヨロとティアは寝室に向かう。

「アナタは鬼畜ですか……」

「冗談に決まってるだろ。何言ってんだよ」

「それは本当ですか?」

「混乱したティアが、どんな結論を出すかはちょっと楽しみにしてる」

「最悪ですね、この男……」

「褒めても何も出んぞ?」

「はぁ、私が死ぬ気で守りますから家族には優しくしてあげて下さい」

「ま、ソフィアももう身内なんだけどなぁ。価値観を壊していい?」

「ご免こうむります」




 


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