第102話 免許皆伝

 骨折が完治したラムサスが何故自分がここに要るのか分からないようなので手紙を見せてやった。

「これは確かに儂の字だ……。これではまるで果たし状ではないか!」

「だから決闘したんじゃないか……。どこまで忘れてるんだよ……」

「この手紙を書いた記憶は無い。ローテシアに想い人が出来たのは知っている」

「妊娠したのは?」

「いや、さっき知ったばかりだな」

 妊娠した事はローガンが手紙に書いたはずだ。どれだけ記憶が飛んで要るのか……。これは本当の事を言うべきか、それともうやむやにすべきか。

「結婚式はもうしたのか?」

「あー、正式にはしてない。この町には教会が無いんでな、町長の承認は済んでる。なんなら書類見せようか?」

「教会がない? そんな町あるのか?」

「ここは通称異端者の楽園って呼ばれてるからな……」

「異端者の楽園、聞いた事がある。教会の定めた戒律を破った者が作った町……」

「俺は昔から教会が嫌いでな、奴隷とも結婚出来るこの町で暮らしてる」

「教会嫌いか……。ま、気持ちは分かるな。あれの上層部は腐っとるからな」

「だよな、権力があるところは腐りやすい」

「まったくだ」

 ウルルスが産まれたコル家の様な名家や貴族、王族に至るまで特権階級は腐りやすい。暗殺のターゲットも特権階級が多いのは恨みをかいやすいのだろう。

「デェート家に跡取りは要るのか?」

「いや、儂の子供は女ばかりだから入り婿になるだろうな。門下生の誰かになると思う」

「へ~、ならローガンを嫁に貰っても問題無さそうだな」

「本家分家などウチの家では関係ないからの、ランドルフ古流剣術を学んだものは家族だ」

「そうなると俺も家族に入るのかね。ランドルフ古流剣術は一通り学んだんだが」

「ほう。ローテシアに弟子入りしたのか、それならもう家族だな」

「ガルシアの練習を良く見てたし、ラムサスが決闘だと息巻いてたから剣を学び直したよ」

「それで決闘で儂に勝ったのか……。免許皆伝だな」

「叔父上。し、ウルルスを認めてくれるんですか?」

「認めるも何も儂に勝つほどの腕前の男を他に渡すわけにいかんだろ」

「重婚者でもですか?」

「稼ぎがあるなら文句はない。儂も妻が二人おるしの……」

「叔父上、いつの間に……」

「複数、妻を持てるのは男の甲斐性だ」

「まあ、そうですが……」

「稼ぎはあるぞ? 暗殺者ギルドの稼ぎ頭だ」

「なんで儂は決闘するほど激怒したんじゃ?」

「俺が聞きたいよ、もう無理だけどな……」

 本当になんで激怒していたのかはもう分からない。ラムサスが記憶を取り戻したとしても一度認めた男を蔑ろにするようには見えない。

「ま、せっかく来たんだ。ラムサス、酒はいける口か?」

「ああ、よく飲み過ぎて妻に叱られるくらいだな」

「俺は蒸留酒が好きなんだが……」

「ウイスキーやブランデーがあるのか⁉」

「いや、まあ。それしか俺は買わないし。他は料理用のワインしかない」

「蒸留酒が飲めるなんて夢のようだ。大分稼ぎがいいんだな!」

「子供が産まれるし、最近はグレード下げてるけど、遠路はるばる来たんだ今日は良いのを開けよう」

「いやぁ、太っ腹だな」

「俺は身内には甘いんだ」

 ティアも買い物に行ってるし、値段を聞かれる前に飲み終えてしまおう。







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