第101話 名付け親
ラムサスの骨折は最後の一撃を放とうとしたせいで折れた肋骨が肺に刺さる手間だった。ウルルスはラムサスが気絶している内に肋骨をあるべき場所に戻し、その上で回復魔法を掛ける。回復魔法は自然治癒力を高めるだけの術だ。世の中には再生回復魔法なんてモノもあるが、それは回復術を極めた者が行使できる奇跡で、ウルルスはその領域にまだ至っていない。その代わりに活性魔法と身体強化魔法は常時発動できるのだが、
「叔父上は大丈夫ですか?」
「気絶してるだけで命に別状は無いよ。ただ……」
「ただ?」
「思いっきり脳天に一撃喰らわせたから、記憶障害が起きても恨まないで欲しいな」
「元々叔父上の暴走が原因ですし、むしろ感謝しています」
「感謝?」
「叔父上を殺さなくて、ありがとうございます」
なんで殺すのが当たり前の様になってしまっているのか、小一時間ほど問い詰めたい気分だ。なんだか回復魔法を掛けているのが急に馬鹿らしく思えてくる。
「ラムサスを殺して誰が得するんだよ。デェート家の家督争いが起きてしまう」
「それはそうですが……」
「ラムサスの愛情深さ故の暴走だろ? なら、俺がラムサスを殺す理由にはならないだが、一つだけ問題があるんだよな」
「それは何ですか? ご主人様?」
「今後俺はローガンをなんて呼べばいい? ローテシア? ローガン?」
「もう、答え出てません? それ」
自然とローガンと呼んでいる。このままローガンでいいか。
「ラムサスにはローガンの子の名付け親になって欲しかったんだが、殺してもいいかな?」
「いやいや、何ですか⁉」
「萎えた。凄い萎えた。ローガンの殺さなくてありがとうございますって言葉に超萎えた」
「謝ります! 軽率でした! 反省してます!」
「ウルルスの普段の言動のせいでしょ。むしろあなたが反省しなさい」
「俺は無益な殺生しないって、身内には優しいだろ」
「ラムサスさんが身内って意識あったんですね……」
「ロイ、今晩は覚悟しとけよ? 絶対変な扉を開いてやる」
「うぅ、失言でしたぁ……」
ラムサスの目が少し開き始める。意識が戻って来たようだ。猿ぐつわは治療の邪魔なので外してある。
「まだ、動かんでくれよ? 治療が終わっていないんでな」
「私は一体何を……」
身動ぎしようとして自分が縛られていることに気付いたようだ。
「何故縛られているのか聞いても良いか?」
「これは……。だいぶ記憶が飛んでるな……」
「叔父上、ローテシアです。分かりますか?」
「おお、ローテシア。久しいな息災か?」
「はい。叔父上は決闘して記憶が飛んでいる様です」
「決闘? なんでそんな事を?」
ローガンは今までの経緯を話すがラムサスはきょとんとしていた。
「儂がそんな事を?」
「私の妊娠に激怒したのですよ? 覚えてませんか?」
「喜ばしい事ではないか、何故儂が激怒する?」
「あー。こりゃあ重症だな」
「貴方は?」
「ウルルス・コルだ。暗殺者をやってる」
「回復魔法を使う暗殺者など聞いた事が無いのだが。それにウルルス・コルと言えば前国王を暗殺したと言われる伝説の暗殺者ではないか」
「本人だよ。活性魔法で二十代に見えるかもしれんが四十手前だ」
「ふむぅ、なにがなにやらさっぱり分からん……」
「ま、暴れないなら縛る必要も無いか。ティア縄を解いてやれ、俺は回復魔法で手が離せん」
「分かりました」
「ラムサス。俺はお前の兄貴のガルシアの冒険者仲間だったんだ信じるか?」
「四十手前であるならそれもありうるな。兄の訃報は今でもよく覚えている。冒険者になることを散々止めたのだが、産まれてくる子に誇れることをしたいと言って家を出て行ったのだ」
「強かったからな、それもとびっきり。大金を稼いでいたよ……。それを狙われて襲われたんだ」
「そうか……」
家に来た時とは別人のようだ。これはどうしようか……。
「ラムサスさんの歓迎会をしましょう!」
「いいですね。積もる話もあるでしょうし!」
そう言ってティアとロイは歓迎会用の買い出しに行ってしまった。
「すまんな。歓迎の準備もせずに……」
「構わぬ、何があったかはその時に詳しく聞くとしよう」
「骨折は完治にしばらく掛かる。じっとしていてくれよ?」
「あい、分かった」
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