第85話 名前の由来
ルドルフの想い人はウルルスも面識ある庭師の末娘だった。名前はミリー。年齢は二十二歳。確かに身分違いの想い人である。しかし、異端者の楽園に来ればそんな問題は解決する。
「両思いなのか?」
「えぇ。身分違いで表立って会う事は出来ませんが……」
「庭師にくっついて来た時に粉掛けたと」
「人聞きの悪い事言わないで下さい。やった事はそうかもしれませんが……」
「コル家の皆さんは若い子が好きなんですね、遺伝ですかね?」
確かに父親も若い娘が好きだった。異母兄妹が増えたのはそのせいもある。名家当主の特権で近親婚だろうが、略奪愛だろうが、強引に出来るのだがルドルフは良識人だった。
「遺伝だろうな」
「遺伝でしょうね」
二人は責任を全て遺伝のせいにした。父親が好色だったのは確かだ。隠し子が居ても別に驚かない。
「最愛の人が亡くなって自暴自棄になった、と酒の席で聞いた事があります」
「俺の母親のことだな。どんだけ好きだったんだか……」
「自分の名前を超えるウルルスと言う名前を付けるのを許すくらいぐらい好きだったんじゃないですか?」
ウルルスの父親はウルス。ウルスに一文字咥えてウルルスと母親は名付けたらしい。ウルルスとは今は誰も使っていない言語で熊を意味する。
「世話してくれた侍女の話では、ウルスを超える名前としてウルスススでは語呂が悪いからとウルルスにしたらしい。この名前は母親との唯一の繋がりだ。変えるつもりはない」
「そうだったんですね」
乗って来た馬車は定員が六名だ。町で御者は一人雇ったが、ミリーを乗せるとなると誰かが御者台に移らないと定員オーバーだ。
「俺が護衛代わりに走ろうか?」
「そうして下さい。ミリーさんにルドルフさんの人柄とか聞きたいですし」
「そうね、義理の妹の人柄も知りたいわね」
「義理の妹ですか、私は一人っ子ですから兄妹が増えるのは嬉しいですね」
「年上の義妹ですか、複雑な気分です」
「こう言っては何ですが、兄上は父上そっくりですね。やってる事が……」
ルドルフの言葉にウルルスは嫌な顔をする。否定できないのが物凄く嫌だ。
「ルドルフは一途だな……」
「私はモテませんからね」
「よく言うよ、その顔で……」
ルドルフは美男子だ。名家に産まれてなかったら遊び人になっていたかも知れない。女に金を貢がせて生活することも出来ただろう。
「ま、平凡な顔立ちの方が暗殺者向きで良いけどな……」
「そうですか? ご主人様の本気の顔はカッコいいと思いますけど?」
「そうね。ギャップが凄いわ」
「戦ってる時の師匠はカッコいいです!」
「師父の一瞬しか見られない表情がグッと来ます!」
「愛されてますね、兄上」
本気の顔など自分で見たことが無いので何とも言えない。見られるとしたら武勇を極めたい実力者相手の殺し合いの時だけだ。
命を賭けた殺し合いなんて本当はしたくない。絶対勝つから。
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