第84話 話し合い

「初めに言っとくが俺は当主になる気はないから」

 ウルルスは開口一番にそう告げた。

「何故ですか? コル家は名家です遺産もそれなりに……」

「ルドルフもこの家を出るそうだ」

「な⁉ 本当ですか!」

「ああ、私は本の執筆で生きていくと決めた」

「では、誰がコル家を継ぐんです? 私もミシェルも既に家庭を持っています」

「マイケルかジェイソンじゃないか? 頼りないけど」

 正直潰れた方がこの家の為だと思うのだが……。

「レプス家の様に潰れるのも手だと思うぞ? な、ティア」

「そうですね。権力は人を腐らせますから」

「奴隷風情に何が分かる!」

「私は奴隷に落ちる前はティア・レプスと言う名前でした」

「「「「「!?」」」」」

「レプス家の生き残りに奴隷風情とはいい度胸してるな……」

「そ、それなら僕がレプス家を継いでもいいよ。マイケル兄上はコル家を継げばいい」

 誰に気付かれる事なくジョンソンの後ろに立ったウルルスは思いっきり頭に裏打ちを叩きこむ。余りの早業に誰も反応出来なかった。

「寝言は寝て言え、若造」

 両耳から血を流しぐったりするジェイソン。辛うじて生きているが、回復しても後遺症が残るのは確定だ。ウルルスは何事も無かったかのように席に戻る。

「ウルルスは暗殺が本業、迂闊な発言は死を招くわよ?」

「兄上が産まれてない事になっていっていたのは……」

「俺が賞金首だからだよ」

「父上の嫌悪感からだと思っていました……」

「確かに嫌われていたからな。だが、お前達には言えんだろ兄貴が暗殺者になったなんて」

 それは父親が異母兄妹を愛していたからだろう。しかし、幼い頃の記憶は消せないものだ。じゃあ、あれは誰だったんだろうと疑問に思うのが普通だ。

「俺はこの家から消された存在だ。仮に偽名のレミントン・コルを名乗ったしても、いずれボロが出る。俺は居ないモノと扱え、いいな?」

「私は兄上の記憶が正しかっただけで十分です。分家に嫁いだとは言え、家庭もありますし、子供もいます」

「私もです。今の生活に不満はありません。ただ、ルドルフ兄上が奇天烈な事を言い出したなと、思っただけですから……」

 姉妹は既に家庭を持っているので波風は立てたくないようだ。ルドルフの提案が強引だっただけで、二人共ルドルフが当主になるものだとと思って居たのだろう。

「マイケル。お前は当主になれる器か?」

「馬鹿にしてるのか? 攻撃魔法が一切使えないくせに……」

「それでも、俺はジェイソンやお前を殺せるぞ? 俺の二つ名は魔法士殺しだからな。手加減はしたが、ジェイソンは再起不能だな……」

「お前がやったんだろうが!」

「は? 命があるだけ幸運だろ? 俺の物を取ろうとしといて何言ってんだ?」

「ご主人様がやってなかったら私が殺してましたよ、感謝して欲しいくらいです」

「……。お前ら狂ってる」

 命を軽んじている自覚はあるが、狂ってるつもりはない。価値観がマイケルとかけ離れているだけだ。

「そろそろ回復魔法を掛けないと死ぬぞ、ジェイソンが」

「疫病神がサッサとこの屋敷から消え失せろ!」

「言われなくてもそうするよ。ああ、忠告しとくぞ逆恨みで刺客は送るなよ? 死体が増えるだけだからな」

「消え失せろ‼」

「へえへえ。ルドルフ行くぞ。お前の想い人にも会ってみたい」

「分かりました。では、皆元気でな」

 ルドルフは肩の荷が下りたような顔でウルルス達と食堂を後にする。残された姉妹はマイケルが暴走するのが分かっていたので、分家のから本家に戻ることも可能だなと考えていた。

 





 



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