第80話 ベスの知らせ

「ウルルス、しばらく身を潜めた方がいいかもしれないわ」

「なんだよ。藪から棒に」

 ベスからの伝書鳩の手紙を読むなりフェイはそう告げてきた。

「やっぱり、ウルルスを探していたみたいなのよコル家が」

「今更なんの用だよ……。産まれてもいない事になってるんだぜ?」

「現当主が亡くなって、跡目争いが起きてるみたい」

 実の父親が死んでも何も感じない事に少しショックを受けながらウルルスは昼食をテーブルに並べる。

「そうは言っても、俺は嫡男じゃないぞ?」

「それが問題なのよ。遺言も残さずに逝ってしまったみたいでね、兄妹の中で意見が分かれてるみたいなのよ……」

「俺の次のルドルフで良いじゃないか」

「そのルドルフって子がウルルスを呼び戻すって主張してるのよ」

「で、レミントン・コルとして探してたのか……」

「そうみたい。賞金稼ぎまで使ってね」

 ルドルフはウルルス・コルとレミントン・コルの両方で探していたと云う訳だ。「何だってそんな事を……」

「もう向かってるみたい、この家に……」

「だから、身を潜めた方がいいって言ったのか……。でも、本人に聞くのが一番だろ」

「それはそうだけど……」

 昼食の匂いに引かれて皆が集まってくる。

「疲れました~」

「ティアさんもだいぶ様になってきましたね」

「ご主人様。昼食の後に稽古つけて下さい!」

「あ、それなら私も!」

「それは運動出来ない私に対する当てつけですか?」

 ティア、ロイ、ローガンが言い争いを始めた。最近日常化し始めている。

「師匠、激しい運動がしたいです……」

「ダメです」

「うぅ、最近鈍っている気がして……」

「素振りなら多少やってもいいよ」

「ホントですか!」

「汗だくになったら二度と振らせない」

「わ、分かりました」

 ロイだけが食事が出来る事への感謝の祈りを捧げてから食べる。他の者たちは教会を嫌っているのでそれはしない。

「今日のスープは秀逸ですね!」

「ホントに美味しいですね!」

「だだのくず野菜のスープだよ……。塩気強めにしてるだけだ」

 運動した二人の分だけ少し塩を足してある。

「ウルルス。身を潜める場所はありそうなの?」

「何の話ですか?」

 ティア、ロイ、ローガンに今までの経緯を話す。

「ご主人様の弟さんですか……」

「跡目争いはどの家にもありますよね……」

「ウチは叔父が継いでいるので何とも言えないですね」

「身を潜めても一時的なモノだし、向き合おうかと思ってたんだけどな」

「ウルルスがそれでいいなら、私はそれでいいけれど」

「返り討ちにしましょう!」

「そうですね!」

 なぜか戦う気満々のティアとロイ。

「ただの話し合いで済むと思うぞ?」

「そうですね。師匠が当主の座を欲しがるとは思いません」

「安定を得るか、自由を得るか。ウルルスは絶対に後者でしょ」

 ローガンとフェイはウルルスの性格を良く分かっている。ウルルスは当主になる気はない。ルドルフが来たらお前が当主だと言ってやるつもりでいる。自分は攻撃魔法が一切使えないからだ。



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