第75話 久々の仕事
急ぎの仕事が一件だけあるらしい。医院の回復術士も副町長も副業だ。勘が鈍らない内に仕事があるのは正直助かる。
「良く現れるのは王都の食堂<ノワール>です。名前はアンディ。似顔絵はこちらです」
「ふ~ん。なんでまたこんな普通そうな奴に殺害依頼なんて来たんだ?」
「連続幼女強姦魔だそうです。久々に検察官からの依頼です」
「死ななきゃ直んない病気もあるわな」
優秀な弁護士を雇い罪を軽くする犯罪者もいる。そんな時、検察官の奥の手が暗殺者ギルドだったりする。表立って言え無いが、不審な死を遂げた犯罪者はほとんどは殺害依頼で殺されている。これも暗殺者ギルドの仕事の内だ。
「ホントなら金を渡した幼女に命を狙わせるのが順当なやり方ですが、返り討ちに合うのもどうかと思いまして」
「格安で受けるよ、こんなゴミは早く片付けないと被害者が増える一方だ」
「では、今回は銀貨三十枚でお願いします」
「了解した。カリアはしばらく横になってろ足プルプルしてるぞ?」
「そうしたのは主様じゃないですか……」
それはそうだが、依頼があるとは思って無かった。今度から確認しよう。
「ギルド長室の奥に脱衣所を設けました。そこで匂いは消して下さい」
「至れり尽せりだな、二人は反対しなかったのか?」
「さんざん小言言われましたが、覚えてません」
「肝が据わってるなギルド長は……」
「主様に恥じないギルド長でありたいですから」
「脱衣場に水でもあるのか?」
「はい、用意しておきました」
「このエロギルド長が」
顔を真っ赤にしてうつむいて、手で顔を覆ってしまった。なんだろうこの可愛い生き物は……。また抱きたくならない内に退散しよう。
三時間ほど走って王都に到着した。ノワールって食堂はどこだっけ? しばらく住んで居たこともあるが、ほとんど出歩くことは無かった。誰かに聞けば分かるか……。
「すまません、ノワールって食堂どこですか?」
「え? ここと正反対の南通りにありますけど……」
「へ? すみません、初めてなもんで」
「そうですか、スリに気を付けて下さい」
「じゃあ、財布返えしてくれます?」
「へっ……」
ほんの一瞬、呼吸を盗まれた。わざわざと財布を盗みやすい上着のポケットに入れておいたのだが、見事にスラれた。
「その気があるなら他の仕事を回してあげるから、返してくれない?」
「はぁ、盗ませておいて何の仕事をさせたいんですか?」
財布を返して貰った。本当に素早い仕事だった。
「暗殺」
「は?」
「君なら稀代の暗殺者に成れる素質がある」
「そんな、人殺しなんて……」
「じゃあ、見学してくれる?」
「暗殺の見学ですか……。聞いた事も無いです」
「君になら見せてあげても良いかって思ってね」
「ノワールで行うんですか?」
「ターゲットが良く目撃されてるらしくてね」
説明しながらノワールに向かう。ターゲットが現れないならこのまま食事をして帰ってもいい。フリーマーケットで掘り出し物が見つかった様な気分で機嫌がいい。と思っていたのだが、
「なんて間の悪い奴……。すみません、アンディっていう人知りませんか?」
「それなら俺だけど?」
「そうですか……」
一瞬の交錯、手を当て浸透勁と裏打ちを叩きこむ。
「かぷっ」
「大丈夫ですか! お医者さん呼んできますね!」
スリの女性とその場を急いでその場を後にする。
「まあ、こんな感じ」
「息するみたいに人を殺すんですね……」
「連続幼女強姦魔なんて生きてる価値ないよ」
「あの人が? そんな、嘘」
「検察官からの依頼なんだよ、犯罪者を野放しに出来ないからって」
「そんな……」
暗殺者ギルドの説明やどの町にあるかまで教えて家路に着いた。スカウトなんて初めてしたから上手く行くか分からないが、素質はある子だった。あとは本人がスリと云う影の世界から闇に落ちる勇気が持てるかどうかだ。
暗殺者は正義の執行人ではない。ただの金を貰ってやる人殺しだ。その事は決して忘れてはいけない。
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