第130話 ユスティア

「ワールキャステル」


 ユスティアが距離を詰めた魔神の前に、氷壁が発現する。

 迂回をしては時間が取られ、魔神との距離を詰めることなどできない。

 かといって炎属性の魔法で溶かすというのも時間が取られ、破壊するにも氷壁の硬度はかなり高いと思われる。

 なにしろ魔神の魔力が低いなんていうことは、まずあり得ないからだ。

 ユスティアは忌々し気に氷壁を睨み、右手にある聖遺を投げつけた。


「シャドウレイっ」


 三〇の槍が氷壁を貫いて道を作る。だが氷壁の向こうに魔神はいない。

 ユスティアは投擲した聖遺を右手に具現化して握り、すぐに場所を移動する。

 十分に渡り合えるとユスティアは感じていたが、問題は魔神が二体ということだった。

 一体の攻撃が、そのままもう一体の魔神への援護になってしまう。

 それで時間を取られることになり、ユスティアは満足に攻撃すらできずにいた。


「――!」


「ジャベリン」

「フレイムバースト」


 移動してすぐに魔神が挟み込んでくる。

 時間が経つに連れ魔神が攻撃してくる間隔が短くなり、追い詰められていっているような錯覚をユスティアは持つ。

 だがスピードは間違いなくユスティアのほうが上回っており、こうも翻弄させられているというのが不可解であった。

 そのためユスティアは、一度上空に上がることにする。

 自分の姿をどちらの魔神にも晒してしまうことになるが、まずは状況を確認することを優先した。


「――――」


 魔神の魔法で氷壁や岩などがいくつもある。

 ユスティアはそれを利用して距離を詰め、各個撃破していくつもりだった。

 だがそれが逆に利用されていたことを知る。



「まさか自分から上空にあがるとは。バレてしまったな」


「――――」



 ユスティアの表情は固まってしまっていた。

 なにしろ二体の魔神を相手にしていたはずなのに、今眼下にいるのは六体になっていたからだ。



「その四枚の翼と異次元の槍は厄介だが、どうにもならないということもない」

「あっちの加護を持つ人間とは相性が悪そうだが、私が遅れを取ることなど早々ない」

「エクスプロージョン」

「ファイヤーストーム」


 エクスプロージョンの範囲からすぐに離脱すると、その先では炎の竜巻が待つ。

 これも旋回して回避すると、二体の魔神が青い剣を振り下ろしてきていた。

 ユスティアはとっさに柄の長い聖遺で受け止めるが、なんとか聖遺を割り込ませたというほうが正しい。

 態勢が整っていなかったユスティアは、そのまま剣を振り抜かれて地面に向かって弾かれた。

 下からは四体の魔神が魔法を展開し、上からも二体の魔神が迫る。


「――――っ、インパクト!」


 弾かれたユスティアに、体勢を立て直して回避するということはできない。

 だがこのままでは魔神の攻撃をまともに受けることになってしまう。

 ユスティアは苦肉の策で自らにインパクトを放った。


「くっ――」


 多少加減はしたといっても、回避するためにはそれなりの威力が必要だ。

 ユスティアは自分で放ったインパクトの衝撃に防御姿勢を取って耐える。

 大きく落下の軌道を逸れたユスティアは、すぐに六体の魔神を視界に捉えた。

 さすがに今の行動は意表を突いたのか、靄にしか見えない魔神がユスティアを見て動きが止まっている。


「…………サイアク」


 ユスティアは呟くと、おもむろに聖遺を水平にして自身の前に出した。


「我は真紅の刃を持つかの国の女王

 我の命に応え、現界せよ」


 ユスティアが言葉を紡ぐと、ユスティアと魔神がいた場所が黒い空間に覆われる。

 外側からはなにも見えず、ただただ深い闇があるだけ。

 だが唯一ユスティアと魔神だけはそうではなかった。



「キサマ、いったいなにをした?」



 そこは紫の空が広がり、太陽も月も、星さえもない世界。

 七つの城壁に囲まれた城の一画。



「この世界は私が統べる世界。陰気臭いからこれは使いたくないんだけどね。

 我に敵対するアレを始末せよ」


 闘技場のような場所にいた魔神たちの周りに、影の騎士が何十体と現れる。

 魔神は魔法を放つが、騎士たちには効果がまるでない。


「な、なんだこれは! 来るな!」


 青い剣で魔神が斬るが、それもなんの効果もなく斬ることができていなかった。

 六体の魔神に襲いかかる影の騎士のそれは、まさに惨劇と呼ぶに相応しい。

 複数の剣が魔神を捉え、再生をする魔神の首や腕などを何度も切断する。

 それは何度も繰り返され、最後はユスティアの聖遺が貫いた。

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