第126話 確かなもの
アランはルイがいる中央に視線を走らせ、戦況を確認する。
魔物は二〇万という大群で、単純な数としては連合軍が劣勢なのはすぐにわかる差である。
だが神騎であるユスティアは、この計算には当てはまらない
一人で高ランクの魔物であっても倒してしまう。
だがルイはユスティアとは戦略的な規模が桁違いだった。
ルイはたった一人で数万の魔物を押さえてしまう。
ワイズロアでアランが見た光景は、目の前にある光景でも信じがたいものであった。
だが今ルイが立っている戦場は、あのときよりもさらに激しい。
常に数百体の魔物が雷によって絶命し続け、高ランクの魔物であっても他の魔物と同じようにルイが倒してしまう。
「まだ届かないか」
アランは左翼の前線を、ルイがいる高さにまで押し上げていく。
いくらルイが中央にいたとしても、両翼がルイよりも低ければ魔物は左右に流れてしまう。
それではこの作戦は機能しない。
ルイに応えるためにも、そんなことにするわけにはいかなかった。
アランの背中に二つの炎が発現し、勢いが増していく。
「
スピードを乗せた
だが一瞬の間をおいて、細かった火が業火と化す。
オークくらいの魔物であれば一瞬で消炭にしてしまう。
そこに突然降ってきた竜。
少し青が混じったような緑色の鱗を持つ竜がアランの前に落下し、迫ってきていた魔物が群がった。
ヘルハウンドがあっちこっちで噛みつこうとし、ゴブリンが竜の背中に登って小さなナイフを突き立てている。
その竜の翼は傷つき、飛んで振り払うこともできずにいた。
「――神聖魔法師を! 他の者は竜の援護」
アランが動いたが、他の騎士はすぐに動くことができずにいる。
体調一〇メートルはある竜であり、自分たちが攻撃されないとも限らないと思えたのだろう。
「――――っ」
とはいえ竜の体躯は大きく、物理的にアランだけではどうしようもない。
そんな状況で、他の騎士たちの動きも鈍くなってしまう。
アランと竜に意識が向いてしまうようで、チラチラと視線を送っている。
「上を見ろ!」
アランが叫んだ。援護の魔導士たちよりもさらに上の上空では、新種の黒い竜種やワイバーン、キマイラなど高ランクの魔物とジルニトラが引き連れてきた竜たちが戦っていた。
この空を見れば、なにも感じないわけがない。
空では数の苦戦が強いられていた。
この竜たちがいなければ、空への対応も連合軍は行わなければならない。
それにはかなりの人数を割くことになり、今自分たちがいる地上はこんな状況ではすまないはずであった。
「――――――~~~~、うおりゃーーーー」
残忍性だけでBランクに設定されているレッドコームが、老人のような顔に愉悦の表情を浮かべてナイフを竜に突き刺す。
そんなレッドコームを竜の背中を駆け上がり、一人の騎士が首を跳ねた。
少しやけくそのような感じで剣を振り、魔物を斬って牽制する。
その騎士の後ろから、ミノタウロスの斧が迫っていた。
「――――!」
気づいたときには斧が振り下ろされているところで、その騎士は覚悟を決める。
だが、その覚悟がやってくることはなかった。
竜の尻尾がミノタウロスを薙ぎ払っていたからだ。
すぐに他の騎士たちも竜を囲んで援護する。
そのときには神聖魔法師も到着し、竜の治癒を始めていた。
「デューン将軍、魔神殺しとは、これほどだったのか?」
中央後衛に位置するクレアの部隊からさらに後ろ、連合軍の本陣でフェルナンド王が呟くように問いかけた。
フェルナンド王はルーカンでルイの戦闘を目の当たりにしている。
それはあとで知った、魔神殺しと呼ばれるに相応しい戦い振りだと思っていた。
だがフェルナンド王は、目の前の戦闘を見て知らなかったことを理解する。
ルーカンで魔物の大半を葬ったのは、今目の前の空で他の竜とは一線を画す戦闘をしている白銀の竜。
しかし魔神殺しがルーカンで本気であったならば、白銀の竜がいなくとも魔物を殲滅していたことを知る。
中央の戦場では、それほどのことが起きていた。
フェルナンド王に問われたデューンであったが、デューンはそれに答えることができずにいた。
ルイの魔法は魔神が聖都に襲撃してきたときに見ている。
だがあのときには魔神だけだったというのもあり、これほど大規模な魔法をルイは使っていなかった。
そしてデューンは、目の前にある異常な戦場を見てクレアが言っていたことを思い出す。
ルイの魔法は、神々の魔法であることを。
デューンはこのとき、初めて理解できたような気がしていた。
クレアの白いステータスカードと、ルイという存在。
そこには女神パナケイアに愛され、クレアと同じ白いステータスカードを持つ聖女エリスまでいる。
アランも金のステータスカードを持ち、ユスティアは聖遺も召喚する。
すべてが繋がっているのだと、デューンは確かに感じていた。
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