第125話 ジャッジメント

 両翼に挟まれる形で、中央にぽっかりと空いている空間。

 陣形としては歪で、すぐにも中央が崩れそうな布陣である。


 連合軍の騎士たちのなかには、この作戦を知らない者もいた。

 だがこのことを知っている将軍たちですら、実際に目の辺りにすると半信半疑になる。

 なにしろ今迫ってきている魔物は、二〇万を超えているのだから。

 見渡す限りと言っても過言ではない魔物たちが、連合軍の魔法に倒れた屍を越えて迫ってくる。

 一呼吸、ゆっくりと深く息を吸って、ルイの鋭い視線が魔物たちを見据えた。


「かの者たちは集う」


 今さっきまで空で輝いていた星々が遮られ、低く唸るような音が鳴り始める。



「――まさかこれ、魔法なのか?」


 さっき連合軍が放った魔法と同程度の魔力が溢れ、騎士たちは空の変化に戸惑う。

 魔物の大軍が迫ってきているというのに、騎士たちの目はその変化を見ずにはいられなかった。

 そしてそれは、右翼にいるユスティアも同じであった。


「これが魔法? こんなの、魔法の範疇を完全に超えてる……」


 ユスティアはルイの側で戦ってきた一人であり、その実力も知っている。

 だがワイズロアの防衛戦のときにはいなかったため、今目の前に広がる光景を見たことがなかった。



「世界は宵闇よいやみまと

 無明な現世うつしよに神は現界する」


 気づけば雷鳴が絶えず鳴り響き、別の戦場になってしまったと思えるほどの雷が空をはしっている。

 ルイは太刀と打刀を抜刀し、その名前を口にした。


「ジャッジメント」


 ルイと呼応するようにして、中央の戦場は姿を変える。

 中央にぽっかりと空いた歪な空間は雷が何百と大地を穿ち、迫ってきていた魔物を屍に変える。

 変化はルイのいる空間だけに留まらず、ルイ自身にも現れていた。

 ルイ自身からも激しく雷がほとばしり、ルイが動いたところには雷の軌跡が残る。

 そしてそれを認識したときには、魔物は霧散しているのだ。


 それが合図となり、ユスティアとアランが動いていた。

 三騎士とゴードンに率いられているセイサクリッドとブルクの両翼も、ユスティアとアランに連動する。

 それは空にいた竜も同じで、ジルニトラ以外の竜たちが動いた。


 唯一ジルニトラだけは、雷が支配する空間へと飛び込んでいく。

 ジルニトラにも雷は迫ったが、これを回避することもなくジルニトラは進む。

 ジャッジメントの雷は、ジルニトラに届く直前で不自然に曲がる。

 これはジルニトラが強大な魔力で大気を操っており、雷に抵抗するための空間を形成しているためだ。

 運良く雷の裁きから逃れていた黒い竜種に、ジルニトラの爪が襲う。

 ジルニトラの爪が首を大きく斬り裂き、やられた竜は落下して動かなくなった。



「トルネード」


 魔力を抑えることもなく放たれたユスティアの精霊魔法が、目の前に迫っていた魔物たちを一〇〇体ほど巻き上げる。

 トルネードのなかでは真空の刃が襲いかかり、低ランクの魔物などまとめて斬り裂いてしまう。


「このまま突っ込むわよ!」


 ショートカットにされている銀髪の髪が流れ、いつもは半分ほどしか見えないエルフの耳があらわになっている。

 背中には炎の四枚羽が発現し、一気にユスティアは加速した。

 ゴブリンやコボルト、オークなどの低ランクの魔物には目もくれず、手当たり次第に高ランクの魔物を葬っていく。


 エルフの戦い方は、ベースとなるのは精霊魔法だ。

 その威力は強力であり、低ランクの魔物はほとんどまとめて倒してしまう。

 これは数を減らすという意味では、連合軍のなかではトップで効率がいい。

 だが高ランクの魔物ともなればそうもいかない。

 それを考慮しての戦い方であった。


「――――シャドウレイ」


 黒い柄に真紅の刃の聖遺が、全方位からマンティコアを刺し貫く。

 トロルの巨大な棍棒を跳ねるようにして回避し、右手をなにもない場所へとユスティアは伸ばした。

 側面から左手の剣で腕を斬り落とすと、なにもなかった右手に聖遺が握られている。

 それを斬り払うようにして振るうと、トロルとその周辺にいた魔物を真っ二つに両断した。


 ユスティアはチラッと中央を視界に入れ、遠目からその戦場を確認する。

 そこではジルニトラが上空で縦横無尽に暴れ、雷が魔物を次々と葬っていた。


「あれはもう天災ね。エルフの精霊魔法も、神代の魔法を見ちゃうと霞んで見えちゃうわ」


 ほんの一瞬自嘲気味な笑顔を浮かべたユスティアだったが、すぐに意識を戦場へと戻した。

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