第123話 並び立つ二人

 深い紺色の鎧と大きな盾、片手で振るえないほどの大剣。

 場合によってはSランクのキマイラなどよりも厄介なカースナイトだが、それが数百と迫っていた。

 カースナイトは身体強化もあるが、何度も再生してくるので時間と人数が取られてしまう。

 数としては三人ちょっとで一体の魔物にあたれる計算ではあったが、まとまったカースナイトの出現によってバランスが崩れてもおかしくはない。

 場合によってはアランがいる中央では、大きな損害が出る可能性も十分あり得ることであった。


「イアン将軍! 隊列を作らせてください」


 アランはイアン将軍へ指示を出し、先にカースナイトへと斬り込む選択をする。

 少しでもカースナイトの足止めをし、他の騎士たちへの負担を軽くする選択。

 これはルイがワイズロアでやったことだ。

 すべての魔物を受けきるのは難しいため、ルイが前線で間引きと時間を稼いでいた。

 これによってアランたちへの負担はかなり軽減されていた。

 アランはそれと同じ戦略をここで選択していた。


灰燼かいじん!」


 広範囲に放たれる灼熱の業火がカースナイトたちを薙ぐ。

 一瞬のうちに紺色の鎧が赤くなり、所々が黒くボロボロと崩れる。

 だが灰燼かいじんは効率よく魔物を減らすための技であり、必殺の類ではない。

 再生で動きを止めることはできるが、カースナイトを倒し切ることはできていなかった。


「エクスプロージョン」


 小さな爆発がカースナイトを襲う。

 空に上っている部隊がカースナイトの集団を目にし、アランたちに届かない程度のエクスプロージョンで援護した。

 アランの剣がカースナイトを斬り裂き、いくつもの炎槍が宙から周囲のカースナイトを貫いて縫い止める。

 だがその間を抜けたカースナイトが、アランとその後ろにいるイアン将軍たちを襲う。



「アラン殿が惹きつけてくれているうちに、抜けてきたカースナイトを潰せっ!」


 騎士たちが同時にカースナイトに斬り込む。

 だがそのなかにはカースナイトの身体強化に阻まれ、打ち合うことすらできずに弾かれてしまう騎士もいた。


 通常は選抜した騎士を八人編成で、それを三班で挑む魔物である。

 だがここは戦場ということもあり、そんな態勢をすぐに整えることは困難だ。

 イアン将軍はカースナイトと戦える近場の騎士を集めたが、その班員がすべて戦える者とは限らなかった。



 アランは剣を振るい、露出していたカースナイトの核を斬って霧散させる。

 そして横から向かってくるカースナイトを蹴り飛ばし、ドミノ倒しのように時間を稼いだ。


「私が魔物を蹴る様な日がくるとは――」


 同時に一〇本ほどのフレイムランスを展開してカースナイトを貫く。

 なかには盾で防いでしまうヤツもいるが、それでも複数を貫いて時間を稼げるメリットはあった。

 


 イアン将軍もカースナイトに斬り込み、通常ならすぐ離れるところを間合いに入ったまま斬り合う。

 クレアとの模擬戦で使っていた雷属性の魔法で感知し、対等以上に渡り合っている。

 だがカースナイトの再生がそれを補ってしまい、なかなかカースナイトの数を減らすことができない。

 全体の数としては決して負けていないが、アランたちがいるこの場所は局所的に劣勢になっている状況であった。


「ここを抜かれたら中央から崩れるぞ! カースナイトとやれるヤツを呼んでこいっ!」


 ロドヴィルの中隊長も指示だけ口にし、視線はカースナイトに合わせたままだ。

 一体を斬っても再生され、斬った先には別のカースナイトが待ち受けている状況。

 すぐにでも選抜編成で対応しなければ厳しい状況で戦況は変わった。


 突然の雷光が目の前で起こり、その雷が一呼吸の間に一〇ものカースナイトを霧散させる。

 突然目の前にいたカースナイトが霧散したことで、なにが起こったのかと騎士たちは呆けてしまっていた。

 カースナイトが霧散したあとには、雷を身にまとっている黒髪の騎士がいたからだ。


「来たか――」


 チラッとルイを確認すると、アランの口角が少し上がる。

 ルイはロドヴィルの騎士たちが相手をしていたカースナイトを次々に霧散させていく。

 一度それで態勢を立て直す時間を稼ぐと、アランがいる前方へと進撃した。


「待たせたか?」


「――――ちょっと遅かったんじゃないか?」


 目の前にいるカースナイトを霧散させ、アランが珍しく茶化すように言ってきた。


「三八万の拠点だぞ? それなりに急いできて――左翼のゴードンたちより先行してきたんだけどな。

 なんか楽しそうだが、けっこう余裕な感じか?」


 ルイもカースナイトを一振りで霧散させてアランに答える。


「一人だとこの数はしんどいが、ルイと私ならイケるだろ?」


「そうだな。それくらいやってくれないと困る」


「しかし、私とルイ――――という組み合わせは初めてだな」


「たまには男同士も――わるくないだろ」


「そうだな。私とルイで、カースナイトの数を減らすぞ」


「わかった」



 アランはさっきまで広範囲を押さえる戦い方をしていたが、ルイがきたことで戦い方が変わっていた。

 背中には推進力を得るための炎が発現し、時間稼ぎではなく倒すための戦い方。

 アランの刺突はカースナイトの身体強化をあっさり打ち破り、一突きで核を砕いた。


「――迅雷じんらい


 ルイもアランに劣らずカースナイトを霧散させていく。



 二人の勢いは他の騎士たちを勢いづけることになり、シャインとゴードンの軍が横から魔物を急襲したのもあって一気に魔物を殲滅していった。

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