第121話 変わらぬ状況
ルイたち連合軍が森の樹を伐採し始めてから、七日目に入っていた。
夜間は魔物が活発になるため、この伐採は昼間にローテーションで行われている。
時間的には二時間ほどで交代する間隔で行われ、人数は二万人くらいが常に魔法で樹を切断している感じだ。
だがこの七日間、魔物にめぼしい動きは特に見られなかった。
「ライル、こんなことやってて意味あんのか?」
偶然同じローテーションにいたグロウが、ライルに愚痴をこぼす。
愚痴をこぼしてはいるが、グロウが伐採しているわけではない。
主にそれは風魔法と水魔法が使える魔法騎士、魔導士で行われていた。
土属性しか使えないグロウは、魔物の出現を警戒する役割だ。
「まだ七日です。それにこの森の規模は、国の規模と同じかそれ以上。
この程度では一部とすら言えないくらいだから、もう少し長い目で見たほうがいいかもしれない」
「こんなことやるより、直接殺りに行ったほうが早くねぇか?」
「私はゴメンだよ。連合軍の規模で森に入っていくなんて、消耗戦になるのは目に見えている。
一度森を進軍したら、後戻りもできないから森で野宿することにもなるしね。
誰が立案したかは知らないけど、これ以上のやり方はないと思うよ。
グロウだって食事と睡眠はしっかり取りたいだろ?」
「ッチ、まぁーな」
この七日目というのは、緊張が若干緩み始めるには十分な時間になっていた。
聖戦という大義があり、各国が集まっている状況である。
その雰囲気だけでも緊張が高まっていたところに、なんの変化もない時間だけが過ぎていたのだ。
そしてそれは、将軍たちも例外ではない。
「夜間の偵察、警戒もさせていますが、なんの動きも出てきませんな」
「伐採ではなく、いっそのこと焼き払うというのも一計では?」
「本気で言ってるの? あれだけの森、再生するまで何百年必要になるかわかってるの?」
ユスティアが即座に反応し、焼き払うという案を出した将軍は口をつぐむ。
ルイも焼き払うという案には反対であった。
この森の規模は、ガイアの一〇%を超えるかもしれない規模の森である。
陸地という部分だけ考えれば、その数字はさらに跳ね上がるだろう。
一度火が付けば、鎮火させることなどまずできない。
それは自然破壊の結果を知っているルイからすれば、賛同できるような案ではなかった。
とはいえ二酸化炭素がどうだとか言っても、ガイアの人には伝わらない。
別の切り口でこの案を潰す必要があった。
「森の再生に何百年かかったとしても、邪神リリスがいる世界かいない世界かがかかっている。
その何百年という時間も、邪神リリスを引き換えと考えれば安いものなのでは?」
「俺は焼き払うことには反対だ」
「今の話以外に、なにか気になるところがあるんですか?」
クレアが問いかけると、フェルナンド王などもルイを注視した。
陣形の作戦会議のこともあり、ルイの意見は無視できないという心理になっていたからだ。
「仮に焼き払ったとして、そのあとどういう変化があるのか予測できない。
この森は広大で、それ故に魔物の発生も多い。
ではその魔物は森がなくなったとして、どうなると思う?」
「――まさか」
「実際どうなるかはわからない。だが、この森で発生していた魔物が他で一気に発生しないとも言い切れないだろ?
そうなったら俺たち連合軍は空振りに終わる。
こうして戦力を出してしまっている各国は、下手したら保たないところがあっても不思議じゃないんじゃないか?」
それぞれが自国のことを考え、言葉が詰まっていた。
「どうなるのか予測が立たない不確定要素を、わざわざ自分たちで作り出すようなことはしないほうがいい。
魔神は人を滅ぼすという主旨の発言をしていたことを考えれば、そのうち喰い付いてくる。
自分たちの勢力圏の目の前に、俺たち連合軍が陣取っているんだ。
それが勢力圏を日々削っているんだから、ヤツラからすれば目障りだろうしな」
結果的にはなにも変わっていないが不利な状況になったわけでもないことが確認され、状況を落ち着いて見極めるということが確認された。
そして七日目の夜、変化が起こった。
「東側に魔物を確認! 数は三〇〇〇〇ほどになります!」
警戒で偵察に出ていた騎士から報告が入る。
東側ということは、アランが指揮を執るロドヴィルとニクラモナール側である。
「三〇〇〇〇か。この数で本命とはならんだろうな?」
「はい。作戦通り様子を見るのがいいかと」
フェルナンドの考えにデューンも同意し、中央のセイサクリッドもそれに応じた指示が出る。
「左翼のシャイン殿とゴードンの隊を送れ。中央と右翼は待機だ」
作戦は魔物の出現数で、ある程度決められている。
今回であれば三〇〇〇〇の出現だが、これですべての魔物とは思えない数字である。
ブルクは三〇〇〇〇の魔物に落とされたが、ほぼ同時期にセイサクリッドのリンド砦でも戦闘が行われていた。
これだけでも三〇〇〇〇以上の魔物が動いていたことになる。
魔物の勢力圏に近いこの場所で、この数字は少ないと見るほうが妥当であった。
そのため必要以上に騎士を動かさず、魔物の動きを見て対応するという作戦が取られる。
だが、唯一ルイだけは例外となっていた。
邪神リリスがどこで現れるかわからない以上、隊を持っていないルイだけは援軍に出る。
そこでリリスがいれば、ルイが魔法でクレアたちに知らせるということになっていた。
「ルイ様!」
「エリスはクレアと待機だ」
「ですが!」
「今回は班で動くわけじゃない。リリスが出たら魔法で知らせるから、それからでも遅くはない。わかったな?」
「……はい」
「ルイさん! 必ず知らせてくださいね」
「必ず知らせる」
ルイはクレアとエリスに告げて、アランがいる左翼へ向けて本陣を離れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます