第115話 心眼の将軍

「神騎殿が言われているのもわかりますが、相手は邪神リリスです。

 我々の最高戦力でことにあたるのが望ましいと思いますが?」


「仰っていることはわかりますがリリスと戦う前に連合軍が崩れては、それこそリリス討伐どころではないと思いますが?」



 クレアがユスティアのあとに続いて意見をし、軍議は予想通りの展開になっていた。

 ユスティアとクレア、それに対する各国という構図ができあがってしまう。

 これは持っている情報の差でもあり、リリスや魔神に対する認識のズレでもあった。



「魔神という存在と戦ったことがある方はどれだけおられる?」



 口を開いたのは、エスピトの代表として来ていたカルン。

 カルンの問いかけに答える者はなく、各国黙り込んでしまう。

 それを見て、カルンは続く言葉を話し始めた。



「邪神リリスの名前があがっておりますが、魔神と戦える者ですら極々わずかだという認識をお持ちになられたほうがいいかと存じます」


「そんなことはわかっておりますが、ではリリスを彼らだけに任せるというのですか?

 御神託で此度討伐できなければ、リリスが消え去ることはないと言われているのですぞ?

 そんな命運を彼らだけに託すなど危険過ぎる」



 ヴァントシュタットの宰相が言うと、ロドヴィルとニクラモナールもそれに同調する。

 この三カ国に共通しているのは、魔神との戦闘がまだないことにあった。



「あ~、やっぱりこういう理屈でって面倒!」


「神騎殿?」



 心底嫌そうにユスティアが言うと、ロドヴィルの宰相が様子を伺うように声をかける。

 見るからにユスティアは苛立ち、そして暴走した。



「アンタたち精鋭部隊とか言うけど、そのなかに魔神と戦える騎士はどれだけいるの?

 そもそもその騎士たちは、魔神との戦闘経験は?

 言っておくけど、セイサクリッドの三騎士は三人で返り討ちにあってるわよ?

 魔神とすら戦えない騎士を集められても、足手まといなのよ」



 神騎という立場があるから言えるものなのだろうが、それにしても各国代表に対して言い過ぎという言葉であった。

 エスピトの王ベルナールはため息をついていたが、カルンは目を閉じて申し訳なさそうにしている。

 カルンも最初はリリスであったとしても退かせることはできると思っていたが、実際は魔神との戦闘でもこれをできなかったので思うところがあったのかもしれない。



「神騎殿、いささかそれは言葉が過ぎるのではないですか?」



 ロドヴィルの将軍と思わしき騎士が、自制しながらも苛立った声色でユスティアをたしなめる。

 だがそれでユスティアが止まることはなかった。



「魔神とすら戦ったことがない騎士がリリスと戦うことのほうがよほど言い過ぎだと思うけど?」


「神騎殿はともかく、いくら聖遺を召喚できるとはいえ、申し訳ないが他の方々まで信用はできませんぞ。

 見たところクレア殿は騎士団に入って、まだそう経っていないように見受けられますしな。

 そこまで言われるのであれば、その力量を見せていただきたい。

 我々は魔神と戦ったことがないので、推し量ることができませんので」



 矛先がクレアの方へ向いてしまい、デューンが慌てて間に入ろうとしたところ――。



「わかりました。では訓練場へどうぞ」



 クレアが席を立ち、挑発とも取れるような提案を受けた。

 急遽全員で訓練場へ行くことになったのだが、らしくないクレアの様子にルイは問いかける。



「俺がやるか?」


「いいえ、ここは私がいいと思います。

 ルイさんはすでに魔神殺しとして知られていると思います。

 だからわざわざ私を名指しで言及したんでしょうから。

 なにより先生ではないですが、あのままではいつまで経っても平行線だと思います。

 あまりこういうやり方は好みませんが」




 訓練場につき、クレアとさっきの将軍は下で準備をしている。

 ルイたちが備え付けのイスに座っていると、話し声が聞こえた。



「ロドヴィルの将軍ということは、あの騎士が心眼の将軍か?」


「たぶんそうでしょう」



 どことなく着物をイメージさせる服装をした、ニクラモナールの王たちが話している。

 ルイは心眼の騎士なんて聞いたことがなかったが、他国にまで知れ渡っていることを考えればかなりの騎士なのだろう。



「おぉ! クレア殿の身体強化は綺麗ですね。あれほどコントロールされた身体強化は、そう簡単にできるものではありません」



 先に準備を終えたクレアが身体強化をすると、魔力が可視化される。

 以前のクレアのものとは違い、身体の輪郭にピタッと固定された魔力。

 一年前のクレアの身体強化とは、別物と言ってもいいほどであった。



「その歳でそれほどの身体強化ができるとは……。簡単そうにやっているが、並大抵のものではなかったことがわかる」


「心眼の将軍と呼ばれるイアンさんに、そこまで言っていただけるのは光栄です」


「いや、まことに大したものだ。だが、強化は私のほうが上のようだな」



 そういうと、準備が整ったイアンも同じように身体強化をした。

 クレアほどコントロールされた強化ではなかったが、その魔力の輝きはクレアよりも強い。

 魔力の無駄はクレアのほうが少ないが、その強さはイアンのほうが勝っているようだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る