第105話 カレンは人気者
グロウが立ち去って、ルイたちは食事をしに行くことになった。
ルイにとっては、久し振りの聖都というのもある。
お店に向かう途中、ルイたちは帰還のときと同じような状況になってしまう。
むしろ馬に乗っていないので、帰還のときよりも大変と言ってもよかった。
「いらっしゃい――ああぁーぁぁあーーー、ルイィーーーー!」
ルイたちが向かったのは、エドワードの奥さんであるニアの実家シュプリーム。
ルイが店に入ると、持っていたトレーをカウンターに放り出してカレンが走ってきた。
「ルイ、いつ帰ってきたの?」
「ん? さっきだ。久し振りだからここのご飯を食べたくてな」
「そうなの?」
カレンの異変に気づいたニアと、ニアの母親も寄ってくる。
「ルイさん、お戻りになられたんですね! よかったら食事もしていってください」
「あぁ、そのつもりで来た」
「アンタ、前にエドと一緒に来てたわよね? その前からちょくちょく来てたのは印象あったから憶えてるけど、まさか魔神殺しの騎士様になっちまうなんてね!
カレン、あそこの席に案内してあげな」
「わかった!」
ルイの袖を引っ張り、奥の広めなテーブルへとカレンが誘導する。
ルイたちが席に着いてすぐ、ワインのボトルが運ばれてきた。
「前もワイン飲んでただろ? とりあえずこれでいいかい?」
「あぁ。ついでにメニューもおすすめを適当に頼んでいいいか?」
「ああ、わかったよ! ニア、カレンも話したいようだし、今日は休みにしてあげな」
「ホントォ? やったぁー! じゃぁカレンはルイの隣ね!」
奥の席にはクレア、ユスティアとアランが座り、手前にはルイとエリスが座っていた。
カレンがルイの隣に座り、その隣のお誕生日席にニアが座った。
「いきなりご一緒してしまう形になって申し訳ありません」
「いや、俺たちは全然構わないから気にしないでくれ」
「ねぇルイ! 鹿食べる?」
「鹿? そんなのあるのか?」
「わかんないっ! たまにあるよ。美味しいから食べて!」
「こう言ってるんだが、あるのか? あったら注文したいんだが」
ルイに言われてニアが確認して戻ってきた。
「父さんったら、もう焼き始めていましたよ」
次々と運ばれてくる料理。
そのなかにはルイがいつもシュプリームで食べていた肉料理もある。
「カレンちゃんはもうご飯をしたのかな?」
向かいに座っているユスティアが訊ねた。
「ん? もうすぐご飯の時間だからまだ」
「ならみんなでお食事できますね」
ルイはどうしてカレンがシュプリームで働いているのか少しだけ気になり、ニアにその辺を訊くことにした。
クレアのおかげもあり、金銭面的な問題は解消されているはずなのだが、もしなにかあるのであればと思ったのだ。
「ここでは飲み物などを運ぶ練習をさせてるんです」
カレンはニアとともに、メディアス邸でメイド見習いという形でお世話になっている。
これは給金のためというより、ニアとカレンが一緒にいられるようにというメディアス家の配慮だ。
ついでに執事やメイドの貴族に対する接し方や、その逆である貴族としての振る舞いなどもメディアス家では教えていた。
控えめに言っても、カレンは英才教育を自然に受けているような環境だ。
またこんな小さな女の子がメディアス家に入ったことで、カレンはみんなからの人気者になっているらしい。
「メディアス邸は楽しいみたいだな?」
「うん! あのね、みんなには内緒って言われてるから、内緒にしてくれる?」
この不穏な言葉にニアとクレアが、ん? っという顔をして注目する。
「わかった。なにかあるのか?」
「執事のウィリアムさん知ってる?」
「あぁ。何回か会ったことはある」
「たまにみんなには内緒なんだけど、お菓子食べさせてくれたりするんだよ?」
「――それは本当ですか?」
カレンの話を聞いたクレアが、少し非難が混じったような声色で確認していた。
「う、うん……内緒にしてね?」
「はい。内緒にしますね」
「なにか問題あるのか?」
「いえ。前に私が同じようにお茶に誘ってあげたことがあったのですが、カレンちゃんの教育に関わると言って、私には控えるように言ってきたのにウィリアムは内緒でやっていたなんてズルいと思いまして」
「随分カレンは人気者みたいだな」
「本当に申し訳ないくらい、よくしていただいております」
エドワードの忘れ形見というのもあるのだろうがそれとは別に、カレン自身人から好かれるような子供なのだろうとルイは感じていた。
そのあともカレンは止まることなく喋り続けていたが、時間が進むにつれてコクリ、コクリと眠気が出て眠ってしまった。
カレンとニアはそのまま実家であるシュプリームに泊まることにし、ルイたちもお開きという感じになる。
「食事も堪能したしルイくん、そろそろ帰ろっか?」
「ああ、そうだな」
なんてことないルイとユスティアのやりとり。
なのだが、このやりとりにクレアが反応した。
「先生? 帰るって、どこに帰るつもりですか?」
クレアがなにを言っているのかよくわからなかったルイは、ユスティアと顔を見合わせた。
「どこって、ルイくんのお家でしょ?」
アランはまたか、という感じでため息をつく。
「ルイはしばらく聖都にいなかっただろ?
さすがにその間も先生がルイの家にいるのは気が引けたようでな、最近はメディアス家にいらっしゃったんだ」
「そういうことか」
ルイはジルニトラのところに行くまでの間、ユスティアはルイの家にいた。
それがそのままルイのなかにはあったので特になにも感じなかったのだが、クレアたちはルイのいない期間のことがあったので噛み合わなかったということだ。
横で見ていたエリスも、ユスティアを見て困ったような顔をしている。
「丁度いいし、ユスティアも家を決めたらどうだ?」
「私だってそうしようと思ったことはあるのよ?
でもデューンが持ってくる物件はどれも広過ぎるのよ。
もっと小さい物件を持ってきてって言ってるのに、神騎としてのなんだかんだ。
広いならメイドを必要なだけ手配しますとか言って!
それが嫌だって言ってるのに逆のことばかりして、私嫌がらせされてる?」
きっとユスティアの言ったなんだかんだという部分は、貴族社会や立場的なことがあるのだろう。
ルイはエスピトのユスティアの家を思い出したのだが、ユスティアの家は割とコンパクトな印象だった。
むしろそれはユスティアだけではなく、エスピト全体でそんな感じであった。
王族や元老院のエルフも大きな屋敷に住んでいるということもなさそうで、この辺は人とエルフの文化の違いなのかもしれないとルイは思った。
「神騎に嫌がらせなんかできる貴族はいないだろ。
まぁユスティアの言ってることも俺はわかるが、デューン将軍もいろいろ大変そうだな」
結局この日からまたユスティアはルイの家に転がり込み、以前と同じようにクレアもついてくることとなった。
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